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第三十二話 最近気の抜けない日々が続いています。主人公ってよくストレスで倒れないよな。


 アーロン王国からフージレング公国へと続く道は整備されている。より正確に言うならアーロン王国建国以前の国々が作った物を再利用しているだけなんだが。

 だからか道のデザインと言うか趣が所々違っている。自分の国の物にしといてデザインは昔の国のだからって、壊れた箇所の再現諦めるなよ。デザインを似せようとする努力も感じられず、モザイクみたいになっている。

 そのせいか時折不意打ち気味な揺れがあった。だが流石大使様の馬車だけあって多少の振動など物ともしないサスが施されているので尻は痛くない。

 どこの高級ソファかよ言いたくなるような馬車に備え付けられたフカフカのソファ。小型の冷蔵庫(動力:魔力)もあってちょっとしたリムジンに乗っている気分。実際、寝転がれる程大きい。

 窓のカーテンを開けて外を見れば、前世では見ることの無かった大自然な光景が電車みたいな速度で通り過ぎていく。

 馬がね……筋骨隆々なマッチョUMAなんだよ。だから? 普通に電車と同じ速度で走り続けても普通なんだ。普通なんだよ。

 勿論、この魔法のある世界だから馬が全部こうという訳ではない。このUMAもとい馬が特別なのだ。何がどう特別かと言うと、訓練を受けた馬なのだ。

 訓練を受けたから電車並の速度で一日中走り続けられるとかどういうこっちゃと思うだろうが、ここは魔法のあるファンタジー世界。ファンタジーなんだよ。

 生まれ変わって十二年。時々前世の価値観に引き摺られ時がある。普段はふと思ってもすぐに別の事に意識が向くのだが、今日は何だかそれが長い。

 学園に来てから自分以外の転生者との接点が増えたせいなのもあるだろうし、何よりもヴァレリアがいるのが原因だろう。

 目だけ動かして窓から見える景色から視線を移し広い車内を見る。

 俺の横にはベルが椅子の上で猫のように体を丸め眠っている。さっきまで起きていたのだが、窓から外を眺めている内に眠くなったのかいつの間にか寝ていた。電車とかの振動に揺られていると眠くなるから仕方ないよな。

 俺の向かいの席ではデネディアが優美に読書に洒落込んでいる。見た目もあって何とも絵になるというか何と言うか。だが、ベルが寝ている姿を見て『あざとい』なんて小言でほざいていたのを俺はしっかりと耳にしている。

 最後に俺達三人から離れた場所にはアーロンの歌姫であるヴァレリア・イシュタナがいた。

 この間の学内コンサートでその姿を見たばかりだが、普段の学園生活の中でも何度か見かけている。

 コンサートのような派手な衣装でも制服姿でもない。ワンピースドレスの地味でもないが決して人目を引くようなデザインではない歌姫が着るにしては普通の格好だ。

 ヴァレリアが何故ここにいるのかと言うと、どうやら彼女はフージレングでコンサートを行う予定らしい。別に俺達の帰省に同行する必要なんてないのだが、ヴァレリアにはヤッベーストーカーがいる。

 ストーカーの名はアナスタシア。王都の外のコンサートだろうが何だろうが後を追ってくる奴にヴァレリアのイシュタナ家――芸能事務所的役割をしているらしい――も辟易しており、いつも対策に頭を悩ませているようだ。それは学内コンサートの時に嫌でも知った。

 今回もまた対アナスタシアにイシュタナ家は頭を悩ませた。ただでさえ厄介なストーカーが増殖する変な生態まで手に入れて理解不能な存在にまでなったアナスタシアからヴァレリアを如何に国外コンサートまで安全に運ぶかを。

 そんな時に話に上がったのがフージレング大使の帰国だ。最悪のストーカーから災厄の魔翼族に守って貰おうという考えが浮かぶ、その交渉は上手くいってこうして歌姫がこの馬車の中にいるのだった。

 そういう事情なら仕方ない、と思っておこう。それよりも当て馬に選んだのがわざわざアマゾネスの魔翼族とか、アナスタシアは物理的に厄介者扱いされているな。あの執着心とドス黒さから考えると当然と言えるが、他の貴族の弱みを握っているのか知らないがいい加減捕まえとけよ。と言うか、この馬車はフージレングの名前掲げてんだから攻撃仕掛ければそれだけで国際問題なんだが……来ないよな? 襲って来ないよな? 前世が予想通りなら何万人と集まるコンサート会場でボウガンとナイフ持って現れるような奴だから可能性が無いと言い切れないのが凄い。いや怖い。

 肝心のヴァレリアだが、デネディアは兎も角何故いるのか分からない俺やベルを前にしても特に気にした風はなくリラックスした様子だ。それどころかさっきからハンカチに刺繍をしている程だ。


「……何か?」


 俺の視線に気付いたヴァレリア先輩が顔を上げる。


「いや、何でもないです。すいません」


 謝って、視線を窓の外に戻す。

 俺より一個上の先輩だが十三歳に見えないほど大人びている。雰囲気もそうだが恵体で既にスタイルが完成されている。後は身長が伸びればハリウッドの女優に引けを取らない美女になるだろう。

 …………今まで出会った転生者の顔を思い浮かべると、それぞれ方向性が違えど美形揃いだ。それに比べて俺は?

 窓のガラスに反射する自分の顔を改めて見る。

 前世の日本人の平ら顔と違って彫りが深く整った西洋顔だが他の連中と比較してイケメンかと言われれば……クソがッ!


「――ッ!?」


 俺の怒気に反応してかベルが顔を上げて左右を見回すが、一通り警戒を終えるとまた眠り始めた。


「その子、学園でも見た事あるわ。可愛い子ね。てっきりステレウス家の従者見習いかと思ってたんだけど、フージレングの子だったの」

「え……何で知ってるんですか?」


 アクセルとベルは無関係と表向きなっている筈だ。それを何故知っているのだろうか。


「見てれば分かるわ」


 見てれば分かるとか言うが、見ただけで人間関係が分かれば苦労はない。


「あなたも何度か……と言うかこの間のコンサートで王女様の隣にいたわね。コンサートはどうだった?」

「凄かったです」


 我ながらどんな感想だよと思うが、ファンでもない無関心だった物に対してはそんなものしか浮かばない。


「それと終わった後も悪い意味で凄かった」

「ああ、アレね」


 アナスタシアの事を言ったのだが伝わったようだ。でもアレって……まぁ、アレって言うしかない奴だが。

 ストーカーに狙われているヴァレリアは当たり前だが嫌そうな顔をしている。


「今回もアレから逃げる為とか」

「ええ、そうなの。大使様にはご協力いただいて感謝しております」

「我が国ではヴァレリア様が来られるのを楽しみに待っている民達が大勢おります。この程度の事ならば喜んで協力しますわ」


 ヴァレリアの感謝にデネディアは外行モードで返事するが自分が楽しみにしているとか決して言わない。多分だが、前世で俺が死んだ場所がヴァレリアの前世と関係しているから因果を警戒しているのだろう。ま、まだヴァレリアの前世があのアイドルって決まった訳じゃないから。

 それとヴァレリアはさりげなくアナスタシアの話題を避けた。下手に奴の名を出すのは止めよう。どうせフージレングまでの付き合いなんだからここは我慢だ。

 この馬車の速さなら明日の昼にはフージレングの国境を越えれる。俺は速く故郷に着かないかと思うのだった。


 翌日の昼前、馬車は国境線上にある検問所に到着した。

 国境にはこういう場所がどこも存在していて、国を跨ぐ時は税とか何やらで金を取られる。

 こういう検問所を見ると、いくらでも迂回できるよなと思うが整備された道が有る無しだと移動速度が違うし何より安全性の問題もある。金を取られるのを嫌がっても別の道から国境を越えても別に明確な罰が下される法律は無いが、何があっても自己責任だ。

 警備をしている兵隊も何も出入りする人間に対してだけじゃなく道の安全も確保している。だから金を取るのも当然だろう。

 ただ今回は大使であるデネディアが一緒なのでそこはフリーパス。ヴァレリア先輩もフージレングに招待されている客なのでそこら辺の手続きは終わっている。

 バックに国がいるとこういう時楽で良い。俺も学園に入学が決まった時は面倒な書類手続きは全て済んでいて検問所も公爵の手紙で一発だった。何でこういう時だけ仕事が早いのだろうかあのエルフは。


「どうせだからどっかの店入るか。ベル、下手したらアーロン飯はこれで最後になるかもしれないから味わって食えよ」

「ん」


 時間が時間なので検問所から発展した街で昼飯を食べてから出る事になり、俺はベルを連れ立って街をブラついていた。

 デネディアはウザいので馬車に置いてきた。ヴァレリアさんは街を出歩いて歌姫だとバレると騒ぎになるので馬車で自主待機である。有名人は大変だな。


「何か食いたい物あるか?」

「お肉食べたい」

「肉かー」


 飯時だからかさっきから匂いしてるもんな。仕事帰りに駅のホーム降りた時とよく似た感じだ。駅前とかリーマンや学生を狙って飲食店が多く、漂ってくる飯の匂いが財布の薄い身では辛かった。スーパーの半額弁当や冷凍食品ばっかり食ってたなぁ。


「この際だから一つの店に入らず色々屋台を巡って食べ歩きするか」


 それに子供二人でそこそこな店に入るとスリとかに狙われ易いからな。

 飢えた八歳児を連れて国境を越える人間を狙った屋台を渡り歩く。

 濃い目のタレが掛かった串焼きなどB級グルメな物から菓子代わりに甘い小さな果実を店先で売るフルーツ屋にも寄った。

 ただ問題もあった。


「これ、魔獣の肉」

「だよなぁ……」


 とある屋台に並べられた串焼きを見つけベルと一緒に疑いの視線を向ける。

 店は鶏肉と謳ってはいるが、焼かれた肉の臭いからしてカエルの肉だ。それも牛並みにデカいカエルの魔獣だ。

 馬や豚をはじめとした前世の地球と同じ野生動物がこの世界にいるが、中には魔力を取り込んで変な生態に目覚めるのがいる。魔力を宿しそれを元にした機能を持ったのを魔獣と言う訳だが、大型カエルの魔獣は単純に魔力を生命力に変換して超成長しただけのパターンが多い。

 食べた時の感触は鶏肉に似ていて味もまあ食えるレベルだが、魔獣の調理には国から認められた資格がいる。煮ても焼いても細胞に急成長に使われ変異した魔力が残っている可能性があるからだ。

 狩人などが自己責任で食うなら問題無いのだが、商売となると話が違う。魔獣の肉を取り扱っている店はそれを明記し資格持ちである事を明言する義務がある訳だが……あの店アウトだわ。


「後で警邏にでもチクっておくか」


 子供の言う事でもデネディアの名前出しときゃ調べはするだろ。ほんと権力様々である。

 えんがちょ、という感じで違法屋台を迂回してまともな店へ向かう。

 例の屋台は客寄せで声を張り上げ通行人達に呼びかけているのが聞こえる。


「そこのご夫婦! どうですか特製タレを漬けた串焼きは。お安くしておきますよ!」

「いえ、予定がありますので」


 丁重に断っている声に俺は足を止めて屋台に振り返る。


「そうつれない事は言わず。ほら、これなんて焼き上がったばかりですよ!」


 閑古鳥だったからか屋台の人間はしつこい。肉の味がせいぜい下の上なのだからそりゃそうだ。クッソ雑にカエルに魔力を与えて意図的に成長させれば材料費が浮くとか浅い考えだからそうなるんだよ。

 それは兎も角、屋台の人間に絡まれている若夫婦に俺は見覚えがあった。

 どちらも若く美しい夫婦だが着ている服は普通で護衛も連れていない事から貴族階級ではないように見える。

 だから屋台の人間は小金持ちの旅行者か何かと勘違いしているのだろうが、装飾を控え目にしているだけで服の生地は素人の目から見ても分かるほど綺麗で上等だ。そこに気付かないとかあの屋台の人間は本気で駄目かもしれない。

 まあ、屋台側の都合なんてどうでもいい。絡まれてる若夫婦が俺の知り合いなのが問題だ。このまま放置しても大丈夫だろうが、知り合いを無視して去るのも気が引ける。

 俺は仕方なく若夫婦に声を掛けるのだった。


<魔獣>

魔力を使った器官を持つ動物。例:ドラゴン

広義的に見れば、魔術を操る人族も魔獣と言える。

テリオン? ギリアウト。

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