第二十五話 エリートなバトルジャンキーとかホント最悪
暴虐と言える程の力の象徴とされるドラゴン。蜥蜴がデカくなった程度の騒ぎではない正しく怪獣が吐く息吹はあらゆる物を粉砕する。
竜の力を代表する竜の息吹。誰もがその光景を、威力を目にすれば一生忘れられないだろう。
そして強いって事は――男の憧れになる! いたんだろうね。大昔のどっかの誰かさんが竜の息吹を目にして感動しちゃったんだろうな。
きっと「俺もやりてーっ!」とか叫んじゃったりなんかして、研究して鍛錬して積み重ねて作ったんだろうね。
竜の息吹を撃つ魔法を。
簡単に言ったけどガチで頭がおかしい所業である。魔法を行使する儀式として模倣する手段がある。例えば空を飛びたいなら鳥の羽を模したマント、水中を高速で泳ぎたいなら魚のヒレを模した飾り、四足動物のように地を駆けたいのなら動物の革の靴。
存在する生物を模す事でその能力を得る魔法は多く基本と言える。だからって竜はないだろ竜は。
最強の生物の一角だ。それの能力を魔法で再現しようなんて思いついても完成させるなんて不可能に近い。実際、完成するまで不可能だと思われていたらしい。
ただこれ、構成が頭狂ってる上に反動がとても人間に耐えられるものでなく、使おうと構成を編んでいる途中で身体が爆散するのだ。もし使うなら耐えられるだけの用意が必要になる。
結果、構成の異次元さとコストパフォーマンスの極悪さに失敗時の爆死があって誰も使わなくなった。
だけど混雑種の俺は違う! 魔法の構成は体内に解凍式カンペを仕込みボディを竜人の血マシマシにした上で造りをドラゴンに似せて反動を軽減。強度をガッチガチにした! 魔力も普段から貯めている胸の宝石と周囲の大気に満ちる野良魔力を吸って補填!
他の連中と違い比較的手軽に竜魔法竜の息吹を放てるのだ。
それでも全身に針に突っつかれているように痛いし血が蒸発しそうなぐらい熱い。元のと予備用の二つとは別に魔力運用用の第三の心臓が爆発したみたいな鼓動を繰り返してるけど、俺は生きています。
つーか、これ喰らったらチート転生者もひとたまりもないだろザマァ見ろや! ガハハハハッ!
山の一角を抉って一本線が出来て森の木々が燃えているが、これも仕方のない犠牲だったんだ。
「総スカン間違いなしの自然破壊。こんだけしたんだからさぁ……お前死んどけよ!」
ちょっと離れていた現実に意識を戻すと、直撃したと言うのにディエゴは五体満足で立っていた。
「クァハハハハッ、いやいや死にかけたっつーの!」
ディエゴの体は竜の息吹の熱によって大部分が炭化し直撃しなかった部分も皮と肉が焼き爛れていた。いたのだが、それが急速に再生している。身体に刻んだ呪紋の効果だが、その力が強力だ。
「このイカレ野郎! テメェ、皮膚の下にも呪紋を刻んでやがるな!」
第三の目で視た奴の身体は皮膚だけでなくその下の筋にまで及んでいた。
「小目標は骨、最終的に細胞の一片まで描くつもりだ」
「うっわ……」
米粒に習字するのとは訳が違うんだぞ。ドン引きだわ。
ドン引きしつつ、口を開けて火を噴く。
「うわっ、アッチィ! お前なんだエゲつねえな!」
火の中から横へとディエゴは飛び出した。瞼がなかった顔も再生している。ディエゴは高速で木々の間を動き周り始める。
「鬱陶しいなぁ、オイ!」
全身から外殻を棘のようにして生やしてそれを一斉に射出する。
「このビックリ人間が!」
「お前に言われたくねえ!」
ディエゴは障壁を張りつつ走り周りながら俺を中心にして呪紋を描いていた。抜け目ない奴だな! あの野郎は指だけでなく動きだけで呪紋描きやがる。好きにさせておく方が不味い。
「熱いのは好きなようだが、寒いのはどうだ?」
しかももう描き終わってるし。俺を囲んだ呪紋が発動して周囲が一瞬に凍りついた。俺もまた凍る――訳にいくか!
「血よ燃えろ!」
肉を活性化させて血を代償に熱を変換して凍結から身を守りながらディエゴに向かって突進する。途中、木が邪魔だったのでタックルで砕き払う。
その裏からディエゴが殴りかかっていた。
「ギャハハハハハハッ! 熱ッ、焼けた鉄板かお前」
「うるせぇ、死ねゴラァ!」
殴り合う。だからなんでマッチョモンスターに変化した俺と互角に殴り合えるんだよ!
殴りながら伸ばした尾で破壊した木を掴み引き寄せ、ディエゴに叩きつける。地に潰されたディエゴに向かい腕を振り上げる。
「命の水たる血よ!」
両腕に各六つの血杭射出を作り、木の上から殴りながら杭を順に射出する。木はとっくに微塵になって射出された杭がディエゴの身体を貫いて剣山みたいになる。そんな状態でもディエゴの奴は手で地面を叩く。
手から光の線が足元を通り過ぎて周りに広がっていく。そして周囲の石が浮く。
第三の目で視れば、石の一つ一つに呪紋が刻まれている。しかも効果が全部違う! どういう構成ならこんな一瞬でこれだけの事ができるのか。チートだけじゃなくて才能もあるってかァ!? 腹立つなァ本当に!
浮遊した石が飛来してくる。爆発、氷結、電流、腐敗、石化などなど。一つ一つは小さいが数が尋常じゃない。
「ウザってぇ!」
魔力の喉に貯めて腹から声を出す。魔声となって周囲に伝わる振動は群がる呪いの石達をまとめて破壊する。
「逃がすか!」
今の隙をついてディエゴが立ち上がり跳び退こうとしたのを首を掴んで拘束する。掴まれた瞬間にディエゴが俺の腕に呪紋を刻んだ。
「溶けな!」
「ロケットパーンチ!」
肘から先を切り離して圧縮空気噴射でディエゴごと飛ばす。加えて呪紋を刻まれた腕が氷のように溶けきる前に手首から先が切り離される。二段空気ロケットである。
「更に"手"榴弾!」
ディエゴの首を掴んだまま手を爆発させる。ざまぁみろ――と思っていたら足元の地面にいつの間にか呪紋が刻まれているのを発見する。離れようとした所で、呪紋から炎の柱が立ち上がり俺を包み込んだ。
「うおおおおお!?」
全身が焼かれるどころか肺にまで炎が入り込んで来る。急いで炎の柱の中から脱出し、溶けた外殻と内蔵を再生、切り離した右腕も新たに生やす。
「ギャハハハハハハッ! ビックリ箱みたいな奴だな!」
脱出した所には首の肉を再生させながら拳を振りかぶっているディエゴが待ち構えていた。尾で拳を弾き、逆の手で殴って来たのを左手で受け止める。途端に爆発が起きた。
「スタンプだよ」
殴った瞬間に呪紋を刻みやがったこいつ。連打で人の体を爆破して来るディエゴに対抗し、再生した右腕を発電、左腕は鉄分を主体に更に赤熱させる。どっちも文字通りに身を削って再生を始終続ける事で出来る捨て身パンチだ。
何度目か分からないディエゴとの殴り合い。
「ハハッ! 月猫、天眼、輝珠、竜人に獣人のハウリングボイス、鉱物族の先祖返り能力! どんだけだよお前は!」
「うっせぇ、このゾンビ野郎! とっとと死ねよテメェ!」
ディエゴは再生能力に物を言わせて身体が焼き爛れながらも攻撃して来る。しかもこの野郎、何か空手みたいな動きしつつ関節取ろうとしてて格闘の技量が高ェ! ああっ、少なくとも中位以上あるなコレ。俺には<格闘>スキルねえのにこいつ、魔法といい才能豊かか! 妬ましいな!
「ハーっハハハハハハッ、楽しいなぁ、オイ!」
「ゲラゲラ笑ってんじゃねえ!」
猛禽類の爪のようになった足でディエゴの足を踏み砕きながら血の杭で固定。各所の殴られ爆発されるのも厭わず、渾身の右ストレートを放つ。
火吹かせて加速して軸がブレないように骨を増やして支えてバネみたいに体を動かして、表面に溶岩纏った拳が殴る為にあるものと言わんばかりに硬質化の上固めた。
インパクトの瞬間、ディエゴは片手の五指を鷹の爪のように広げ捻りながら閉じる。その動きが光の線となって中空に留まり、俺が拳を振り抜くと同時に目の前の空間が炎そのものへと変化した。
それによって生じた爆風に俺の身体は大きく吹っ飛んだ。
「――ヒュッ、ヒ、ハッ」
サッカーボールみたいに派手に飛び転がりながら四肢を地面に突き立てて何とか停止する。だが呼吸が難しい。内蔵に多大な負荷が一瞬でかかったようだ。
腹が一気に押し潰される間隔は覚えがある。急激な気圧の変化による内蔵の損傷だ。
「ヒュー……ンの野郎、気化爆弾か!? 止めろやそんな齧った知識でやってみましたな魔法!」
内蔵を修復し顔を上げる。俺が殴ったのと爆風でディエゴもまたかなり遠い場所へと落ちたようだ。
というか学園の連中はどうしたか。山を下りて避難しただろうか。ルシオさんは……こことはまた離れた場所でやり合っているのを感じる。つまり勇者と互角に戦えるチートがもう一人いるって事か。
そんな俺の希望は大抵が通らないもんだ。
そして、それを証明するかのようにディエゴが飛んでいった方角から馬鹿みたいな魔力を感じた。
竜の息吹
攻撃系の魔法の中でも最高位の威力を誇る。ただし普通に使おうとすると途中で負荷に耐え切れずに身体が破裂する。普通は様々な魔法儀式と媒体、数人がかりで行ってようやく使える。




