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第二十一話 どこの世界もイカれた奴はいるもんだ


 王女との思わぬ会話があってから一夜、山の中の自然一杯の涼しい――つか寒ッ。暖かい時期でも雪が積もったままだけあって寒いよこの山。昼間はちょっと大げさかなと思った防寒具装備だが、案外丁度良かったかもしれない。

 昨夜は躁鬱病のように突如落ち込んだリズベットと転生者談義で何気に盛り上がった。特に赤ん坊の頃の話で。

 前世では社会的にまだ若造の年齢で死んだが精神は育っている。そんな精神性と知識を持って身体が未発達な赤ん坊をやり直すとストレスが凄まじいのだ。

 最初は目も耳も上手く機能していなくて霞んでいる。脳もそうなのか上手く考え事ができない。周囲の様子が分かるようになって頭も働くようになっても今度は言葉は意味不明だし、何よりも自由に立って歩けない。排泄だって我慢する為の筋力が発達していないのかそういう回路が脳にまだ出来ていないのか垂れ流しの癖に、前世では成人を過ぎた精神的にクソ恥ずかしかった。

 身体が意思通りに動かせないストレスは凄まじく、マジ泣きするしかなかった。赤ん坊がよく泣くのは周囲に対する信号であると聞いたが、本当に泣いてストレスを発散させる意味もあると思う。

 その辺りで大分リズベット王女とは話が合った。その間フェイリスは放置だったが、楽しそうに聞いていたので大丈夫だろう。大丈夫だよな? コミュニケーションヂカラが不足してる俺にはちょっと分からない。


「テリオンさん、どうしました?」

「いや、何でもない。ところでさん付けは止めてくれるか?」

「そんな恐れ多い」

「…………」


 同グループの男子から距離を感じるテリオンです。

 彼は最初の話し合いの時に近くにいた男子、ロイだ。それ以降、ロイとはグループ行動の為によく話すようになったのだがまるで上司と部下みたいな感じになっている。誤解覚悟で言うなら兄貴と舎弟的な。ちょっと悲しい。


「そろそろ朝飯だが……ベルがまだか」

 

 他グループも含め生徒達が起床して朝食の準備を進めている訳だが、俺のグループは一人だけまだ姿を見せていない。飯程度一人いなくても大丈夫だが、出発する段になってもそれでは困る。

 女子のテントを見てみれば、入口から女子の足が見えた。耳をすませると、どうやらベルを起こそうとしてくれているらしい。効果は薄いようだが。


「まだ起きないのか。ちょっと入るぞ」

「は、はい」


 一言女子に断りを入れてからテントの中に入ると、毛布に何重にも包まったベルが猫耳だけ出しているのを見つけた。蓑虫どころじゃないなコレ。


「耳塞いどけ。デカイ声だすぞ」


 ベルを起こそうとしていた女子が両手で耳を塞いだのを確認してから喉の中を少し変化させる。


「――あぎぃる! ぐるぅぎぃあっ!」


 某恐竜映画のラプトルのような声で吠える。奇妙な声だがこれが意外にも動物に効くのだ。獣人にもそうだし、それ以上に本能が強いと言われる月猫族なら効果は高い。

 現にベルの姿が一瞬で毛布の中から消え、次の瞬間にはテントの端で四肢を踏みしめ警戒しながらも困惑した表情で姿を現した。


「へ? い、一瞬で移動したの?」

「朝だぞ。顔洗って飯の準備だ」


 何がなんだかというグループの女子をスルーして、テントを出る。

 良い朝だなー。さっきの鳴き声で得体の知れない物を見るような目が集まっているのを除けばだが。

 ……早く終わらんかな、野外授業。




 ◆


 アーロン魔法学園の生徒達が野外授業として使っている山の中、王女の護衛として幾つかの部隊がいた。

 王女の周囲を守る部隊だけでなく、山そのものに不審者を入れない為に巡回している部隊が複数ある。

 その一つが潰された。


「こんなものか」


 地に伏した兵達の間を歩くのはフルフェイスの老兵だ。自分は鞘から剣を抜かず、全てを弟子である部下達に処理させた。

 戦いに決着がついて漏らした言葉が先のものだ。


「元から期待はしていなかったが、本隊でないのなら及第点か。良くも悪くも肩透かしを受けた気分だ」


 襲っておきながら手前勝手な事を言いながら、王国の兵達の間を進む。向かう先は王女のいる山だ。


「……ふむ、ただ行くのもつまらんな。よし、各自散開して王女を捜せ。もしかすると当たりと出会う事もあるだろう」


 老兵の発言の下、統一性のない武装をした戦士達が動き出す。

 彼らが山の中に踏み込もうとした瞬間、地面から突如石の槍が無数に生えた。槍衾となって進路を遮る石の槍に戦士達は即座に後ろに下がる。


「思ったより早かったな。勇者の直感というやつか?」


 弟子達は回避したのを見届けた老兵の顎が上がり、いつの間にか石の槍の上に立っていた少年を見る。

 

「勇者、とは言われているけど、それよりもお前達は何者だ?」


 アーロン王国の勇者と言われているルシオが老兵を睨み返す。既に光り輝く剣を持って臨戦態勢であった彼を見て、老兵は鼻で笑う。


「ハッ、何者だ、か。不意打ちをしたにも関わらず弟子一人も殺していない癖によくもまあ上から物を言う」


 槍衾を回避する為に後ろに下がった部下達の前に老兵が剣を抜きながら前進する。直後、ルシオの姿が石槍の上から消え、老兵の目の前で剣を振り下ろしていた。


「いや、やっぱりいい」


 老兵が即座に剣を構え、ルシオの剣を受け止め鍔迫り合いとなる。


「取り敢えず先にぶちのめした方が良い」

「ク、クッ――その考えは良しだぞ小僧」


 僅かな時間の鍔迫り合いの後、二人の身体が同時に後ろへと下がり、すぐにお互い再び前進して剣を振るう。鋼と鋼がぶつかり合い、二人の間に火花が無数に散った。

 その速さ、金属同士がぶつかる轟音から察せられる威力、目まぐるしく変わる立ち位置。剣を打ち合っているだけでも凄まじい光景がそこにあった。

 老兵の部下達は二人が戦いを始めた時点で後ろに下がる。最初からそう段取りされていたかのように、老兵に加勢する訳でも山にも入ろうともせずに二人の戦いを眺め始めている。

 剣を振るいながらルシオは周囲の敵の様子を不審がる。最初は一連の王女襲撃の関係者でしつこくも王女を狙ってきた輩達と思っていたが、戦意を迸らせているのは目の前の老兵のみ。

 まるで最初から目的は自分であるかのようだ。自分をおびき寄せ足止めするとしても、数でかかって来ないのはおかしい。

 一対多を得意とするルシオは相手が集団で来ているのを察知し、共に来た騎士達を王女の護衛に向かわせた上で単独による足止めこそ目的だったのだが、これでは肩透かしも良いところであった。

 この行動に一体何の意味があるのか。その疑問を持った瞬間、ルシオの頭の中で一つの単語が思い浮かんだ。


「まさか――まあいいや」


 思い浮かんだが、取り敢えず倒してから考える事にした。


土よ(テウラ)!」


 一度距離を取り、ルシオは剣を地面に突き立てる。すると大地が揺れ、巨大な石の剣が無数に生えて老兵とその部下達に襲いかかる。それだけでなく、土で出来た巨人の腕もまた生えて敵に鉄槌を、倒れた王国の兵は掴んで別の場所へと移動させる。


「周囲に構っている余裕があるのか、小僧」


 巨大な石の剣と巨人の腕が襲い来るという天変地異地味た現象の中、それらを全て避け進みながら老兵が魔法の中枢に立つルシオへと斬りかかった。




 ◆


「どうした?」


 今日一つ目のチェックポイントに到着して小休止を挟んでいると、寒さに震えて温めたお湯にドライフルーツを浮かべた物を飲んでいたベルがいきなり周囲を警戒し始めた。耳と尻尾のせいでビビった猫そのものだった。だけどそのわざとらしくない小さな体に似合った行動が好感度を稼ぐのか、あまり会話の無かったグループの女子に段々と構われ始めている。


「ヤバい」

「そりゃあヤバいな。まあ、王女がいるもんな」


 だいたい二十のグループがこの山を歩き回っている。チェックポイントが幾つか被っているのは当然あって、昨日のキャンプ場からここまで道中、王女グループと一緒だった。

 一緒と言っても、いかにも武官系列の家と国に忠誠誓ってます系教育を受けた貴族の子息子女らが周りを固めているし、そういう専門部隊なのか少し離れた所で部隊が隠れて見守っている。

 だから分かるよ、ヤバいって。俺メッチャ警戒されてるもん。具体的に言うと、昨夜王女と駄弁ってから特に。悪い虫だと言われないか心配だ。


「違う。そっちじゃなくて、遠くから何だかゾワゾワする」

「ふーん。こっち来そうか?」

「分からない」


 ぶっちゃけ気のせいだろと言いたい所だが、野生の勘で何か察したのかもしれない。


「少し早いけど出発するか」


 薄情だが、もしかすると王女関連かも知れない。巻き込まれない内に王女達からグループを離した方が良いだろう。

 そう判断して、再出発を急ぐよう指示出しする。そうしていると何だか王女グループの方が騒がしくなった。

 遅かったかと思ってそっちを見てみると、アクセルがいた。何でいんのアイツ。コラそこのオタク垂涎ものの猫娘、露骨に嫌な顔(ほぼ無表情)しない。お前のご主人様(縁切り予定)だぞ。喜べよ。

 どうやら自分のグループから離れて単独でここまで急いで来たようだ。

 何やら慌てた様子で王女に訴えかけているようで、王女グループの男子に止められている。加えて王女のステルス護衛隊の輪が狭まっていた。ざまぁ。


「……待てよ」


 あいつって確か重力操作以外に未来予知のアビリティ持ちだったよな。

 何かを土壇場で予知して、危険を王女に訴え掛けに来たのか? だとしたら、本当に一緒にいるのはマズイ!


「荷物はもういい! 急いでここから――」


 叫んだ瞬間、どこか遠くから岩が崩れるような音がした。距離は遠いが、山の向こうに尖塔が――いや、あれは石で出来た剣だ。それが何本も生え続けていく。

 なにあれヤバくね? そう思った直後、頭上から赤い光が俺達を照らした。クソがッ、遅かった!

 空か炎の塊が辺り一面に降り注ごうとしていた。


水の力場よ(アクエス・ヴィズ)!」


 水の属性を目の前に広げてこちらに落ちてきた火の玉の火力を弱める。火の玉は俺達の横の地面に落ち、雪を蒸発する程度で終わったが他の場所に落ちたのは小さな爆発を起こしていた。

 全て直撃していない。せいぜいが着弾の爆発の余波程度で死にはしないだろう。一体何のつもりなのか、火の玉が落ちてきた空を見上げる。

 そこには薄汚れたローブを着てフードを頭から被ったいかにも魔術師風の男が宙に浮いていた。

 杖なし、使い魔なし。けれど前を留めていないローブの下、腰のベルトからは何冊かの魔道書を固定している。そして宙に浮かぶ魔法を維持するだけの実力者。


「――よし、逃げよう。無理だ」

「どうやって?」


 ベルの冷静な指摘が痛い。即断したのは良いが、いきなり炎のシャワーを不意打ちでかましてくるような相手が簡単に逃がしてくれるものなのか。

 モブAが逃げた途端見せしめに燃やされるパターンのような気がする。


「テ、テリオンさん」

「お前ら、直ぐに防御が出来るようにしとけ。逃げるのは相手の出方を見てからだ」


 グループの同級生に不用意に動かないよう注意して、相手の出方を窺う。王女の護衛も炎のシャワーを避けて姿を現し、盾になるような位置に集まり始めた。


「フハハハッ、今のをよく凌いだ少年少女達!」


 ……あっ、こいつって。


「貴様――」

「俺が何者で、一体何者が知りたいんだろ?」


 怒鳴ろうとした王女の護衛の言葉を魔術師が遮る。


「普通は教えない。教えないが、将来有望な若者達に俺は敢えて言おう。我が名はディエゴ・シース!」


 ババーン! てな感じで指輪だらけの手の平をこっちに向ける魔術師。やっぱりだ。こいつ、悪役プレイを楽しんでるクチだ! 思春期のまま大人になっちゃったタイプだ!


「ディエゴ・シースだと!? まさか呪紋術師(スペルマスター)ディエゴか! ヴェズロガ帝国の指名手配犯がどうしてアーロンに!?」


 ありがとう護衛の人。とにかくマジの犯罪者と分かった。早く逃げよう。


「俺の事を知ってるなら分かるだろ? 強い奴に会いにだよ。正確に言うなら今回はまだ若いギフト持ちに発破をかけに来たのさ。将来、俺の敵として立ち向かって来て欲しいからな」


 しかもこいつバトルジャンキーだ。ゲームや漫画だと分かりやすいキャラクターで親しみやすいが現実にいたら特定の業界にしかいられないアウトな人種だ。

 でも目的がギフト持ちなら安心だ。狙いは転生者でアウターアビリティを持つリズベットとアクセルなのだろう。チート欲しいなー、と日頃から思っている俺だが、今回ばかりは助かった。


「俺達がここにいても邪魔になる。少しずつ後ろに下がるぞ」


 突然の事態と有名な犯罪者の名前にグループのクラスメイト達は怯えていたが、もっともらしい事を言って避難するよう促す。奴の視界から逃れたら俺はこいつらを安全な場所まで誘導しつつ、ベルを他の教師や騎士達の所に向かわせよう――なんて思っていました。


「だけどせっかくここまで来たんだ。魔法を学ぶ魔術師の卵達に壁を見せてやろうとも思う」


 こいつ何言ってんの?


「特殊な力が無いからって不貞腐れる必要はないぞ! 要は経験だ。だから俺という驚異を経験して奮起しろ! 折れても負けないという反骨心を見せてくれ!」


 無駄に暑苦しい上に身勝手な事をほざく男が魔力を高め始めた。ヤダこいつ頭おかしい。


魔術師「ヒャッフゥー!」

老兵「よっしゃ殺し合いだ!」


大物感ある悪党? ないです。

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