表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/47

第三十六話 実家のありがたみは旅行から帰って分かる


「お宅の教育はどうなってんでしょうかねぇ……」

「申し訳ないテリオン殿!」


 役所の来客用一室、ちょっと土埃でデコレされた俺はソファにふんぞり帰っている。その正面では赤みのある銀髪のワイルドな中年獣人が頭を下げていた。


「テリオン、よく吹っ飛ぶよね」

「だまらっしゃい! アルファスさんもさー、ちょっとこれは聞いてないですよ。ベルをそっちに引き渡すだけじゃなかったんですか」

「私はそのつもりだったんだが、直前になって無理やりね」

「その件に関してアルファス殿にも迷惑をかけた」


 部屋の中には俺とベル、そして頭を下げ続けている銀狼族の長であり獣人族代表のガーランドさん、そして肝心の月猫族の長であるアルファスさんだ。

 この黒髪カイゼル髭のおっさんにベルを預ける予定だったのだが、ガーランドさんが横槍を入れてきた訳だ。

 理由は俺と娘との縁談だ。獣人は別に他と違って絶滅の危機に陥っている訳じゃない。

 だが、獣人の中には時に始祖の強い力を持った者が生まれる。ガーランドさんは特に始祖の力が強い銀狼族という種族だ。子供が生まれ難いという事情は無いが、始祖の血が薄くなっているのが問題になっている。

 俺を拳一つで役所の外まで殴り飛ばした少女はガーランドさんの娘だ。名前は知らないが、噂で最も始祖の血が強い先祖返りと言われているの耳にしたことがある。


「本当に迷惑をかけた。私としては顔合わせ程度のつもりだったんだが」

「娘さんが暴走した、と」


 銀狼族の長として是非とも始祖の血を残し続けたいのだろう。尤も肝心の娘は納得してなかったみたいだけどな! ザマァ! …………まさか今後もこんな展開が待っているとは言わないよな?


「まあ、そちらの気持ちも分かるんですが、せめて心の準備ができる時間は欲しいですね。お互いの為にも」


 焦りもあってガーランドさんがこんな強引な手段に出ているのも分かる。子孫を望む種族達の中で獣人は優先順位が低い。

 だからってこんな真似されても困る。


「そうだな。私が浅慮だった」

「まあ今回は水に流しましょう。で、本来の要件なんですけど」


 これ以上うだうだと謝られても埓があかないので、もう無かった事にしよう。ここで詰ってどうこうするつもりも無いし面倒だ。何よりも部屋の中にいる四人の半分が髭面のオッサンである。むさいよココ。


「これがアーロン王国で違法奴隷としてどっかのチート野郎に買われて逆サバ読んで学園に入学して俺を監視しくさっていたベルです」

「…………」


 途端に空気が微妙なものに変わった。この辺りの経緯は手紙で伝えてある。しかし改めて認識してもらおうじゃないか。


「……やっぱ今度あの国の商人達を締め上げないと駄目だな」

「それよりいっそ自由都市潰してしまいますか」


 奴隷時代で散々な目にあった獣人の末裔に、肉体の早熟さと便利な能力を持った希少種族。奴隷商人に対してとてもじゃないが良い印象を抱いていない。


「アーロン王国との交渉はデネディアが担当してるし、自由都市は各国にコネ持ってるんで難しいですよ」

「あの悪魔め……」

「強突張り共が……」


 やっべ、俺が吹っ飛ばされた事以上に変な空気になってしまった。これって俺のせいなのか?




 何とも言い難いと言うか関わりたくない空気の中、俺は早々にベルをアルファスさんに引き渡して役所を後にした。後ろからベルがこの空気の中見捨てやがって――なんて睨んで来た気もしたが無視した。

 俺は公都の中央区を歩く。山のような公都の中腹にあり、同時に天辺の行政区にも繋がっている。フージレングの中で一番の都会と言える立地だが、別に普通だ。

 アーロン王国の王都のような煌びやかさはなく素朴だ。デカい建物はあるが、貴族の館と一目で分かるような建造物はなく、家同士の間隔も広くて四方に広がる庭がどこの家庭にもある。

 庭と言っても殆ど家庭菜園用のスペースだけどな。皆、だいたいここで故郷の食べ物栽培して家庭の味を作り出す。中には薬に使う薬草を栽培している者もいるが、偶に法に引っかかってしょっ引かれる馬鹿もいる。

 ちょっと変わった農園かな? と思える風景の中を進んでいくと、畑ではなく一本の木が見えてくる。その木の隣にある木造二階建ての俺の実家だ。

 庭に生えている木は林檎の木である。林檎の収穫時期と言えば十月で早くて八月ぐらいか。だがこの林檎は三ヶ月に一度のペースで実を付ける。野生の場合は味が薄いのだが栄養剤をぶち込んでいる栽培モノは味も普通だ。

 フージレングの一般家庭なら畑だが、ウチは両親が共働きなので面倒を見る手間を省いてこの木だけを育てている。別にウチは貧乏じゃない。父は兵士で安定(命の危険が無い訳ではない)している中流家庭だ。ただ母が結婚前から勤めていた所が母をパートでも良いから残って欲しいと懇願した為だ。世俗の情は切りにくい。

 木を前にして見上げると、少ないけど実が成っていた。いつもは使う分だけ採っているのだが、俺が帰って来ると聞いて料理に使ったのかもしれない。

 懐かしくなって俺は木に登り、実を一つもぎ取って皮ごと齧り付く。


「甘酸っぱ!」


 半年程度なのにやけに懐かしく感じる。

 故郷と言うか実家の味を堪能していると、不意に家の方からドタバタと音が聞こえてきた。あー、これは気づかれたか。

 家のドアが開き、中から出てきた人影が真っ直ぐにこっちを見上げる。仕方なく木の下に降りると同時、人影が飛びついてきた。


「お帰りテッちゃん!」

「あーはいはい、ただいま」


 手を伸ばし顔を押さえつけて抱きしめを防ぐ。

 ベルとそう変わらない見た目をした一見少女に見えるのが俺の母親であるリュウナである。まだ十二の息子に身長を既に抜かれた母の外見は言いたくないがロリロリしい。こんな母を嫁にして子供を産ませた我が父はロリコンの謗りを受けるのは当然と言える。


「寂しかったぁ! 大丈夫? 病気とかしてない? ちゃんと食べてた? 学園でお友達できた?」

「ボチボチ」


 顔を押さえつけているのに抱きつくのを諦めようとせず、それどころか矢継ぎ早に質問を重ねてくる母を適当にあしらう。

 前世の母親との違いもあって、別に嫌ってはいないのだが苦手だ。


「今日、仕事は?」


 開け放たれた玄関から良い匂いが漂って来ている。ついさっき用意したような感じではない。


「早上がりよ。テッちゃんが公都に到着したのを聞いて上司が今日はもう上がって良いよって。お言葉に甘えちゃった」

「おとんは?」

「忙しいみたいだけど夕飯までには戻るって」


 多分、同僚達から嫉妬のシゴキを受けているのだろう。周囲が母に甘い反面、父にはわりかし厳しい。厳しいと言ってもイジメではなく男共のよくあるやや乱暴なコミュニケーションと言う奴だ。合法ロリ嫁を手にした父のせいで俺までロリコン扱いされる事があるので丁度良いと思う。


「ふーん。取り敢えず家ん中入ろう。恥ずかしいってぇの」


 母が大騒ぎしたせいで気付いたご近所様がこっち生暖かい目で見ている。久しぶりの方々に挨拶されて、こちらも挨拶を返すが抱きつこうとしている母が鬱陶しい。

 あらあらうふふ、と手で口元を隠しながら微笑ましそうにする奥様方の視線がキツい。

 引き摺るようにして母と一緒に家の中に入り、ドアを閉めてようやく一息付く。


「今日の飯なに?」

「猪肉のハンバーグよ! 食後のデザートにアップルパイ! テッちゃんの大好物を用意したから沢山食べてね!」


 ハンバーグは確かに好物だがアップルパイはそうでもない。嫌いではないのだが、庭に林檎の木がある関係上よくおやつとして出て来たのでバクバク食ってたら好物と勘違いされた。別に困らんしそのまま訂正せずに放置しているが。


「おとんが帰って来るまで荷物の整理してるわ。届いてる?」

「部屋に運んでおいたわよ」

「ん、あんがと」


 母は夕食の準備に戻り、俺は階段を上がって自室に入る。

 学園に向かう前と比べ、向こうからこっちに送った荷物が中央に置かれている以外は何も変わっていなかった。埃一つなく、掃除されていた。

 母が掃除してくれていたのだろう。後で礼を言っておこうと思いながら床に敷かれた絨毯の上に転がる。


「あー……なんだかんだでやっぱココが一番落ち着くな」


 フージレングでは多数の種族がいるので自宅内では各々の部族の文化が色良く出ている。ウチの場合は別に拘りもないが現状では獣人系とエルフ系が半々である。これは母が獣人系部族の娘で、父がハイエルフの部下であるからだ。

 で、俺の部屋にはベッドがない床で寝るスタイルだ。個室を与えられる際の模様替えでベッドと敷布団のどっちが良いと聞かれ後者を選んだ。日本人の性だろうか。前世ではベッドで寝ていたが、スペースがあるなら床で寝る。だって寝ぼけて落ちる心配ねえし。

 ちなみに布団を敷くスペースの床は畳だ。ここら辺、自分でも分からないが何故か拘ってしまい、わざわざ父が蜥蜴族の畳屋で買って来てくれた。

 絨毯の上をゴロゴロと転がって畳スペースへ。そしてそこから這いずって窓の縁に手を伸ばし体を起こす。カーテンを開け、窓も開ける。

 その向こうは幼馴染の家、なんて言う古い恋愛ゲームみたいな立地ではなく普通に近所の住宅が広がっている。ちょっと横を見れば山のように広がる公都の町並み。

 俺はそこから視線を外し正面を向いて大きく息を吸い込む。


「――オラァッ、ストーカー共あっち行きやがれやァ! 警邏に通報すんぞゴラァ! ちったァ空気読んで暫くはすっこんでろ!」


 わざわざ喉を変化させての拡声器並の怒声。声が壁や地面に吸収されて消える頃には周囲から近所の人以外の気配は消えていた。

 あー、クソッタレ。この感じもまた懐かしくて涙が出てきそうだよ。


ご近所からのテリオンの評価。

ストーカー被害にあってるけど親の愛情を受けてちょっとスレた程度で済んだ子供。

なおその通りの模様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ