第二十二話 チートっていいな。便利だな。チクショウ!
「火よ!」
「雷よ!」
「力を与えよ!」
騎士達の魔法と強化された矢が同時にディエゴと名乗った男へと放たれる。
ディエゴは襲い来る攻撃を前に人差し指の先に光を宿らせ、滑らかに動く。光の輝線がそのまま宙に残り一つの文字を描いた。
すると、騎士達が放った攻撃全てが見えない壁に阻まれた。
呪紋魔法!? 言霊を媒体にする一般的な魔法と違い文字を媒体にした魔法だ。呪紋なんて言わず単純に文字魔法と言う場合が多い。だがあれは特殊な紙とインクで最低一ページ程の記述が必要な筈だ。それをたった一文字で魔法を防ぐほどの力を持つなんて。
それにあの文字は――
「ルーン文字!?」
「…………」
アクセルが叫んだ。解説キャラが出番を奪われる気持ちが分かった。
「その通り! ゲルマンのルーン文字だ。勿論、そのまま使っても何の効果はないからアレンジしてあるけどな」
ディエゴが嬉しそうに笑う。これだけ見れば前世知識を活用して調子乗ってるだけにしか見えないが、これは本気で凄い。
文字にも力が宿ると言っても、それはこの世界独自に文字体系に限られる。俺だって文字魔法の存在を知って前世の文字をいくつか試したが、どれもただの落書きにしかならなかった。あと余談だが漢字は格好良いとしてドワーフ連中が既に昔の転生者から仕入れていた。
「やっぱり前世がドイツ人だった身としては是非とも使ってみたくて、色々頑張ったんだぜ。それにアウターアビリティとの相性が良かった」
くっそどうでもいいが、奴が空中に浮いて解説して来る間にも騎士達は頑張って攻撃しながらも少しずつリズベット王女を後ろへと避難させている。そしてディエゴは指を指揮棒のように動かして盾で身を守り続けている。うーん、シュール。
「俺の力は<魔法付与>。本来なら材質や構成を考慮し綿密な設計の元に物質に対して効果を与える付与魔法。それを強引に強力な付与を施せる能力だ。だけど、こうしてスペルマジックとして活用した方が便利だ」
だけどこっちに意識は向いていない。調子乗るタイプで良かったな。
「今の内だ。逃げろ。こそっとな」
グループのクラスメイト達を下がらせる。さっき、俺達も攻撃するとか言っていたからさっさと逃げるに限る。
「さて、俺の能力は言った。次はお前らが示す番だ」
ディエゴが指を滑らせる。描かれたのは「く」の字の真ん中に横棒を加えた文字。
途端、文字から炎の塊が出てそれが蛇のように地を這い回って暴れ始めた。
「避けろォ!」
あいつ無作為に攻撃し始めた! 慌てて走り出す生徒達だが、それで良い。寧ろあの火力と範囲は下手に魔法の盾で防いでも後ろから焼かれるか蒸し焼きになる。
というか何やってんだよアクセル。こういう時の為のチートだろ。オラ活躍の機会だぞ馬鹿野郎。
俺の祈りが届いたのか、アクセルが炎の前に飛び出して腕を振り下ろす。すると見えない巨大なハンマーで叩かれたように炎を中心とした地面がへこんだ。生き物に使ったら地面のシミになるような威力だ。
よくやったクソ野郎! でも重力操作怖ェ! それを人には向けるなよ!
「落ちろ!」
だがアクセルは掌をディエゴに向けてその力を振るう。相手は王女を狙った犯罪者だからオッケーか。でもスプラッタは子供にキツいと思う。俺は自分で慣れているが。
だが、予想した光景は起きなかった。ディエゴは素早く自分の頭上に文字を描き、それを傘のようにして重力攻撃を防いだ。文字、というよりも図形で五角形を逆さまにし更に幾何学的な無数の線が描かれている。
「ナコト五角形!?」
アクセルが目を見開く叫ぶ。
何それ知らない。えっ、この世界の物? それとも前世にあんな物あんの? 後者ならスゲーな地球。
「勿論こっち仕様にアレンジしたがな! 時空間に作用するから中々便利なんだよ。ところで、上ばかり見てると足元が危ないぞ」
ディエゴの指摘に地面へ視線を下ろす。炎の塊はアクセルが潰したが、尾のように火の線が地面に残っている。ここからでは全容は見えないが、まさか間接的に文字を描いてそれを媒体にしたのか。
気づいた所で遅い。戦場となったこの場の中心に魔力が急速に集まるのを感じる。
「全員、盾を張れ!」
解放された魔力が衝撃波となって周囲に放たれる。俺は両腕を変化させて皮膚に生えた黒い装甲を広げて盾にする。
「グオッ!?」
盾にハンマーで殴られたような衝撃が来てたたらを踏む。衝撃波はすぐに通り過ぎて、第二波が来る様子はない。完全に舐めプされているが、魔法学園の生徒達にとっては強烈だ。
「おい、大丈夫か?」
クラスメイトが気になり振り返ると、グループの六人が倒れていた。一人足りないと思ったが、ベルがいきなり姿を現す。空間の裏に隠れて難を逃れたようだ。
無事なのは放っておいてクラスメイトの状態を確かめる。衝撃で打ち身になっているが死んでいないし骨も折れてないな。だけどショックで気絶してやがる。
リズベット王女の方を見れば、リズベットとフェイリス、アクセルの三人以外は同じく学生達が倒れ伏している。護衛は流石と言うべきかまだまだイケるな。
それでもこれは篩を掛けただけでディエゴの驚異度は下がっていない。それどころか間接的に描いた文字まで媒体として発揮する以上より上がった。それにまだまだ隠し玉はあるだろう。
「残念だがこんなもんか。それじゃあ、次だ。ちなみに下手に避けると生徒に当たるぞ」
ディエゴが両手で宙に文字を描きながら言う。後半の言葉に最も反応を見せたのはリズベット王女だ。護衛対象である癖に背中から白い翼を生やして攻撃的な姿勢を見せる。
「そうそう。守ってばかりじゃ守れねえぞ」
宙に浮かび優位な位置にいる癖によくぬけぬけと言うもんだ。
相手の魔法の効果範囲、それにリズベット王女がやる気満々になってしまった事からそれぞれが覚悟を決めたようだ。戦闘が再開される。
「クッソ……ベル、お前は生徒達をどっか安全そうな場所に避難させろ」
「微妙にふわっとした言い方……テリオンは?」
「嫌だけど加勢する」
腕の盾を普通の手の形に戻す。鉄を含んで黒色のまま頑丈に筋力を強化して背負っていた荷物を下ろし、メイスだけを持つ。次に靴を脱ぎ捨てて足を獣の足に変化させる。冷てぇ!
ああ、ヤダヤダ。だけど相手が空におり、空中戦ができるのは重力操作によって浮くアクセルだけであり、護衛の騎士達は魔法か矢で地上から攻撃するしかない。リズベットは光の羽を生やせるのに飛べないみたいだし、俺ならディエゴの高さまで跳躍できる。
翼を背中から生やして一応飛べると言えば飛べるが、すっげー疲れて戦闘し難いし速度が出ないので逆に的だ。
「頼んだぞ」
言って、返事を待たず俺は駆け出す。何かこっちの存在を完全に忘れているようで、文字魔法による攻撃魔法をバカスカと爆撃機のように撃ちまくり、重力操作で浮遊するアクセルに対しては魔法で作った鎖で牽制している。
完全に遊んでやがるが、こっちとしてはありがたい。俺は音を立てずに視覚へ回り込んで跳躍し、エンジョイ転生者の頭をカチ割る為にメイスを振り下ろす。
だが、後ろを見ずにディエゴが手を俺の方に向ける。指に嵌めた指輪の一つの表面が光の文字を発しており、そこから魔法障壁が展開してメイスを防いだ。
チッ、道具にも仕込んでいたのか。本当に便利だな! 俺もそんなチート欲しかったよ!
「何だお前? 変わって手足だな」
「ガハッ!?」
別の指が光ったと思ったら、腹に衝撃が来た。後ろに吹っ飛ばされるが、空中で体を捻り地面に足から着地する。
すぐに顔を上げるとアクセルが上から、フェイリスが下からディエゴに斬りかかっていた。
「うおおおッ!」
「はぁっ!」
重力そのものが効かないと分かってアクセルは剣に直接重力を掛けて威力を上げて振り下ろす。フェイリスは例のインテリジェンスソードの刃を伸ばして地上から攻撃する。
「よっと」
そこでディエゴは少しおかしな行動を取る。如何にも重いアクセルの剣を障壁で受け止めつつも、意表は突くであろうがそれだけのフェイリスの剣を避けた。
「それ、魔剣フラヴラガラだろ。知ってるよ。だから正面から受け止めたりしないぜ」
魔剣とかカッケー……言ってる場合じゃないな。よくは分からないが言葉通りフェイリスの剣を防御するつもりは無いようだ。
奴に攻撃を通す手段が無い以上、フェイリスの剣が攻略の糸口になる。なら、動きを止めてやれば勝機はある。
「このっ!」
リズベット王女が背中の翼を広げると、無数に枝分かれしながらディエゴを襲う。
「ハハッ、残念だが当たらない。ちょ~~っと練度が足りないな」
いや、十分だ。足を再び変化させて周りに筒を作り出す。下向きに大きなのを二つ、上向きに細い管を四つ。
「風よ、集いて固まり――」
両足で計八つの管が魔法の力を借りて空気を集め圧縮し始める。
木の枝のように翼から広がる光の槍をディエゴが次に通るであろう空間を予測し、助走を付けて地面を蹴る。
「解き放て!」
獣人族の跳躍力に加え、下向きに生えた筒から圧縮した空気を一気に噴射させる。加速を得た俺の体はすぐにディエゴの背後へと移動した。
「また背後取ったぞゴラァ!」
片手でメイスを振り下ろす。が、やはり指輪からの障壁で防がれる。レーダーでも搭載してんのかよ。
「スピード上げれば良いってもんじゃないぞ少年」
「知ってるよ」
実は受け止められると分かっていた。だけどそれで十分だ。メイスを持っていない方の左手を即座に巨大化させる。
「雷よ与えよ!」
帯電した巨大な手がディエゴを球体の障壁ごと掴む。これで動けないだろ!
「フェイリス、今だ!」
俺の意を察したフェイリスがディエゴに剣を向けると刃が矢のような速度で伸びる。そのまま串刺しになれ。
「ヒュゥッ、大雑把だが悪くない。だが残念だったな」
迫る刃を前にして余裕の表情を見せたディエゴの指が踊る。すると障壁が巨大化した。
「ハァ!?」
俺の体は障壁に押しのけられ、刃を躱すのに十分な空間を得たディエゴは簡単にフェイリスの攻撃を避けた。
大小を変えると言えば簡単だが一度発動した障壁の形を後から変えるなんて、それは電源を入れたまま機械の回路を組み直すようなもんだ。それに加えて、さっきから思ってたがこいつ魔術師の癖にこちらの動きを寸前で読みやがる。
二度目の失敗で地面にまた足をつけた俺をディエゴは見下ろしていた。文字通りの上から目線腹立つな。
「いいねぇ、若者の向こう見ずなところ。嫌いじゃないし、面白い特技を持ってるな。でもパワー不足だったな」
片手間に雷撃を発生させてアクセル達を牽制しながら勝手に喋り出す。隙だらけに見えて、魔法の発動が指の動作だけで一瞬の内に発動するので付け入る隙がねえ。
「将来面白くなりそうだけど、それってギフトでもアウターアビリティでもないな。そういった気配がない。悪いな、今は後輩を撫でてやってる最中なんだ」
「――あ゛?」
「だからキツいの行くぞ」
気付けば、体の前面に凄まじい衝撃が襲い、俺は後ろへと吹っ飛ばされていた。真っ赤に染まった視界の中、リズベット王女やフェイリスの姿が急速に遠ざかっていき、山の木々に体を何度もぶつけ視界が上下左右に狂ったように揺れて最終的には崖の壁に体がめり込むほど強く衝突した。
◆
王女襲撃という事態の中、山の麓でも戦いは行われていた。
「……ふむ」
剣を持ち佇むは鎧に身を包んだ老兵だ。周囲には彼の弟子であり部下である戦士達が見守っている。
「こんなものか」
そして、兜の面が向く先には木の幹を背中の支えに倒れているルシオの姿があった。光り輝く聖剣は半ばが砕け、全身には剣による切り傷と手甲で殴られたのか打撲の痕。それだけでも重傷に入るが最も深いのは袈裟斬りによって刻まれた裂けたような切り傷だ。
骨まで達しているであろう傷は例え生きていても、出血死するだろう。現に傷から溢れ出る血によって地面の雪が赤く染まりその熱で溶けていた。
「……行くぞ。ここまで来たのだ。魔女共に借りでも作っておくか」
そう言うと、老兵は興味を失ったように若き勇者に背を向けた。
駄目な方「チートがー、アビリティがー」
良い方「第二の人生、悔いのないよう」
迷惑な方「ヒャァハーーッ!」




