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第二十三話 勇者と戦闘狂。他所でやれ。



 ◆


 名は体を表すという言葉がある。名前は対象の物や人を明実に表しているという意味だ。ただし名前はをれを付けたものの勝手であるし、どんな願いを込めて付けたとしても必ずしもそうなるとは限らない。

 だが、『名』の神がいるこの世界においては重要な意味を持っている。


 ――最初にあったのは『名』


 世界を作り多神教で言うところの主神を生んだ始源の神。それが名の神だ。

 全ての現象・物質・概念に名を付けたその神は神王の座を子に譲って以降は誰も知らぬ特異点へと身を隠したと言われているが、その縁が世界から切れた訳ではない。

 身近に彼の息吹を感じ取れるのはかつて存在した転生者カイザー・ブルーフェニックスが作り出したステータス魔法だ。

 この魔法によって表示されるスキルの名は一体誰が名付けているのか。それは名の神だ。ステータス魔法は対象を分析すると同時に神託を効く魔法なのだ。

 誰がどんな技術を得、どこまで磨いて来たのか。それを判定し名を与えている。

 ただしこれは技術力を判定しそのスキルの名を名乗る許可を貰っているに過ぎない。だからあくまでもスキルを手にするのは本人次第である。

 スキルはまさしく名は体を表すと言うに相応しい。

 そしてその逆に"名が体を表す"という事態もあった。

 例えばギフトと呼ばれるアビリティだ。神々が一部の者に気まぐれで、目的があって、或いは何かの願いで"名"を世界に住む生命に与える。始祖神である名の神程ではないがその系譜の彼らにも名前による力を持っていた。その力で生命に力を与える。

 正に神々の贈り物(ギフト)だ。

 例の一つとして『勇者』がある。時代によって救世主などと名称は変わるが神に与えられた"称号"だ。与えられる理由は様々であるがギフトと違い明確な意図がある場合が多い。世界の均衡が崩れる兆候がありその修正の為であったり、未来予知により世界にとって重要になりうる人物への試練にと与えられる。

 得られる力は一概に言えず、世界からのバックアップを受け特出した力を持つのが共通している点だ。


「世界の加護も絶対ではない」


 勇者ルシオを倒した老兵は歴戦の戦士であった。傭兵稼業の道にて幾度か勇者やそれに準ずる世界のバックアップを受けた存在と衝突した。

 圧倒的な力を持つ彼らに対して老兵が持った思いは『殺せる』だった。

 加護は絶対ではない。十全に発揮する前に仕留めるのも良いし、加護をも超えた一撃で殺すかそれとも加護による力の供給を断つかだ。

 老兵がルシオに対して行ったのは前者二つだ。より正確に言うならばある程度の力を戦闘を行ったら該当しただけである。


(しかし、腕は発展途上でそこそこであっても、"力"は小さかったな)


 全力を出さずに切り伏せた相手の事など毎回覚えていられないが、ルシオとの戦闘で抱いた違和感が尾を引き老兵の意識は僅かに背後へと向いていた。

 だからだろうか、それの直前にふと立ち止まり後ろを振り返った。


「――行かせない」


 ルシオが立ち上がっていた。本来なら出血多量で、いや血を流し体温が下がったことでの凍死の方が早いだろう。それなのにルシオは傷口を魔法で凍らせて、折れた剣の柄を握ったまま二本の足で立った。

 せいぜい生きているのがやっとの筈が起き上がり未だに戦意が萎えていないルシオの姿に、老兵の部下達が驚くが即座に構えを取ってみせる。

 見るからに死に体だが、追い詰められた獣ほど何をするか分からないのを彼らはよく知っていた。

 それでもルシオの行動力は常軌を逸していた。

 老兵に向け、あろう事かルシオは折れた聖剣を投げつける。矢のような速度で飛来するそれを部下の一人が剣で弾く。

 その間にルシオが突進する。当然、彼らも動く。

 剣で弾いた者とは別の者が槍を構えて迎え打ちながら、別の者が矢を放つ。

 牽制の矢は当たっても避けても体勢が崩れ、ルシオは槍の一撃によって少なくとも足を止めるだろう。その僅かな停止の隙に左右から回り込んだ者が一斉に攻撃を仕掛ける。

 合図なしに行われる連携を前にルシオが取った行動は変わらぬ前進だった。矢を腕で受け止め、槍を脇腹に貫通させた上でそのまま槍の戦士に素手で殴りかかる。

 戦士は槍から手を放しルシオの拳を受け止める。途端、戦士の骨が砕けて肉が潰れてた。


「――――ッ!?」


 反対の手で相手を殴り飛ばしてルシオはすれ違いざまに剣を奪う。他の戦士達が周囲から襲いかかるが、腹を貫く槍の柄を掴んで体を回転させて体から生える槍で牽制しながら剣を振り回す。後ろからの攻撃を振り払り、槍の柄を砕いて棍棒にすると剣との二刀流で戦い始める。


(……なんだ、あれは?)


 弟子達と戦うルシオの姿を兜の下から観察しながら老兵は疑問を抱く。鬼気迫るルシオの様子は死を厭わず命の灯火を振り絞ろうとする死兵のように見えるが、戦っている彼の目は後の事も考えている理性が宿っていた。

 なのにこの力。世界からの加護によるものか――否である。

 加護を与えられる人間を何人も見てきた。死を直前にした悪あがきも。それらを全て切り伏せてきた老兵の観察眼はルシオがそれらとズレていると判断した。

 ルシオは砕けた槍の柄を投げ捨て、奪った剣で目の前に振り下ろす。盾ごと相手の腕を切り飛ばした。


「どういう事だ?」


 老兵の口から思わず疑問が漏れた。

 奪われた部下の剣は安物ではないが、盾と篭手ごと斬るような切れ味は無い筈だ。加護によるものか?

 それも否だと、老兵はこの後に起きた現象を見て確信する。

 ルシオの持っている剣が光り輝いたかと思うと次の瞬間には最初に持っていた聖剣へと姿を変えていた。

 投げ捨てられた折れた聖剣が落ちた場所を見れば、同じ箇所が折れた錆び付いた安物の剣が発見できる。


「まさか……」


 改めて見ると、ルシオの傷が『この程度ならギリギリで動かえるかもしれない』程度に塞がっていた。

 魔法で癒した訳でも加護でもない。性能を無視した剣といい、まるで後から辻褄合わせのように変化している。これでは世界というシステムが後から修正しているかのようだった。


「ハッ、なるほど――どけェ!」


 老兵の一声にルシオと戦っていた戦士達が一斉に後ろへと跳躍し、それと入れ替わる形で老兵が一瞬でルシオの眼前にまで移動し剣を振るう。

 いきなり目の前に現れた老兵に戸惑う事なく、ルシオはそれを正面から受け止める――ように見せながら剣を受け流しすれ違いざまに脇を狙う。

 老兵はそれを敢えて前進しながら受け止め、鎧の板金で受け流した。表面に傷はついたが中の肉にまで及んでいない。そのまま斬られた反動を利用して回転し、背後を見せたルシオの背中を斬りかかる。

 大きな隙を見せた結果となったルシオ。だが、柄が折れたまま未だに脇腹に刺さった槍を拳で強く叩き、背中から槍を射出した。

 剣を構えた腕の肘の装甲で老兵がそれを弾くが、槍と共に出る血飛沫に顔を庇う必要があった。血糊は取れにくく、目に入れば暫く視界に支障をきたす。

 その僅かな動きによる剣の振りが遅れている間にルシオは振り向きながら迎撃として剣を既に振るっていた。

 両者の間に激しい剣戟による火花が散る。剣圧による風の流れが二人を中心に渦巻いていく。


「クッ、ククク……」


 一つのミスが死に繋がるやり取りの中で老兵から笑い声が聞こえてくる。最初に剣を交えた時と比べ明らかにパワーと速度、技術が上昇しているルシオに喜びを感じていた。


「詫びさせてくれ、若いの。加護に胡座をかいた未熟者かと思っていたが、まさか"本物"とはな!」


 世界からの後押しではなく、世界側が後から辻褄合わせに奔走する程に出鱈目さを発揮するルシオの特異性に老兵は歓喜しているのだ。


「薄々思っていたけど、戦闘狂の類か。そういう人はどっか行ってて欲しいんだけど」

「構わんぞ? ただ、山にいる王女の所に行くかもしれないがな」

「だからこうして相手をしている。お前を倒して、向こうにいるもう一人も倒す」

「ほほう、気付いていた。まあ、あやつも魔力を隠していなかったからな。ほら、急がんと学園の学生どもが危ないぞ」

「焦らせるつもりなら無駄だ。危険人物は確実に潰す。詫びると言ったのなら、それが侘びになる」

「カハハハッ! 断る! 覚えておけ、勇者ルシオ。儂はヴィルヘルム・バンデオン! 戦場の血で育ち、強者と戦い勝つ事を至上の喜びとする狂戦士よ! 誰かに首を撥ねられるまでは戦い続けるぞ! 死ぬ気は毛頭ないがなッ!」


 手前勝手に笑いながら老兵、ヴィルヘルムは魔力を剣に流し振り下ろす。剣圧がそのまま物理的な攻撃となって大地を割った。




 ◆


 ふっざけんなよクソ野郎がァァァァッ! ちょっかいかけて来やがったと思ったら人をここまでブン投げやがって!


「ああああっ、腹立つゥーーッ! ペッ」


 口の中を切って出た血と一緒に折れた歯を吐き捨てる。派手にブッ飛んだ先は戦闘の余波も届いていない森の中。運が良いのか悪いのか雪の上に落ちるまで木にぶつからず、結構離れた場所にまで移動してしまっていた。


「テリオン!」


 起き上がると、何もない場所からベルがいきなり姿を現す。わざわざ追ってきたようだ。だが丁度良い。


「お前、これ持ってろ」


 腰のポーチから念の為に持って来ていた栄養剤だけを取り出して、ポーチと防寒具の上着をベルに投げ渡す。


「わっ、い、いきなり何?」

「グループの皆は?」

「えっ、途中で意識が戻って来たから、あの……男子に任せた」


 名前覚えてないなこいつ。クラスメイト全員とは言わねえけど、せめてグループの仲間は覚えておけよ。


「よし、じゃあ今度は王女を助けてやれ」


 指示を出した後、俺はベルに背を向けて地面に引き摺られて出来た溝に沿って戦いの場へと戻る為に移動する。

 あー、それにしても腹立つ。というかここまで不幸続きなんですけど?


「出遅れるの嫌だからお前行ってこい? そりゃあ寿命のないハイエルフ様は長生きで暇してるでしょうねえ。俺が犯人? そうだなー、他国の人間で変な種族ですもんねー。つかあのボケは何で今更出て来て遅いっつーの、予知能力者だろもっと早く知らせに来いっての。後輩撫でてる最中? アウターアビリティ持ってねえ奴に用はねえってか? ざけんなよダボが!」


 愚痴りながら栄養剤の固く閉じられた蓋を開けて一気に飲み干す。あー、二本持ってくれば良かった。終わったら腹減るだろうな。


「まさかまた戦う気なの? 勝てるの?」


 後ろからベルが不安そうに聞いて来るが無視する。

 勝てるか勝てないとか知るかっつーの。兎に角あの野郎を打ちのめす。戦力とか実力差とかそんなのどうでもいい。取り敢えず殴る。ブン殴る。何をしてもボコる。絶対に。


ルシオ「祖父の剣で村を襲おうとした盗賊団を倒したぞ!」

世界「それ錆びてて耐久値振り切ってるんですけど。えぇ、何で折れてないの?」

ルシオ「何度か死にかけたけど生きて魔物を倒したぞ!」

世界「重傷のまま全力以上に動いてんだけどこの子。例えるならHP:1のまま減らない!」

ルシオ「技がー魔法がーetcetc…………」

世界「法則がががががが――せや、剣は聖剣だった事にして不死身なのは怪我が治ったことにしよう」


 こんな感じで後から辻褄が合うように世界側が辻褄合わせを頑張ってる。

 何人かが“本物”と言ったのはバカとかデタラメと云うニュアンスがあっての事。


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