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第二話 チートが欲しかった。派手で手軽なの。


 イジメの現場に居合わせてしまった俺は即座に踵を返して走り出す。先生にチクらねば。


「待て!」

「待てって言われて待つかよ」

風よ(アウレェ)!」

「――ヅゥッ!?」


 いきなり目の前に生徒の一人がいきなり現れて俺の腹を蹴った。勢い良く後ろへと転がるが、何とか受身を取って立ち上がる。


「ウゲッ、ゲホッ……はっや」


 俺を蹴ったのは貴族の坊ちゃんの横にいた生徒の一人だ。彼の足を見ると風が渦巻いている。どうやら風の魔法で高速移動し、更に俺を蹴り飛ばしたようだ。良く見ると上級生のようだった。何で上級生が新入生の手下を――ああ、家の上下関係でか。そりゃあしょうがないか。


「なぁ、いきなり逃げたのは悪かったけどさ。今回はこれで手打ちにしないか?」


 新品の制服に付いた埃を払い落としながら提案する。だが返ってきたのは嘲笑だった。


「ハハハハッ、この状況で何言ってんだお前?」

「いや、事を大事にしたくないだけだ。そっちは今日の所は帰って、俺は何も見なかった。そういう事にしておこうぜ」

「こいつ、本物の馬鹿だ! 自分の立場が分かってねえ」


 リーダー各の少年が更に笑い始め、いつの間にか俺の前後から挟み撃ちする位置に立っていた上級生らも失笑している。


「いやさ、荒事は止めようぜ。だいたいあんたがムカついてんのは今朝そっちの子を庇った奴だろ? それなのに弱い方を狙うって、ちょっとどうかと思うぞ」


 煽らないよう、諭すような口調で言う。実際、上級生を手駒に出来るならそうするべきだ。俺としてはあの、確かアクセルだったか? 転生者の疑いがあるあいつが痛い目みようと全ッ然構わない。寧ろザマァと言っちゃう。その点に関しては応援するぞ坊ちゃん!


「当然、アイツには俺を舐めた罪を償ってもらう。その為のコイツだ」

「あうっ!?」


 貴族の少年が獣人の少女の髪を掴んで引っ張る。


「人前で恥をかかせられた借りはしっかりと返させてもらうさ。自分が庇ったせいで余計に痛めつけられたと知れば、どんな顔をするだろうな? 怒るか、それとも後悔するか。どっちにしろその後で叩きのめしてやる」

「…………」


 怖ッ! 根っから邪悪って感じのサディスティックな笑み怖ッ! お前本当に十二歳かよ! 笑みも考え方もヤベェよ。

 思わず一歩後ずさりする。


「へ、へー。なら俺は関係ないな。誰にも喋らないから帰ってもいいかな?」


 匿名の手紙で出さないとは言っていない。こんなの放置したら学園が支配されるし。


「駄目だ。下手に吹聴されても目障りだから、そんな思考が思い浮かべなくなるまで痛めつけさせてもらう」

「おいおい、俺は留学生だぞ。生まれは平民だがフージレング公国から立場を保証された学生だ。いくら貴族だからって問題になるぞ」

「言ったよな。歯向かう思考さえ起きないようにするって。平和ボケした奴には分からないだろうが暴力からの恐怖は存外に人を縛るんだよ」


 こいつ、本気で危ない奴だ。一体どんな教育受ければ十二でそんな思考を得るのか不思議でならない。それもあながち間違っていないのが危険だ。


「受身を取るぐらいは許してやる。せいぜい我慢するんだな。オイ……」


 貴族の少年が顎で指すと上級生二人が拳を握り近づいて来た。

 入学初日からなんてついていないのだろうか。俺は溜息を吐き、これから起こる痛みに我慢する為に身構えた。




「おー、痛ェ……ベッ。ちったァ加減しろよ。俺、新入生だぞ」


 口を動かし、血と共に折れた奥歯を地面に吐き捨てる。風系統の魔法で横っ面を思いっきり叩かれたせいで一本欠けた。暫くすれば生えてくるだろうが、飯の時に折れた方で食わないよう気を付けないとな。


「さて、と。俺はそろそろ帰るぞ」


 地面に捨てた歯から視線を移す。そこには貴族の少年と上級生二人が転がっている。他にも幹が砕けて倒れた木もあるが、事故だ事故。

 三対一の大ピンチかと思われたがフィジカルのゴリ押しで勝てた。こちとら多種族国家であるフージレング公国で生まれ、野性と区別付かないガキんちょ共と日夜争い育った身だ。魔法? 使われる前に殴り倒せばいいんだよ、と実践する人間の大人よりも身体能力が高い小僧共と一緒にいれば喧嘩慣れしてくるものだ。

 そいつらが成長すると殴りながら魔法を使うようになるのだから手が追えない。逆に魔法が得意な種族は予めトラップを仕込んでたりする。ははは、フージレングは魔境だ。

 それでもやっぱり上級生の相手はキツかった。そもそも囲まれて魔法連発されたら手も足も出ない。だから本気でゴリ押しして勝てた訳だが。


「た、ただで済むと思うなよ」


 気絶した上級生と違い貴族の坊ちゃんは意識がある。まあ、顔以外をぼてくり回したので痛みで倒れたままだが。


「ただで済んでる内だと思うんだけどな」


 俺は忌々しそうに見上げてくる少年の背中に、肥大化し鉱物のような光沢を持った手を乗せて上から徐々に力を入れる。


「ぐっ、く……この化物め!」

「人種差別だぞ。獣人と巨人、あと鉱物人に謝れよ」


 転生者が生まれながらに持っている異能を持たなかった俺はかつて発想面でチート転生者になろうと色々試行錯誤した。まあ何の専門知識もない一般人が思いつく事なんてこの世界の人らも思いつく訳で、ほとんどが空振りしたので諦めた。だが、ある時自分を実験台に試していたら、血に宿る各種族の特徴を体の一部分に変化させれるようになった。

 上級生を二人倒せたのも右腕を獣人の柔軟性からなるスピードと巨人のパワー、石や鉄を食う鉱物人の頑丈さを得たものに変化させた。

 所属特徴の良いとこ取りではあるが、全てを完璧に備えた物というのは難しくバランスを取るとどうしても質が落ちる。それに数秒での変化はかなり痛い。骨はビキビキ肉はギチギチ皮はビリビリ。そもそも急激な細胞分裂をしている訳で、寿命は大丈夫かという話にもなる。これは手から指がもう一本生えた際、医者に見せた時に言われた。

 あーっ、手軽なチート欲しかったなぁ! デメリットも無くて痛くもなくて、強力なヤツをよぉ!


「ぐぅ……」


 思わず少年を地面に押さえつけていた腕に力が入っていたようだ。可哀想なので力を緩めてやる――つもりだったけど気が変わったのでそのまま圧を加える。


「そういや、さっき暴力がどうのって言ってたよな。逆にやられた気分はどうだ?」

「グゥッ!」

「お前の家がこの国でどれだけ権力を持ってるかなんて知らないが、生憎俺には効果は薄いぞ」


 家がどれだけ立派でも実際にその権力を握っているのは親だ。国からの推薦を受けた俺とこいつでは立場は実質どっこいである。


「それにお前が権力を背景にどんなに脅そうと俺はフージレングに帰ればいいだけだ」


 寧ろそうしてくれる方が俺としては有りではなかろうか。それかイジメられたからもう学校行かない、とか言ってみるか? いや、逆に鍛えてやるとか言って魔獣の巣に放り込まれる可能性大だ。


「だからお前が言った暴力で負けを植え付ける手法ってのは正しくある訳だ。でも負けたのはお前だ」

「ガッ、アァッ、き、貴様ァ――ぐはっ!?」


 肥大化した手で少年を握り締めたまま持ち上げて地面に叩きつける。直接ぶつけていないので痛いのは俺の手だが、衝撃はしっかりと響いている筈だ。

 数回叩きつけた後、持ち上げて目を合わせる。


「だからさ、お前負けたんだって。言いだしっぺはお前なんだから、負けた以上はお前が下だ。俺に勝つまでずっとな」


 痛みか悔しさか、それとも暴力によって植えつけられた恐怖がようやく表に出たのか少年の顔が歪む。


「俺に勝てるようになるまでせいぜい大人しくしてろ」


 最後にそれだけを言って、茂みの方に向かって無造作に放り投げる。あー、やだやだ。何の得もねえ。

 右腕を元に戻し、破れないよう捲っていた袖を戻しつつ同様に避難させていた上着と鞄を回収する。その時に視界の端に不良どもと違う人物を見つける。いや、最初から気づいてたけど。


「あ、わ、私…………」


 絡まれていた獣人の少女だ。とっとと逃げれば良いのに、腰でも抜かしたように地面に座り込んでいる。アングルによってはパンツ見えそうなんだが。良い歳した娘がみっともないぞ。


「あいつらが目ェ覚ます前に帰りな」


 返事はない。ビビリまくっているようだ。

 クソがッ! これがラノベ主人公ならキャーステキー、なのによ! 例えば今朝のアクセルさんとかならよォ!

 まぁ、日本人より発育良くても十二の子供なんてどうでもいいが。これで後三年も経てば……結局は俺に縁はないか。前世もほぼ無縁だったからな!

 イケメン、リア充共に呪詛を心の中で吐き捨てながら俺はその場を後にして寮へと帰る。

 魔法学園の寮は貴族・金持ち用と一般人用、それぞれ男子女子別に合計四棟ある。

 クソエルフは『貴族寮なら個室だぞ。進んでいる子なら学園で初体験を済ませるようだ。念の為貴族寮にするか?』とか巫山戯た事を言っていたが根っからの庶民である俺は勿論一般男子寮の二人部屋だ。

 寮に到着して、まだ慣れない景色の中を進んで自室のドアを開ける。

 二段ベッドに二人分の勉強机やクローゼットが配置された空間の中、昨日入寮した俺が荷物を片付けたままだ。二人部屋なのは一目瞭然なのだが、相部屋の仲間が未だ来ていない。家が遠くて入学式当日ギリギリになって来るのかもと思ったが、後で一応寮長に確認しておくべきか。


「それにしても腹減った。飯の時間はまだかな」


 鞄を二段ベッドの上に放り投げる。ベッドの占領権は先に到着した奴にあるものなので上は俺の物である。

 とか思っていたら、何か悲鳴のような鳴き声が聞こえた。


「あ?」


 ベッドの上を見上げると、藍と緑の目をした三毛猫が怒り心頭と言った感じで俺を見下ろしていた。次の瞬間、猫の爪が俺を襲った。


「イッテェーーーーッ!?」


見た目はA○MS、中身は人為○態、精神的に独○兵。

作者の好きな漫画で占められてます。

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