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第三十五話 故郷は良いものだ(強弁)


「そんな顔をするな。私の立場上、一応は聞いておかねばならないのだ」


 手慰みにグラスの中の赤ワインを回すヴァンドラデュ伯。


「私は子々孫々と家族が繋がっていけば良いと思っているので別段純血に拘りがある訳ではない。だがそう考えぬ者もいるし、その考えも理解できる。私としては孫のような彼らの意をある程度汲み取りたい」

「言いたい事は分かるんですけどね」

「テリオン、お前にとって煩わしいと思うのも分かる。決定権はお前にあるが、だからこそ各々はお前に言い寄る。だがな、そろそろ躱すのも限界だろう」

「うっ…………」

「留学したのは一旦距離を置かせるためだとオーメルは言った。だがアピール出来なかった分、今回の帰省ではより激しくなる可能性が高い。覚悟しておいた方が良いぞ」

「うごごごご……」

「そう唸るな。諦めかけていた悲願が達成できるとなれば皆が浮き足立つのも仕方あるまい。素直に女を囲め」

「やだーっ! 一度でもそれやったらもう二度と外に出れなくなるじゃないっすかァ!」


 頭を抱えて叫ぶ。

 女を囲め。つまりハーレムを作れとこの吸血鬼様はおっしゃる。ハーレムと聞けば俗物的な男の夢と言うか欲望の具現化みたいなもんだが、本来は血を絶やさない為の子孫量産システムだ。

 そして俺の場合、正しくその通りとなる。正確には俺の血じゃなくて相手側の血を紡ぐ為のだが。

 俺が魔翼族なんて言う上級種族のデネディアに言い寄られているのはソレだ。

 しつこいがフージレング公国は他種族国家だ。様々な理由で多種多様な種族が一つの大きな枠の中にいる。防衛の為だったり、商売の為だったりと色んな理由でいる訳だが、理由の一つに子孫繁栄がある。

 子孫繁栄を願うのは当たり前だが、フージレングの一部の者にとっては切実な願いなのだ。

 実は一部の種族は絶滅の憂いにある。例えば魔翼族。転生者のアウターアビリティなど霞む程のチート種族であるが、子供が生まれ難い。

 吸血鬼族も同じだ。他にも古代種(エルダー)などの各種族の始祖と言われている連中もそうだ。

 この数十年大きな戦は無くて数を減らしてはいないが、逆に増やしてもいない。

 彼らは自衛できる力を持ちながらフージレングに合流したのは種を存続させたい故だった。

 最終的には混血も仕方無しという結論に至った――のだが俺が誕生した。

 こんな言い方すると俺がすげーような気はするが違う。俺の上の世代が色々頑張った成果だ。色々と。

 ちょっと下ネタ入ったが、兎に角混雑種という雑種犬みたいな新種族の誕生によって燻り諦めかけていた新たな純血の可能性が浮上したのだ。

 俺は種族特性なのか自分の血の濃さを操り変化させる能力がある。その気になればエルフのテリオンとして、上級種族の吸血鬼のテリオンにもなれるのだ。勿論、完全じゃない。純血に近い血の濃さを再現できる程度だ。

 だけど少なくとも他種族との混血よりも種族の血の濃い子供を作れるのは確実だ。

 加えて質の悪い事に、フージレングのマッドな魔術師共の俺の細胞を採取し検査と実験をした結果、出生率の低い種族相手でも高い確率で子供を残せると判明したのだ。クソが。

 純血に近い子を残せる。高確率で子供が作れる。それだけでもう子供が出来にくい種族連中は目の色を変えた。

 ウチの娘を嫁にと多くの部族が俺へと売り込みに来て非常に鬱陶しい。今もだけど俺子供だぞ。自重しろやお前ら。しかも俺が転生者だと知れると親を通していた縁談が直接俺の所に来るようにもなった。

 当時、俺の種族と転生者だと言う事を見抜いたクソエルフがいなかったら監禁(誇張表現)ルートだった。

 クソエルフことオーメル・クライライもハイエルフの長だ。他の希少種族ほど切羽詰っていないがハイエルフの人口が減少傾向にある中でよく俺を庇ってくれていた。そこは感謝している。学園にぶち込んでくれたのは許さんがな!


「それよりも今回、各種族の長達が公都に集まる」

「え? 何でですか?」


 フージレングの国土は部族の長がそれぞれ自分達の領域で分けられている。吸血鬼族のヴァンドラデュ伯もその一人だ。多数の種族がそれぞれ治めているから一般的に想像できる領地とは少し趣が違って、かなり独自色と言うか権力が大きい。多数の国家が一つになっているようなものだ。

 だから、連中が一箇所に集まるのは半年に一回の議会だけで、普段は代理が公都にいるだけだ。


「隠居生活をしているエルダー達もな」

「いや、だから何でですか?」

「歌姫のコンサートの為に決まってるだろう」

「バッカじゃねえですか?」

「そう言うな。心を腐らせずに長生きする秘訣は世俗を楽しむ事だ。怠惰は水や血の流れを絶やし濁らせる」


 長寿として知られるエルフ族をはじめ寿命や老衰とは無縁の上級種族がフージレングにいる。最上位のジー様バー様連中も年中趣味に走っている。

 仕事を定年で辞めた老人が老後になって勉強したりするのと一緒だ。だから分からなくもない。分からなくもないが、それとこれとは別だろう。


「折角の故郷だ。随分と疲労しているようであるし、実家でゆっくりとする時間ぐらいはあるだおる」

「……分かりますか?」

「何があったかは知らんが、足音が軽い。痩せたな」

「ええ、まあ……」


 栄養は補充できたが全身の変化に加えて戦闘で傷の修復と幾つもの変化を何度も行った。おまけに魔力炉用とは言え心臓を一つ消費した大魔法の使用だ。

 見えない部分での疲労は残っている上に精神的なものもある。

 ヴァンドラデュ伯の言う通り、安心できる場所での休息が必要だ。

 でも実家は実家で油断できない環境なんだけど? 果たして俺の今世に安らぎはあるのだろうか。




 吸血鬼御一行様と合流した俺達はその後、特にトラブルも無くフージレング公国の首都に到着した。

 アーロン王国の王都やその他の都市にはある防壁が公都には無い。

 平原のど真ん中に山が生えて来たような物体がある。よく見ればそれが建物の増改築を繰り返した無秩序極まる事故物件だと分かるだろう。

 必要性と勢いに任せて増やし、後になって正気に戻って何とか体裁を整えようとしてよりおかしな都市になった。そんな雰囲気の場所こそ我が故郷である。

 大砲を一発でも撃てば民家どころかお偉いさんの家に当たりかねない公都の防衛力はどうなってんだという疑問が当然思い浮かぶが、何かあれば都を捨てて逃げるのがフージレングクオリティ。

 獣人をはじめ大体が流浪の民であり、特定の地域に暮らしていた種族は本来の故郷に逃げれば良いだけだ。前者はゲリラとして異常に質が悪く、後者は天然の要塞と言うか最早隠しダンジョン並なので何も問題はない。

 だけど一応、公都にも防衛機能はある。取り敢えず付けてみたと言うか、折角だから色々やってみた的な魔法バリヤーがある。

 年に一回の起動テストではバリヤーを攻撃する行事があり、一般部門と兵士部門に分かれて大会が行われ貫通した者または集団には賞金が送られる。ただし上位陣は除外な。

 こうして考えると、我が第二の故郷はつくづく頭のおかしい国だ。

 さて、公都に到着した俺達だが既に解散してそれぞれの場所へと向かった。デネディアは道中俺に対して何も出来なかったのを残念そうな顔をして魔翼族の巣窟(やしき)に戻った。ヴァンドラデュ伯とバートリ夫妻はエルダー特区へ。歌姫ことヴァレリアは国賓用の屋敷に行った。

 そして残る俺とベルだが、獣人達が主に暮らしている地区を歩いていた。

 すぐに実家に戻っても良かったがベルを案内してやる必要がある。それにまだ昼でおかんは組合の受付の仕事、おとんは兵隊。二人が揃うのは早くとも夕方だ。

 到着次第、獣人の役所に行くよう言われている。月猫族は吸血鬼族傘下の種族だが、その外見上月猫族は獣人族と関わりが深い。

 ベルが獣人の奴隷として勘違いされていたように、月猫族は獣人との混血が多くその中で月猫族の血に目覚めた者が大半だ。

 だから月猫族を探すには獣人の情報網を頼る方が効率が良い。

 そんな訳で獣人族役所に移動中な訳だが、ベルが物珍しげに街を歩きながら見回してお上りさんと言うか観光客ムーヴをしていた。


「そんなに珍しいか?」

「色んな種族がいる」

「王都と比べるとな」


 ここら辺は獣人多めだが、ドワーフ多めエルフ多めと地区によって比率が違う。中央区になるとよりゴチャゴチャしている。

 獣人が多くいる地区は道行く人々に獣の特徴がある以外は人間が主体の都市とそう変わらない。勿論、部族などの伝統衣装などそう言った地域ごとの文化の違いはあるが、そんなのどこに行っても同じだ。

 そもそも獣人族は混血が激しく、例え見た目が普通の人間族でも先祖のどこかに獣人の血が混じっていてもおかしく無いし、その逆も然りだ。

 獣の因子が入っていると言っても別にそこまで獣染みていない。確かに身体能力が高い傾向にあるがぶっちゃけ萌え要素的な獣耳と尻尾だけ生えてるオタクの夢のような奴もいる。勿論男もな。

 じゃあ何で獣してんだよと疑問も沸くが、現存する獣人は悪く言うと雑種だ。色んな獣の因子が喧嘩して半端な能力しか発揮できないらしい。

 中には特定の因子が強くエルダークラスの能力を持つ先祖返りが発生する獣人もいるが、それはもう単純に種族が違うレベルだ。

 まあ、そのレベルの違う種族が隣で首を右往左往している訳だが。


「公都見学はまたな。どうせこれから飽きる位に見るんだから」


 ベルを急かし、役所に移動する。

 獣人用役所と言うように、各種族で役所が違う。不便だが、種族ごと部族ごとによって成人年齢や社会性が違ったりしているので色々試行錯誤した結果、今のような形に落ち着いたらしい。

 一応はフージレング全体での決まった制度はあるが、それに加えて自分らのコミュティのルールにも則る。更にややこしい事になっている気もするが、どっちも別にガチガチではないし、その辺りの問題はフージレング樹立の際の擦り合せで解決されている。

 ベルを役所に連れて行くのは養子縁組とか戸籍云々の登録を兼ねての事だ。そこで保護者となる月猫族の長とベルを引き合わせる段取りにアーロン出発前から決まっていた。

 俺達が来たのを入国時点で既に報告が行っている。公都に到着した事も伝わっているだろう。

 お遣いを済ませて気が楽になりたいと思いつつ、煉瓦造りの役所に到着。

 ホテルの「予約してました○○です」という感じで受付のおばちゃんに言ったら課長クラスの人間が出てきて案内を始めた。仕事だと分かっていても十二と八の子供に下手に対応する大人を見ると非常に悪い事した気分になってくる。

 早々に彼の仕事を終わらせてやるべきだろう。

 早々に部屋の前へと案内して貰い廊下を歩――いていたところで向かう先の部屋のドアが中から勢い良く開いた。

 あまりの大きな音を立てて開いたので案内してくれた人も俺やベルも足を止める。

 ドアの向こうから現れたのは獣人の少女だ。見た目からしてベルと同い年に見えるが、そもそもベルは詐称して学園に入学していた八歳児である。だが元々獣人は成長の早い傾向にあるので何とも言えない。この世界、外見年齢がアテにならなすぎる。

 獣人の少女は蒼銀の癖のある髪を持ち、狼と思われる耳と尻尾を持っていた。

 ……銀系統の色に狼系の特徴? あっ、ヤベッ。

 少女の青い瞳が俺を睨んでいる。


「知り合い?」

「知らないが心当たりがある」


 答えながらベルを横に押しのける。直後、蒼銀の少女が消えたと思ったら俺は役所の窓(三階)を突き破って外へと吹っ飛ばされていた。


フージレング公国でテリオンが重要視されたり、テリオンがお偉いさんに毒を吐くのは種馬が故。

政略どころか種の存続が掛かっているから仕方ないね。

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