第三十四話 血って栄養あるらしいね。
吸血鬼族。地球でも創作物の怪物で有名なアレだ。漫画やアニメでも大人気でヒロインだったりラスボスだったりするが。だいたいは強い種族として登場していて、太陽に弱いとかいう設定は無視されがちでもある。
で、こっちにいる吸血鬼族は地球のとだいたい同じ。ただし太陽も特定の貴金属が普通に効く。
精神性は普通の人間と同じで別に無差別に血を吸ったりしない。そもそも血を吸って生きる種族だが主な栄養の搾取法が吸血なだけで別に人間じゃなくても良い。
上級種族だが、吸血鬼族と言われているのはほとんどがハーフだ。純血は数が少なく希少種族の一つに数えられている。
重要なのは純血の吸血鬼族は魔翼族とタメ張れる戦闘力を有しているという所だ。吸血鬼族が活動できる夜の間に喧嘩を売るの魔翼族でも自殺行為だと言われている。
昔、散々アマゾネス行為をしてきた魔翼族が嫌われながらもフージレングの一員になれたのは吸血鬼族という対抗できる者達がいて、彼らが仲を取り持ったからだ。
「本来なら直ぐにでも挨拶するべきなのだが、日が出てる間は体質の都合上外に出れない身なのでね」
「いえ、今晩はお招きありがとうございます」
席に座ったカール伯とヴァレリアの挨拶が終わってから、食事が開始された。
一品ずつ出るコース料理かと思ったが、別にそういう訳もなく普通にセットで出てきた。飲み物は大人達がワインで子供組はジュースだった。
「かの高名なカール・ヴァンドラデュ伯にお会いできるとは光栄です」
「私など小さな森を任されているだけだよ」
小さいと言っても魔境である。
フージレング公国の南にある辺境の小さな森林地帯がヴァンドラデュの領地だ。その森は特に名前はなく、そのままヴァンドラデュの森とか呼ばれている。
その森は日中であろうと暗く、常に霧が漂っている。大昔、魔術師の実験場であったらしく多種多様な魔導生物が生息し生態系の一部として根付いている。だからか奇々怪々な生物が闊歩していて非常に危険だ。
同時に夜に生きる夜行性の種族にとっては居心地の良い環境であるのは間違いない。そんな場所を支配しているのがヴァンドラデュ辺境伯だ。
「長生きなだけの私よりも、貴女こそ素晴らしい。若い身なれど歌姫としてその名声を国元だけでなく大陸中に轟かせている。歌自慢の種族は多いが、彼らでも君の歌唱力に一歩劣る」
ベタ褒めだなぁ。あっ、このエビうめぇ。どうやって海鮮物を持って来たのか。いや、魔法で凍らせるなりした上で空間を圧縮なりしたんだろうけど。そんな高度な魔法をほいほい使える上級種族はこれだから。
「そこまで言われてはこそばゆいですわ」
「いやいや、実は言うと私も君の歌声に魅了された者の一人でな。無遠慮だと分かってはいるがサインを一つ貰いたい」
「私ので良ければ喜んで」
「ならばこのマントに是非!」
そう心なしか少年のような弾んだ声でどこからか取り出したのは裏地が赤の黒マントである。
これぞ吸血鬼って感じのマントに吸血鬼の長はアイドルのサインを書いてくれてと頼む光景はシュールだ。しかもマントは森で得られた素材で作られた値段のつけられない一品だ。少なくともアーロン王国で見られない生地であり、目の越えた貴族なら内情を知らずともそれがお宝だと分かるだろう。
「分かりました。何か書く物を貸していただけますか?」
しかし歌姫は狼狽えない。吸血鬼族の奇行もマントの価値も目の前にして。
「ジェルジュ」
「はっ、こちらに」
そして一瞬で椅子からヴァンドラデュ伯の傍に移動していたジェルジュさんがインク壺と筆を持って恭しくヴァレリアに差し出した。この人も混血とは言え吸血鬼族だからスペック無駄に高いんだよな。街で屋台のオヤジが腕力で物を言わせて来ても、この人らなら指一本も使わず気絶できただろう。それはそれで騒ぎになりそうだが。
ヴァレリアは手馴れた様子でマントにサインを描く。どうして芸能人のサインってあんな走り書きみたいなんだろうか。正直言って読めねえよ。
「うむ! これは大事させてもらおう」
そんな満足そうな笑顔浮かべて『うむ』とか。髭ダンディが童心に返ってる姿なんて見たくなかった。
「良かったですわね、カール様!」
「これは家宝と一緒に城の金庫に大事に閉まっておきましょう」
バートリ夫妻が言う城の金庫は勿論ヴァンドラデュの森にある城の金庫だ。入った事も近づいた事もないが、人伝に聞いた話によれば異界化しているらしい。魔境の中に異界があるとかどんなラスダンだよ。
偉人が有名人のサインを貰ってはしゃぐ光景が夕食の時間に繰り広げられた訳だが、それにツッコミを入れる者はいない。俺? やだよ。吸血鬼族の長とか本来なら雲の上の存在なのに。
興奮も一段落した頃、落ち着きを取り戻したヴァンドラデュ伯がこちらに意識を向けた。
「ところで、そちらの少女が新たに見つかった月猫族かな?」
「はい。ほら、挨拶しろ」
黙々と飯を食っていたベルの肩を叩き、耳打ちする。
「月猫族の集落はこの人の支配地だ。大地主みたいなもんだ」
月猫族も夜行性グループに入っている。ベルは昼起きて夜寝ているという学生らしい生活習慣のようだが、これは今までの生活が昼に行動していたからそう順応したんだろう。
相手が身近な偉い人と理解したらしくベルが食器を置いて椅子から立ち上がる。
「……ベル、です」
そう言ってちょこんと頭を下げる。
うぅぅん……まあ、八歳だし? 俺だって人に威張れる程礼儀作法を熟知している訳じゃない。
「可愛らしいお嬢さんだ。月猫族は私の庇護下にあるがそれは名目上だ。そう畏まる必要はない」
嘘だぞ。いや嘘って言うかそれぞれの部族の意思を尊重しているのだ。
「育ち盛りなのだ。よく食べると良い」
「……はい」
ベルが椅子に座る間、ヴァンドラデュ伯が俺の方に視線を向ける。あんた赤い目が怖いんだからあんまり見ないで欲しい。
「テリオン、クライライ公から聞いたがアーロン王国に留学しているそうだな。その若さで他国の異文化を学ぼうとする姿勢は感心する」
すいません。クソエルフの企てなんであって俺の意思じゃないんですわ。とも言えず、穏当な言葉を選んで返事する。
「ヴァンドラデュ伯こそ変わらないようで。今回もまた旅行で?」
「年甲斐もなくな。若い頃は引き篭ってばかりいたからか、その反動で外に興味が募ってばかりいるのだ」
そもそもの原因と言うか、ヴァンドラデュ伯程の大貴族とあんな所で遭遇したは彼の旅行好きにあった。
カール・ヴァンドラデュの放浪癖はその筋では有名だ。吸血鬼という種族上長旅は決して向いていないのに彼は自分の領地を放って旅に出かける。
勿論、吸血鬼の一人旅など自殺行為なのだがそこはバートリ家のような代々使用人をやっている一族がついていく。
表向きは商隊だったり家族旅行の体を取りつつ、その実態は吸血鬼様御一行だ。隠しボスがフィールを徘徊してるレベルである。『逃げる』コマンドが使える分マシではあるが。
「学園生活はどんな調子かな? 私は家庭教師から学んだので学校と言う環境を上手く想像できないのだが」
「子供の国って感じですね」
前世の学生時代の経験も踏まえて例えてみた。実際、学校とは小さな社会だ。カースト制だ。イケメンが持て囃され特技のないモブは無いものとして処理される。
でも物理的な命の危機という点で言えばアーロン魔法学園はクソ最悪だけどな。いや、貴族の子供連中が幅利かせてるのであらゆる面で魔法学園はクソなのではないだろうか? ちょっとー外国(実家)の介入許しまくりだろうよー。
「フフッ、なるほど子供の国か」
受けたらしくヴァンドラデュ伯が微笑する。どうでもいいけど貴方様が笑うとラスボスっぽいので止めて下さい。
ヴァレリアもヴァレリアで何が面白かったのか声に出してはいないが笑っている。一体何がおかしいのか分からない。
そこから学園の事やヴァレリアの芸能活動などの話題で夕食会は進み、宴も酣の頃に解散となった。酒を飲んでいた大人組は大して酔ってはいないが、まあ子供がいるのだから自重したのだろう。デネディアはヴァンドラデュ伯からワインを一本貰っていたが。今夜は奴に近づくのを止めよう。
そんな訳で解散したのだが、俺は呼び止められて居残りだ。
夕食時に使われた食器は既に片付けられ、テーブルには飲み物とツマミだけが置かれている。
席も上座にヴァンドラデュ伯が座っているのは変わらずだが、俺は二番席に移動している。
デネディアは勿論、バートリ夫妻も退出させたという事は他に聞かせたくない話があるのだろう。
フージレングでも最強の一角の吸血鬼族の長との密談とか怖いんだが。
「さて、シーザーの息子テリオンよ」
「はい」
「随分と若い花嫁だな。やはり子は親に似るのか?」
「ちげーから。なにいきなり爆弾ぶっ込んでるすか」
「若い吸血鬼から聞いたのだが、昨今ではロリ吸血鬼が流行っているらしい。うちのメアリは可変式だぞ」
「フージレングのお偉いさんはこんなのばっかりかよ!」
所詮はクソエルフの友人である。
<吸血鬼族>
名前の通り血を主食にしている種族。血が主食なだけであって別の物でも代用可能。好物は血のゼリー。
明確な弱点はあるがその力は魔翼族に匹敵し、彼女らでも夜での戦闘は避ける。
陽の光:燃えるゥ! あと太陽が空にあるだけで力が弱る。
鉄製:ちょっとアレルギーの気あり。銀? 体内に入ったら普通に毒じゃん。
炎:誰だって熱い。
流水:平気。雨とかどうすんのよ。
十字架:別に。ただペケよりマルの方が良いよね。
結論としては吸血鬼を殺すには昼にリンチにするしかない。




