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第二十四話 改造人間テリオン!


 ◆


「まあ、こんなものだよな」


 ディエゴは足元に転がったアクセルを見下ろして感想を呟いた。

 リズベットやフェイリスは手加減でもされたのかまだ立って構えるだけの余力は残っているようだが、抵抗の意思を示すだけで精一杯のようだ。

 護衛の騎士達はその勤め故に全力を振り絞ったのか倒れているのか意識を失って倒れ伏している。死ぬような状態ではないが、誰も彼も既に戦えるような力は残っていなかった。


「工夫と研鑽が足りてないな。王女様は好戦的過ぎ。それは防御に向いてるだろ。というか羽っぽいんだから飛べよなぁ。それとお前、せっかく面倒な構成が必要な重力操作を使えるんだから、もうちょっとこうさぁ……」


 残念そうにディエゴは腕を組んで、足元に倒れているアクセルをつま先で小突く。


「それにお前予知能力持ってんだろ? もしかして任意発動じゃない? そこは根性で何とかしようぜ? それに俺が来る事も予知してさ」

「…………が、う」

「んん?」


 反応したのかアクセルが苦しげに吐き出す声にディエゴは耳を傾ける。


「違、う……俺が視たのは、お前じゃ……ない」

「何?」

「怪物が……」

「何だと?」


 ディエゴが聞き返すが、アクセルは次の瞬間には気を失っていた。


「あっ、フラグになりそうな意味深な言葉残して都合良く気絶すんなよ! あー……もういいや。俺の用件は終わったが、このまま手ぶらで帰るのもあれだからな。魔女共の手土産として」


 ディエゴは気絶したアクセルから視線を外してリズベットとフェイリスに振り向く。


「くっ、このォ!」


 リズベットが光の翼を槍にしてディエゴに放つが、その勢いは弱々しい。元より通じなかったディエゴに容易く防がれてしまう。


「無駄に体力消耗するだけだぜ。これから拐われるとなれば仕方ないか。王女様は確定として、あとは……その魔剣だな」


 ディエゴがフェイリスの持つ剣、フラヴラガラを指差す。


「悪逆帝ジンがかつて所持していた魔剣フラヴラガラ。他者に奪われるのを疎んだ悪逆帝が封印したが、元々はそこまで強い魔剣ではなかったらしいな。悪逆帝が色々と付与して恐ろしい剣になっただけで」

「どうしてそれは!?」

「さあて、ね。ただ折れず曲がらず無茶な付与に耐える頑丈さ。そして何でも斬る切れ味。持つ奴が持ったなら厄介な代物だ。生憎、お嬢ちゃんには手に余ってるようだけどな」


 図星だったのかフェイリスの顔が歪む。単純に剣としての機能に特化したフラヴラガラはあらゆる名剣の頂点にある剣だが、だからこそ使い手の力量が問題になってくる。

 フラヴラガラの発見者で娘に譲るまでは使い手だったフェイリスの父が使えばそれこそ一騎当千の戦いぶりなのだが、例え<剣術:中位>のスキルを持つフェイリスではまだディエゴに勝てない。


「さあて、それじゃあ二人共眠って――」


 ディエゴが指を動かし宙に文字を描こうとした瞬間、本能が危険を察知した。それに疑いを持たず生存本能に従いディエゴは横に防御障壁を張る。直後、凄まじく重い衝撃が障壁越しからも伝わる。

 障壁は限界まで持ったが砕け、その衝撃でディエゴの身体が吹っ飛ばされる。


「なんだなんだ? 何が来た!?」


 宙に急停止したディエゴは衝撃の正体を探る。すると先程まで自分が立っていた場所に人型のナニカが立っていた。


「は? 何だお前。どこの怪物だ?」


 ディエゴがそう言うのも無理からぬ事だった。人の形はしているが見た事もない生物でその種別さえも推測できなかった。

 例えるなら生物のような全身甲冑。身長が三メートル弱で全身がくすんだ濃緑色の装甲と言える外殻に覆われている。

 頭部からは二本の角を生やし、額には三つ目の眼がある。人型の虫にも見えるが、鎧で言えば板金である装甲は竜の鱗とも虫の外殻とも取れ、関節部分は細かい蛇腹になっている。虫の手足と言うには逞しい腕と足を持ち、指から伸びる爪は銀色の輝きを持っていた。

 胸には中央に細いスリットがあり、奥に光の反射によって七色に変化する宝石のような物体も見える。

 一体何の生物なのかが分からない。可能性としては錬金術によって生み出された魔導生物といったところだろうか。


「まさか――王国が極秘裏に開発した戦闘用魔導生物兵器か!」


 ディエゴが若干嬉しそうに叫ぶがそんな事実は無いし噂さえもない。現にリズベットとフェイリスがそんな物知らないとばかりに首を横に振っている。


「な、何者だ?」


 フェイリスは乱入者にリズベットを庇うように前に立ちながら警戒する。

 既に満身創痍というのにそんな健気さを見せる少女に怪物は『あっち行け』と言わんばかりに手を振るとディエゴに注意を向ける。

 そして拳を握り締める。


「んん? お前、それは……なっ!?」


 その腕の造形に既視感を抱いたディエゴだが、怪物が忽然と姿を消す。そしてディエゴの横から拳を放った状態で姿を現した。

 障壁を張るが吹っ飛ばされる先程と同じ光景が再現された。

 森の中へと消えていくディエゴとまた前触れも無く姿が消える怪物。轟音が森の中で立て続けに起きてそれが段々と遠ざかっていく。

 それを唖然とした表情で見送るリズベットとフェイリス。二人の袖をいきなり掴んで引っ張る者がいた。

 驚き振り向いた二人の後ろにはテリオンが着ていた防寒具を抱えたベルがいた。


「今の内にこっちに」


 そう言って避難を勧める。


「待って。ねえ、君がここにいるって事はもしかしてさっきのは……」

「うん。テリオンだよ」




 ◆


 死ね死ね死ね死ね死ね死ねとっとと死に腐れアホンダラァ! 最強形態ガチになった俺の拳を受けろやオラァン!

 アーロン王国に行く事になってから溜まった鬱憤を晴らすように拳を振るう。だがディエゴはクッソムカつく事に寸前で障壁張って直接ダメージを負っていない。

 こっちは月猫族の血を活性化させて空間の裏側で構えと踏み込み、攻撃動作やってインパクトの直前に表側に出て来てる不意打ちしまくってるつーのに! 出鱈目な!

 空間の裏側からだと直接攻撃できない。それにディエゴは自分の周囲に魔力を散りばめレーダーのようにしていて、それがジャミングとなって空間の裏側から姿を現すのは当たる数瞬前の位置になってしまう。その僅かな時間で障壁張りやがるんだから、アァーッ、腹立つ!

 しかも――


「うははははっ、何だよお前! 正直すまんかった! ぶっちゃけ舐めてたわ!」


 こいつすっげー楽しそうなんですけど!?


「そんな隠し玉持ってたなんてなぁ! フージレングに混雑種っていう人族の新種が生まれてたのは知ってたけどよ、そんな面白生物だったとは知らなかった!」

「今のトコ俺だけだよ狙い付けるな!」


 俺の後から増えるかもしれない混雑種の若いのが悲惨な目に合うのは忍びない。ジー様バー様らから希少種族狩りの話とか聞いたら尚更だ。


「何であれ、テメェはここで打ちのめす!」

「ハハハハッ、いいねぇ。だけどコソコソと隠れて攻撃するのは御終いにしようか!」


 ディエゴは素早く呪紋を刻む。それはアクセルの重力攻撃を無効化したのと同じ物だった。宙に描かれたそれは強い光を放ち波動が周囲へと広がる。それは空間の裏側に隠れた俺を無理矢理に表側に引き摺り出した。


「うおっ!?」

「時空間に作用するこの呪紋は空間魔法さえ打ち破るぜ。ほら、反撃だァ!」


 ディエゴは親指を除く指を強く合わせる。嵌めていた指輪同士がぶつかり鐘のような音を立てると表面の文字が光る。すると無数の火の玉と氷柱、雷撃が放たれた。


「メンドくせ。もう正面からガチでやるわ」


 強靭な足腰で大地を踏みしめ、背中を開き圧縮空気を背中から噴射して加速して前進する。こちらに向かってきた攻撃が後ろで着弾して爆発するのを聞きながらディエゴの前にまで一瞬で移動する。


火よ(イグニィ)、噴き上がれ!」


 腕の周りと肘に作ったジェットノズルから火が吹いて拳を加速させる。


「オラァ!」

「ぐぼぁ!?」


 俺の拳はディエゴの障壁を貫き奴の腹を強かに打つ。ボールのように吹っ飛ぶディエゴを追い、更にクソムカつくイケメン面に拳を叩き込む。当たった瞬間、俺の顔にも強い衝撃が来た。

 ク、クロスカウンター!?

 こいつ、超強化した俺の拳に合わせて殴り返しやがった! しかもこの威力、生身の人間にしては強すぎる。魔法で身体強化したにしても異常だし、何よりそんな隙は無かった筈だ。

 疑問の答えを得る前に、お互い拳を相手の顔に叩き込んだ姿勢からディエゴが蹴りを放って来た。

 速い――。


「ぐぅ……」


 腹に受けて俺の身体が吹っ飛ぶ。この体、一体何百キロあると思ってやがる。

 後ろに下がって追撃を警戒しながらディエゴを見る。同時に額の第三の目で奴を観測する。


「ククッ……ガチか。奇遇だな。俺もどっちかと言うと近接戦(こっち)の方が性に合ってる」


 握り締めた拳を掲げて見せたディエゴは羽織っていたローブを脱ぎ捨てる。その下にはノースリーブの上着を着ていたのだが、顕になった腕の物を第三の目が捉える。


「――呪紋(スペル)を身体に直接刻んでやがるのか!」

「その通り!」


 叫んだディエゴの魔力が高まると喚起された呪紋が光り初めて皮膚から刺青のように浮き彫りになる。

 第三の目にはしっかりと奴が自分の全身に刻み込んだ呪紋が見えた。


「全身に描くの大変だったんだぜ?」


 ちょっと自慢気に言うが、こいつ阿呆だ。

 身体にスペルを刻む方法は珍しいが無いとは言わない。フージレングの一部の部族も戦士が身体に施している。主に使われるのは身体強化だが、高い効果を見込める代わりに消耗が激しく使い続ければ命に関わる。

 刺青の戦士達は強力だが寿命が短いのはそのせい。腕に描くだけでもそれなのにこの男は全身にありやがる。<魔法付与>による効果増大は確実だが、その消耗も抑えているのか。


「行くぜェェェェ!」


 ディエゴが宙に浮くのを止めて走り出す。その反動で地面が抉れて土柱が立つ。


「おっしゃ死ねェ!――命の水たる血よ(ヴィータ・サグィス)!」


 腕に血の杭を作って殴るモーションで射出する。血の杭は雑に腕のひと振りで弾かれてしまい、森の木をいくつか貫いていってしまった。


「シャァ!」

「オラァ!」


 拳と拳がぶつかり、衝突の衝撃が森の中に広がり木々を揺らす。一撃だけでは足りに二撃、三撃、互いにラッシュする。

 くああああっ、クッソ腹立つ! 三メートルのマッチョな怪人にまで変化したのに単純な殴り合いで互角とかメッチャ腹立たしい!

 あっ!? しかもこの野郎セコイ事に戦いながら足で文字描いてやがる!


「ウッザ!」


 足を杭打ち機にして膝から足裏まで一本の杭を作り発射する。奴の足の甲もついでに貫いてやろうと思ったが後ろに飛び退かれてしまった――が、それで終わると思うなやゴラァ!

 発射し地面の中に埋まった血の杭を爆発させる。下からの爆風とそれによって飛ばされる石飛礫をディエゴに浴びせる。

 奴は障壁を張ってそれらを防ぐが、本命はこれからだ。

 自らの身体をある生物に近い物し模倣する事による魔法儀式、加えて胸の宝石を媒体にし魔力路用の心臓から莫大な魔力を送り込ませる。

 今から放つは虎の子の攻撃魔法。人に対して撃った事はない俺の最強技。


竜の息吹(ドラデュ・スピリア)!」


 大きく開いた顎の奥から放たれた太い熱線がディエゴに直撃した。


改造人間VS改造人間

歩く遺伝子サンプル、キマイラ人間!

いつまで経っても男の子、全身刺青人間!

勝つのはどちらか!!

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