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第二十七話 医者要らずのテッちゃんとは俺の事。ただしマッドはやって来る。


 実はよく考えると分かる事なのだが、俺には誰にも言っていない秘密がある。

 それは――太らない事! 

 魔力な流し浸した細胞は多数の種族の力を発揮させ、肉体をある程度自由に変化させられる。つまり脂肪の燃焼も容易い。それどころかその気になれば骨格から体型も自由自在で、肌年齢とか赤ん坊のようにプリプリのままでいられる。歯だって矯正の必要なし、折れたってすぐに生える。虫歯なんて怖かねぇ!

 アンチエイジングなんて目じゃないこれらを知られたが最後、女どもに嫉妬の目で見られる事間違いない!


「ちゃんと人の話聞いてる?」

「聞いてない」


 俺はデネディアがアーロン王国で利用している屋敷の中にいた。

 野外授業の出来事から数日経った。生徒達の心身の治療の為に一年生の授業は暫くの間休みとなっている。一年生達は寮や図書館で過ごすか、王都の家に帰っているかしている。

 俺は寮でダラダラしたかったのに、デネディアに誘拐されてしまった。その後のこの女の構いっぷりは尋常じゃなかった。簡単に言うとすっごいウザい上に貞操の危機を何度か感じた。


「本当に心配したんだから。あの姿で戦うなんて危険過ぎるわ」


 そしてしつこい。もう何度目かになるか分からない話題だ。屋敷のテラスで茶をしばいてるこの時も、この数日間に何度も出た話をまた言っている。


「地形まで変えちゃって。あんなの悪逆帝討伐の時以来よ」

「俺だけのせいじゃねーし。少なくとも半分以上はルシオ先輩のせいだから!」


 さりげない強キャラ発言ウゼェ!

 野外授業の舞台となったあの山は崩れた。俺とディエゴの最強魔法のぶつかり合いで半分が吹き飛び、ルシオさんが別の敵との戦いのあの当たりの地盤をグズグズにしたので自重を支えきれず土砂崩れが起きたのだ。

 現在、山があった場所は二次災害に備えて封鎖され、地域魔力の変動でちょっとした異常気象が発生しているらしい。


「というか何者だよあいつら! ルシオさんも重傷だったし」


 フージレング公国のクソエルフが"本物"と言った勇者(ブレイブハート)ルシオに重傷を負わすとか何なの? あの人普通に立って歩いてたけど。翌日には現場検証に参加して土砂の上を元気に走ってたけど!

 あの人マジで何なの? 俺なんて肉と野菜と炭水化物取って何とか復活したけど、ルシオさんは止血の薬と包帯巻いただけで動き回ってるんだけど。休めよ!


「堂々と名乗ってたから情報ぐらいあるんだろ? あんなのが無名のままな筈がない」

「鏡見る?」

「俺は半端者だし、何より肝心な部分はお前らが徹底的に遮断してるだろ」


 俺と言うか混雑種の存在は別段隠してもいない。だがその特異性については秘されている。どこまでそうしているのか知らないが、流石に天辺にいるジー様バー様の様子から察せられないほど鈍くはない。


「それで何者なんだよ?」

「ご歓談中、失礼いたします」


 デネディアが口を開こうとする直前、テラスに侍女が現れた。媚薬を盛る提案をしていた有翼族の女だ。ちょっと警戒してしまうが、侍女はデネディアの傍に行くと耳打ちする。


「どうした?」

「んー……変わったお客様が来たわ」

「席外す」

「いえ、私じゃなくて貴方によ」

「俺にぃ? 誰だよ?」

「私が出向くからお茶を二人分追加しておいて」


 俺の質問に答えず、デネディアは侍女に指示を出して席を立った。何だよオイ、感じ悪いな。

 そう思いつつ、ホールケーキを一人で頬張っているとデネディアが戻ってきた。その後ろには二人の少女を伴っている。

 リズベット王女とフェイリスだった。なんでやねん。


「お二人はテリオンを心配して来てくれたのよ。さぁ、どうぞお座りください」


 完全な外向けの顔でデネディアは二人に椅子を勧める。あれ、その椅子いつの間に? それにテーブルの紅茶とケーキも増えてる。


「……どうしたんだ? わざわざこんな魔窟に来て」

「魔窟って……いえ、それよりも」


 まだ椅子に座らないリズベットは軽く咳払いすると恭しく頭を下げた。


「この度は窮地を救っていただきありがとうございました。貴方様のおかげでこうして無事に生きて帰れました」


 王女としての礼なのだろう。ぶっちゃけそういう畏まったの苦手つうか弱点なので止めて欲しいのだが、彼女の立場が立場だから仕方がないのだろう。


「構わないよ。俺はぶっちゃけあいつがムカついたから暴れただけだから。それより座って茶でも飲めよ」


 だからってそれ以上、上流階級の雰囲気出されても困るので二人を椅子に半ば無理やり座らせる。


「もう、リズベット殿下が折角来て下さったのにそんな態度で。申し訳ありません、殿下。テリオンは照れているだけなんです」


 何でデネディアが保護者みたいなフォローを入れてんだよ。お前、ウチのオカンに喧嘩売ってない?

 俺がデネディアを睨んだせいか微妙な空気になりつつも、リズベットとフェイリスがようやく椅子に座る。


「まあ、なんだ? わざわざ礼なんていいのに。それもこんな所まで来て」


 一国の王女がアポなしに他国の大使のいる屋敷にアポなしで来るとかマズイのではないだろうか? 政治的な意味なんてものはさっぱりだが、上流階級の業界は面倒な上にややかしいという事ぐらいは理解している。


「だって先延ばしにすると言いにくいじゃない。テリオン、あれからすぐに寮を出て行って、聞いたらこっちにいるって」


 先程と違い砕けた口調になるリズベット。


「あんな爆発があったんだ。重傷でも負って入院しているのかと思っていた。でも元気そうで良かったよ」


 フェイリスが俺がフォークで刺して持ち上げている物に視線を向ける。そういや、ケーキ持ったままだった。


「甘いもの好きなの?」

「腹に貯まる物が好きなの。そっちこそ俺が行った時、ボロボロだったけど怪我とかどうなんだ?」


 グループが同じだった生徒は打ち身程度で済んでいた。アクセルも五体満足で軽傷らしい。寧ろ程良くボコられていたとか。器が小さいと思うだろうが、正直言ってザマァと思った。これで重傷だったら同情心が沸くところだったぜ。そういう意味ではあのクソ馬鹿は良い仕事した。


「あたしとフェイリスは軽傷だったから。手加減されてたのよ」

「あいつ、メッチャ遊んでたからなぁ」


 アクセルをボコったのは良いが、それを含めてもディエゴはムカつく程楽しんでやがった。生きてるんだろうなぁ、嫌だなぁ。目を付けられたっぽいし、切実に引き込もりたい。


「テリオンはよくあんなチートに勝てたわよね」

「勝ってない。向こうがタイムリミットだとか言ってどっか行ったんだ。こっちは奥の手まで使ったのにあの野郎」

「奥の手って、あの変身したやつ? 日アサの特撮ヒーローみたいで格好良かったよ。あれはアウターアビリティじゃないの?」

「あー……うん、自前は自前だけど種族アビリティなんだよ」


 ぶっちゃけ引かれるかと思っていたが、寧ろその逆に興味津々な王女様。日アサって……いや、女の子向けの番組もあるけどなあの時間帯。


「えっ、じゃあ変身ヒーロー種族なの!?」

「今の所俺だけ。それとヒーローじゃない」


 なんだろう、特撮好きの同級生みたいな感じで目を輝かせていらっしゃるんだけどのこの王女。前世はオタクだったのだろうか。


「そ、それよりもさ、俺の事誰にも言ってないのな」


 言っていたら国に警戒されて監視されていただろう。ただでさえこの所王女襲撃で偶然とは言え無関係とは言えない立ち位置にいたのだ。無実だとしてもそれはそれとして監視されるのが当たり前だろう。

 魔翼族のデネディアにビビってそこら辺をなあなあに済ませている可能性は高いが。


「言ったよ。テリオンのお陰で助かったって」

「そうじゃなくて、あの姿の事だよ」

「え? 言ってないけど何で?」


 心底不思議そうだった。わざわざアレを言いふらす理由が分からないと言った感じだ。密偵でもないのに使った武術や魔法を事細やかに説明する必要はないとでも言うのか。


「……何でもない」


 食い終わったホールケーキを紅茶で胃に流し込む。リズベットの隣に座るフェイリスが微苦笑を浮かべている。見ての通りらしい。


「俺よりも問題はあの男だよ。転生者って言ってたけど何者だよ。あんなのが前触れもなく遭遇するとか怖すぎて出歩けないんだけど」


 初級ダンジョン歩いてたら裏ボスが出てきたようなものだ。ゲームと違ってセーブ&ロードできないんだぞ。出来ても二度とやりたくない。もし野外授業前に戻れたら裏で手を回して(デネディアが)中止にするか、勇者召喚の上にグループを離れた場所に誘導して難を逃れる。


「あいつについては何も教えてくれなかったわ。でも、ルシオを襲ったのは誰か分かった。武芸者の間では有名人だったみたい」


 そこでリズベットはフェイリスに視線を向ける。フェイリスが説明してくれるようで口を開く。


「ルシオ殿が戦ったのはヴィルヘルム・バンデオンと名乗ったらしい。バンデオンは有名な傭兵集団の団長の名前なんだ」

「騙りか?」

「いや、本人で間違いない。特徴が一致してたし……今回の事を起こしてもおかしくない人物らしくて」

「えぇー……」


 それって傭兵じゃなくてテロリスト集団じゃないのか?


「バンデオンは武に身を捧げた求道者だよ。弟子の戦士達と共に傭兵業で生計を立てながら世界各地を巡っている。海を跨いだ別大陸でもその名は知れ渡ってる程なんだ」

「そんなのが何で……仕事選ばないとか?」

「彼らの目的は自分達の武を磨くこと一点のみなんだ。強い者と戦うなら平然と犯罪に加担する。それが例え国家に相手でもだよ」

「何で存在できてるんだ?」


 そんな切れたナイフみたいに全方位喧嘩売り出し中な武装集団なんて、早々に国がフクロにしてしかるべきだろ。ルシオさんに重傷を負わせるような奴がリーダーを勤めていると言っても数の暴力は大正義なのだから。それこそ戦隊モノは強敵に数で勝っている。


「上手く立ち回っているから、かな? 意図的にそうしてるのかは分からないけど、所謂強者がいない所は安全だし、傭兵としての契約を結べば必ず守るし略奪もしない。決戦戦力のない小国にとってありがたい存在なんだよ」


 面倒な。狙ってやってるとしたら強かだな。武を極める為なら手間も惜しまないってか?


「なら、あのディエゴって奴もその傭兵集団の一人なのか?」

「分からない。あんな典型的……典型的? 何であれバンデオン一派は武芸者ばかりで、同じ戦闘狂の気があっても趣が違う」

「うちの軍部は何か知ってるようだったけど、教えてくれなかったのよね。隠してると言うよりは、言いづらいって感じだった」

「そもそも何でそいつらが一緒になって狙って来たんだ? タイミングからして計画してただろ。両者の繋がりが分からん」

「繋がりなんて知り合い程度でしょうね。殿下にろくに説明しなかったのは言っても仕方がないからでしょう」


 不意に今まで若者達の会話をニマニマと見つめていただけだったデネディアが口出ししてきた。わざわざ言ってきたのに、敢えて一拍置いて続きを話し出す。


「上手く説明できないというのもあります。変に意識してしまう可能性もありますし、それならいっそただの犯罪者として扱っているのでしょう。実際、ただの頭のおかしな犯罪者という認識で十分ですから」

「何か知ってんの?」


 そういえばリズベット達が来る前に何か言いかけていた。だが、俺の問いにデネディアは表現し辛い諦観の混じった笑みを浮かべる。

 こいつがこんな顔をするなんて初めて見た。


「頭がおかしい人らが集まると禄な事になりませんよね?」


成人病の無いテリオン。ただし風邪にはなる(自覚症状なし)。

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