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第三十七話 帰省すると案外やる事は多い


「で、実家の飯は美味かったか?」

「フツーです。まあ懐かしい感じはしましたけど」


 帰省三日目の午前、俺はオーメル・クライライ公爵の屋敷にいた。強制的だとは言え、何かあるかも知れない学園に放り込んだ張本人に報告しなければならないからだ。実際、色々あった。思い出したらこのクソエルフに対する恨みが増す。


「昨日はキャンプしたんだろ?」


 俺の怨恨篭った視線をスルーするクソエルフ。権力の椅子に座っているだけあって図太い。

 昨日はキャンプに出かけた。フージレングの公都からちょっと外に出れば森が広がっている場所がある。そこはキャンプ場となっていて、恒例のボーイスカウトキャンプもそこで行われた。

 家族団欒でキャンプに来るのは珍しくもなく、昨日は両親に加え近所の皆と森に行って騒いだ。そう、騒いだのだ。

 川辺にテントを張って男は山に鹿狩りに、女は井戸端会議、俺達ガキは川で魚捕り――という名の喧嘩をするのが恒例だ。

 喧嘩と言っても派手に立ち回っているだけで別に流血沙汰にはならない。尚、フージレングでは流血とは血で水溜りが出来る量が流れる事でちょっと切った張った程度ではカウントされない。それと鬼ごっこ地味た立ち回りとか言いつつ熱が入って割とガチな殴り合いに発展するのがデフォだ。そしてそれは容認される。頭おかしい。

 俺なんて久々に帰ってきたからって集中砲火を受けた。オーガ族のあんのやろう、ちょっと見ない間に更に図体デカくなりやがって。つうか何でどいつもこいつも俺をぶっ飛ばしたがるのか。


「熊が出てきて大変だったそうだな」

「大変だったどころじゃないですよ」


 熊は怖い。ほんとにヤベェ。日本じゃ偶にニュースに出てはまた山から下りて来たのか程度だが、ここだとハッスルしまくっている。というか魔法もなしに魔獣を平気で殴り殺す生物とか何なの?


「ギャーギャー叫びながら逃げて何とか大人達に助けてもらいました」

「いや、そこはお前が倒せよ」

「嫌じゃいボケェ! 大人連中だって猪の魔獣に追われてたからそいつらで相打ちさせたんだぞ!」


 取り繕った敬語を止めて叫ぶ。熊と魔猪との戦いとか怪獣映画みたいなもんだぞ。


「死人は出なかったんだろ?」

「熊と猪以外はな」

「そうか。食事が豪勢になって良かったじゃないか。で、学園はどうだった?」

「いきなり本題に入るなよ。ヤベー転生者ばっかで辟易する」

「そうか。やはり星読み達の予言通り愉快な事になってるな」

「愉快じゃねえよ! 鬱陶しいわ脅されるわぶっ飛ばされるわで散々だった! だいたい何だよ、転生者に警戒してたら訳分からんテロが学園で起きて、外に行っても有名なイカレ集団が襲って来るとか漫画か!」

「主人公っぽくて良いじゃないか。それに若き頃のそういう経験は大切だ。私は子供の頃は平穏を嫌って旅に出たものだ。若かった故の過ちだが良き経験だった」


 そんなン百年ン千年前の話されてもな。


「まあ、枉法徇私の奴らに襲われたのは可哀想と言うしかないがな」

「おうほうじゅんし?」

「法さえも曲げて私利私欲に走る連中の意味だが、連中は物理法則や空間も曲げて来るからな。だから長生きしてる者は二重の意味でそう呼ぶんだ」


 犯罪同好会は何とも酷い連中の集まりのようだ。物理法則を曲げるとか平然と言われると普通に困惑するんですが? だがディエゴは呪紋使いだ。後衛なのに何故か大半が格闘戦だったが、本来なら手間暇かけて強力な魔法を行使するタイプだ。即席であれだけの事を出来たのだから、ちゃんとした儀式をすればそのぐらいやれそうだ。


「つまりヤベー奴らじゃん。俺学園辞めて引き篭るわ」

「お前そんなヤベー奴らと喧嘩できる連中に狙われてるのを忘れてないか?」


 クソエルフにクソ現実を見せつけられて思わず顔を両手で覆う。くそう、前世でも無味乾燥で未来が透明な人生を送っていたが、今世では変な上に危ない連中に襲われるとか波乱万丈だな!


「それはいい」

「良くねえよクソエルフ」

「星読みの予言があった以上、平穏な訳がないだろう。何を言ってるんだ?」

「その言い方腹立つ」

「まあ、確かにこちらが予想していた以上に厄介みたいだがな。そもそもアーロン王国自体が厄ネタの上にあるからな」

「そうなん?」


 最早完全に口調が崩れ切った中、オーメルは会話中も続けていた書類仕事の手を止める。

「悪逆帝の城が建っていた場所がちょうどアーロンの王都なんだ」

「フラグだろそれェ!」


 例えるなら前作ゲームのラスボスダンジョンの上に街が建っているようなものだ。本筋に関係なくとも必ずイベントある系の立地である。何かあると宣伝しているようなもので、舐めてんのかと。


「何でそんな所に首都なんて建てんだよ!」

「立地が良いんだよ。魔術的にも。国が起きては潰れての繰り返しで当初の国土的にそこに落ち着いたと言うか? それに五百年前って人間族なら伝説級だ。一々気にしておれんだろ」


 ぐっ、言われてみればそうだ。長寿だったり寿命が無い連中に囲まれていると感覚が麻痺してくるが五百年前って相当昔だ。日本なら戦国時代だぞ。火縄銃から無人機、狼煙からネット、籠から通販だぞ。人生五十年の人間族なら五百年なんて伝説だ。


「一応、大戦終了後にあの辺りの土地を更地にして地面掘り返して何か隠してないか調べたさ。だが、悪逆帝のアーティファクトなら我らの目を誤魔化して隠れていてもおかしくない」

「なあ、重ねて言うがそんな場所に俺を放り込むとか何考えてんの?」

「こっちとしてもアーロンの動向には注意を払っているんだが、予言から転生者がいないと関われないみたいでな。今フージレングで転生者はお前しかいないし」

「クソが! 最初と話違うじゃねえか!」

「これが大人のやり方だ転生者くん」

「ドヤるなクソエルフ!」

「真面目な話な、反対意見も勿論出たんだが悪逆帝復活なんて事態になったら目も当てられんからな。安心しろ、お前の命はデネディアが守るさ」

「十二の子供にそこまでさせるような相手なのかよ悪逆帝って。てか復活すんの?」

「そんなアーティファクトがあってもおかしくない。悪逆帝ジンはあらゆるマジックアイテムを使いこなし効果を増大させるアウターアビリティを持っていた。奴は自分の力の使い方をよく分かっていてな、大陸中からアーティファクトを集め禁呪に手を出した錬金術を保護し強力なマジックアイテムを作らせていた。復活の手段を隠していてもおかしくない」


 厄ネタ多くない? 多いよな? 止めろよ本当に。そういうのはもっと主人公属性持ってる奴に集めるべきだろう。もっとイケメンでそれっぽい能力持ってる奴がいるだろうが。俺なんて怪物に変身するどちらかと言うと悪役側(それも御免こうむるが)だろ。それともメインストーリーの為の前日譚とか言わないだろうな?

 ゲームじゃないんだからそんな訳ある筈がないのだが、こうまでして地雷が埋まってると不安になって嫌な未来を想像してしまう。


「ところで話は変わるが、ヴァレリアのコンサートがこの公都で行われる」

「え? あんたもファンとか言うオチ?」

「素晴らしい歌唱力だと思うが、そこまで熱狂している訳じゃない。だが多くの民が彼女の歌を聴きたがっている。エルダーの方々の中にもファンが多い」

「ミタイダナー。で、それが何?」

「ヴァレリアの公都案内をしてくれ」

「お断り申し上げます」

「既にエルダーの方に会う予定がある。カルチャーショックを受けないようにもといフージレングの恥部を晒すのを最小限にする為にガイドが必要なんだ」


 恥部呼ばわりされるジー様バー様達。否定できないのが辛い。


「ここで断ればお前学園で更に肩身の狭い思いをするぞ」

「そんなもん、いざとなったら気にしないぞ俺は」


 腹立ったり鬱ったりは少しする程度で。


「ここらで印象良くしておけ。例えどうでもいい相手だろうと嫌われればその空気が蔓延して些細な所で面倒な目に合うぞ」

「うっ……」


 言いたい事は分かる。現に変な空気で今は恐れの方が強いが、何がきっかけてこっちに不利な展開にならないとも限らない。無闇に敵を作らないのが社会に生きていくコツだ。前世だとこっちを顧みずに不幸を持って来る奴とかボウガン持ち出すストーカーがいて結局死んだけどな!


「不本意だが分かったよ。転生者つっても十二のガキに仕事をホイホイ持って来るなよなぁ。話はそれだけか?」


 愚痴りながら椅子から立ち上がる。


「私はな。だが星詠みの神殿には行っておけよ。あと研究塔にもな」

「その予定。帰省したらやる事一杯とか何なのこれ」

「実家に帰ればそんなものだ」


 何か実感篭ってるオーメルの言葉を受けながら俺は公王の執務室から退出するのだった。




 星詠みの神殿。公都の外からでも見える何かデッカイ建物。『何か』って曖昧なのは俺の語彙では表現し難いからだ。

 ギリシャのパンテオン神殿みたいに柱が沢山あると思うと鳥居に似たアーチ付きの入口があり、五重塔みたいに積み重なった建物にも見え、それなのに洋風の城かと見間違う程立派だ。

 転生者による文化侵略ではない。単に俺の前世の知識から例えを出しただけだ。だってこっちの世界の宗教全然知らんもん。積極的に知る気もないが。

 ともかく俺から見たら和洋折衷どころか古今東西ごった煮神殿の中に入る。

 日中は開きっぱなしの巨人もドラゴンも安心して通れる門の下を潜った先は見た目の混沌さに反して普通――いや普通って何だよ。デパ地下みたいに受付がごった返してるのが宗教施設の中ってどうよ?

 多種族国家フージレングは種族の数だけ信仰がある。それを一括で星詠みの神殿が行っているので雑多になるのもやむ無しなのかもしれないが、これで良いのかフージレングの皆さん。

 中に入って目的の受付へと進んで行くと建物を支える柱の傍に置いてある椅子に一人の女が座っていて、こっちに手を振っていた。


「久しぶりテリオン。背が伸びたんじゃないー?」


 椅子から立ち上がり親戚のおばちゃんのような馴れ馴れしい女はショートカットの黒髪で肌は褐色、肩出しの妙な法衣を着ていた。妙な女だが彼女の正体は額に付けた装身具の中央に空いた部分からこちらを見つめ返す緑色の第三の目で分かる。

 星詠み達の中核とも言える天眼族の巫女だ。


エルダー達「神託からアーロンがヤバいってよ。すぐに手出しできる口実が欲しい」

オーメル「テリオン使おう」

エルダー達「殺すぞ」

オーメル「年寄り連中怖くて公王できるか! 実は水面下で根回しは終わっていた」

テリオン「大人ってドブだな」


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