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第二十八話 前世からの因縁とかよくあるが当事者は嫌だ


「まずディエゴ・シースという人物単体の説明をするのなら、彼もまたヴィルヘルム・バンデオンと同じ求道者です。ただし魔法方面のですが」


 侍女に新しい紅茶を出させたデネディアは一口飲んで喉を潤すと、最初にそう切り出した。


「出身はヴェズロガ帝国。ここの魔法学園の上位版と言える帝国魔法学術院に在籍していた魔術師なのですけど、突如出奔し行方を暗まします。姿を見せたのは同学院の禁書庫でした。彼は出て行ったと見せかけて隠れていたんです」

「馬鹿じゃねえの?」


 そんな言葉しか浮かばなかった。


「馬鹿げた事を実行して、学院の魔術師の包囲から抜け出した以上本物よ。そしてまんまと禁書を奪った彼は各地で破壊活動を行います。目的は自分が作った魔法を試したい。少なくとも各国はそう判断しています」

「タチ悪いな」


 合いの手と言うか茶々を入れつつ、いくらチート持ちの転生者であろうとそこまでの大暴れができるのかは疑問に思った。

 転生者はチートを、正確に言うなら前世の記憶から生じる歪みを能力として押し込めたアウターアビリティを持っている。俺は持ってないが。持ってないが!

 ともかく能力の有用なのは確かだ。だからってアウターアビリティを持っていない他の者達が弱いとは限らない。ギフトと呼ばれるスキルもあるし、強い奴はそんな物なくとも強い。それに目の前のデネディアのような生まれた種族の時点で勝ち組だっている。

 ヴィズロガ帝国と言えばフージレング公国やアーロン王国と比べて新興の国と言えるがそれでも力ある国家だ。

 そこの魔法技術の最先端たる場所には当然警備もいるだろうし、優秀な魔術師が沢山詰めている。

 あのムカつくぐらい第二人生エンジョイ中な刺青野郎がどんなに強くとも、普通はフクロにされて終わりの筈だが。


「ここからが本題ですが、当時からディエゴはあるグループと関わっていたと言われています」


 『あるグループ』と言うのが、ディエゴが捕まらずに好き勝手している原因なのかだろうか?

 付き人という立場からかフェイリスが真剣な表情でデネディアに問う。


「それが野外授業に現れた者達の正体なのですか?」

「バンデオンもいるという噂は前々からあったので間違いないでしょう。ただそのグループは明確な実態が無く、対処し辛いのです。組織というのは何らかの共通した目的を持った人々の集まりですが、ソレは組織としての目標もなくリーダーもおらず名前すら無い。自分だけでは手が足りない事態への協力を要請する。その為の集まりです」

「それってクラブにも成れないただの同好会じゃねえか」

「――プッ」


 俺の突っ込みに反応したのはリズベットだった。何がおかしかったのか横を向いてちょっと震えている。えぇー、あれでツボに入ったの?

 前世の学校に関わる知識なのでデネディアとフェイリスは首を傾げているが。


「……互助組織のようですが組織として体裁も無い集団です。なので一人捕まえたからと言って他の者が捕まる訳でもないのです。だから王女に説明したとしても、テロリストの一人としてか片付けられないでしょう」

「ふうん……今ふと思ったんだけど、学園で王女を襲ったのはそいつらだったりしないのか?」

「可能性はあるわね」


 デネディアは否定しなかった。ディエゴみたいなチート野郎と同格の奴が学園にいるとか最悪なんだけど。フィクションでよくある教育機関なのに戦場のような地獄地帯とかリアルで体験なんてしたくないんだけど!

 事件を何だかんだと解決してくれる主人公どこ? 推理モノの主役は事件呼びそうでノーサンキューだからそれ以外でパパッと解決してる主役君はいないのか!?


「つーかアクセルはどうした? 予知能力持ってんだろ!」

「そういえばあいつそんな事言ってたわね」


 思わず叫ぶとリズベットが何かを思い出すように小さく唸る。そういや、ディエゴが襲って来る直前にアクセルがリズベットに何か言っていた。その時にでも聞いたのか。


「ステレウス男爵家は未来を予知しているという噂はあったけれど、それはアクセルのギフト……アウターアビリティだったのでしょう」

「肝心な時に役に立たねえけどな」


 舌打ち混じりに言うとフェイリスが苦笑する。あいつ、俺がリズベットを殺すとか阿呆な事抜かしやがったらしいじゃねえか。


「ムラがあるようだね」

「あの時もディエゴじゃなくて怪物が襲って来るって言ってたし」

「怪物ぅ? …………俺か!」

「多分そうじゃない?」


 マジかよあの野郎。そろそろマジで打ってやろうか。


「具体的に何を視たのか分からないけどが、一部の貴族が山を破壊した犯人を調査しているらしいよ。ディエゴじゃなくて、その相手を」

「それはそうですよね。山を砕くほどの力を持った者を把握していなかった訳ですから。まあ、私もできますけど」


 何がおかしいのかデネディアが手で口元を隠しながらコロコロと笑う。すっげー腹立つ。さりげない自慢で二重に。


「ここに来てから災難続きだ。帰ったらお祓いでもしてもらおうかな」

「駄目よ。あんな連中に頼る事ないわ。厄払いなら私達の所でしてあげるわ」

「お前ら呪う側だろうが! 変なの仕込まれそうだから絶対に嫌だ」


 笑っていたデネディアが俺の言葉に不機嫌になる。本当に星詠みと犬猿だよな。というか魔翼族を快く思ってる連中はいるのだろうか。


「えっ!? 学園を辞めるの!?」


 リズベットが誤解した。何でこいつこんなに過度に反応してんの?


「諸事情により辞めたくても辞めれない。もうすぐ長期休暇だろ? 色々と用事があるし、丁度良いから実家に顔出そうと思って」


 クソエルフ殴ったり厄払いしたり健康診断したりと何気に忙しい。ベルを月猫族に預ける為にも本人を連れて行かないとならない。それに何よりもクソエルフを殴らなければ。殴らなければ!


「そうなんだ。あっ、でもその前にあるヴァレリアの学園コンサートは来れるでしょ?」

「折角チケット貰った訳だからな」


 正直言って手放したかったが、時間がなければ手段もない。この際諦めて素直に行く事にした。


「ところでさ、お前ってフェイリス以外に友達いないの?」


 同じ転生者という共通点があると言っても何か俺との交流に積極的と言うか前のめりなリズベットを不思議に思い何となく思い浮かんだ疑問を率直にぶつけてしまう。

 その瞬間、見るからにリズベットはショックを受けていた。


「い、いない。だってあたし王女だし、城は年上ばかりだし。気軽に話せるのってフェイぐらいで……」

「俺が悪かった。だからそんな絶望した顔するな」

「あーっ、テリオンってば女の子泣かせたー」

「ここぞとばかりに嬉しそうな顔するなムカつく! だいたいリズベットは泣いてないだろ!」


 と言ってもちょっと今にも泣きそうだが。そんなに交友に飢えていたのか? 一人の方が気楽な場合もあると言うのに。

 まあ、日本の現代人――かは転生者の生きた時代はバラバラなので正確には分からないが、言葉の端々に出る単語や価値観が前世の時代を匂わせ、そう俺の前世と変わらないのではないかと予想できる。

 二十一世紀に生きた若者が王族として生まれ変わり、王家の人間として厳しい教育を受ければ精神的に参るのは仕方がない。

 偉くなれば楽できるとかそれは妄想なのだ。特に下手に記憶が残っていれば尚更に。


「ほら、ケーキ食うか? そこの魔翼族が威圧で手に入れた人気店の限定品だぞ」


 知らんけど。取り敢えずこいつならやってもおかしくな――この魔翼族、どうして知ってるの? みたいな顔を横でしてんだけどマジか。

 項垂れるリズベットをなんやかんやと物で宥めて数十分後、何とか調子を取り戻し始める。

 すっげー疲れた。どうしてこう女というのは厄介なのか。もし本当に涙の一筋でも流れたら非常に面倒だったに違いない。しかも気安く話しているとは言っても相手は王女。そして隣にはアマゾネスもビックリな魔翼族。

 これが故郷に知れれば弱みとしてこぞって啄いて来るのが目に見えていた。


「話を蒸し返すようだけど、テリオンこそ友達いないわよね?」

「いるし! フージレングに普通にいるし!」

「舎弟の間違いじゃない?」

「ちげぇよ! そんなガキ大将みたいな事誰がするか!」


 腹立つクソガキを殴って黙らせた事は何度もあるけど! 尻蹴飛ばして言う事聞かせた経験もあるけれど! …………あれ? マジで友人と呼べる奴がいねえ。別にいいけど。前世もそうだったし。


「そんなのだから心配なのよねえ。ちゃんと学園で上手くやれてるのかしら」

「だから母親面止めろ。お前の中で流行ってんのかそれ」


 母性を振りまき取り込もうとする作戦だろうか。普通に間違ってんぞ。


「ご歓談中失礼いたします」


 ご歓談では決して無いが、侍女が一人テラスにやって来た。


「アナスタシア・キーリッシュと名乗る者がテリオン様に面会を求めているのですが如何いたしましょう?」


 それを聞いた途端、紅茶を飲んでいたリズベットが吹き出し、何も口に含んでいないフェイリスが咳き込む。


「お友達?」

「違う」


 アナスタシアと言えば野外授業前にコンサートのチケットを譲れと言ってきた令嬢だ。ブーメルからヤバい奴だと聞いていたが、まさかチケット欲しさにわざわざここまで来たのだろうか。


「アナスタシアを知ってるの!?」

「チケットくれって言われた。断ったけど」

「それなら良かった」


 本気で安堵したように息を吐くリズベット。ヤベェ奴だとブーメルから聞いていたが、王女の耳にもそれは入っているのだろうか。


「取り敢えず、そいつ追い返しておいて。後から聞いたんだけど、そいつストーカーらしいな……」


 侍女に帰ってもらうよう頼んで、リズベットに確認する。


「そうよ。本人に直接確かめた訳じゃないけど、多分前世から付き纏ってるんだと思う」

「…………は? え? 前世からストーカーってたって事か? 一応、二人は転生者だって知ってるけど」


 ストーカーってキモーイ、を通り越して末恐ろしいんだが。というか前世からのストーカーとかどういう因縁だ。

 前世で関わりのあった奴が同じく生まれ変わった先で出会うとは可能性としてあるだろうが、限りなくゼロに近い。その極小の確率でストーカーと再開とか最悪過ぎるだろう。


「実際、アナスタシアはヴァレリアを見初めてから前世からの運命とか騒いでいた事があるの。ヴァレリアの方もアナスタシアの前世に心当たりがあるみたいで、物凄い嫌ってるの」

「ふぅーん」

「……興味なさそう」

「いや、怖いと思うがだって他人事だし。だいたいそれだけだと両者の間に何があったのか分からねえし。もしかしたら喧嘩両成敗的などうしようもない話の可能性だってあるだろ」


 前世に何があったか知らない。知らないからこそ、本当の事も分からない訳で。アナスタシアのあの黒い雰囲気は確かに恐ろしいがもしかしたらヴァレリアの前世に原因があるのかもしれない。


「そうかもしれないけど、私多分あの二人の前世知ってる。直接の面識はないけどニュースで見たから」

「芸能人だったのか?」


 芸能人でニュースと言えば不倫騒動とかだ。当時はネット媒体とかで良くも悪くも話題に事欠かない時代だから、騒ぎが拡散するのも判明するのも早かった。


「ヴァレリアの方は歌手よ。声は違うけど歌い方とか歌詞で共通点があるから。あたし、ファンだったの。今もだけど」


 生まれ変わっても歌で有名とか凄いな。だけど俺にはさっぱりだ。母親がレコードを持っているから聞いた事はあるが、そんな聞き覚えとかなかった。


「アナスタシアの方は前もストーカーよ。…………男だったけど」

「それはまた……」


 前世でストーカーもそうだが、男だったか。そっかー女になっちゃったかー。好悪は別として同じ男して何か複雑と言うか微妙な気持ちになる。

 生まれ変わりが必ずしも同じ世界、人種になるとは限らない。それは性別も同じだ。実際性別なんて半々だからな。


「じゃあ、あれか。こじらせたストーカーが直接的な犯罪行為に走ってどうのこうのと?」

「うん、当時凄い話題になったんだけど記憶にない?」


 首を横に振る。ヴァレリアの前世の名前も知らんし、そもそも芸能界には興味がない。朝のニュースで出た程度なら覚えているが、生まれ変わって十年以上経った今では大物芸能人の名前も怪しい。


「まだ若手だった頃の彼女のコンサート会場に武器を持って乱入。ガードマンのバイトをしていた人を殺害した大事件だったんだけど、知らないか」

「知らないな……うん」


 まさか殺人事件だったとは驚いたが、それ以上に何かが頭の隅で引っかかった。


「そのストーカーもガードマンが相打ちで殺しちゃったから、ニュースやネットでも凄い話題になってた」

「へー…………うん?」


○○からは逃げられない!

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