第十九話 王国って実は厄ネタ満載
悪逆帝と呼ばれた転生者ジンは大帝国を築いた。国が大きければ人材も多く、そいつ以外にもドグサレ外道(デネディア談)が山といたらしい。
その中の一人に魔翼族がおり名前はヴィターニア。数多くの禁呪に手を出し同胞をも手にかけた魔翼族の罪人。その力は他の魔翼族の追随を許さない力を持ち、彼女一人だけで制空権を獲られ続けた。
ヴィターニアを倒すのには飛行能力を持った多くの種族が協力した上で多くの犠牲が出、魔翼族側からも少なくない死者が出た。
だがそのおかげでヴィターニアを封印――
「――いや、そこは憂いなく殺しとこうぜ。禁呪使いとか絶対に封印破って復活してくるから」
「…………どこに封印されたのか分からないの」
「はぁ!?」
ちょっと震え声で告白するデネディア。
「何でだよ!」
「本当に激戦だったのよ。敵はヴィターニアだけじゃなくて、空も地上も大混乱。私だって体半分吹き飛ばされて最後の方は意識が朦朧としてたし」
寧ろそれで何故生きている。
「魔翼族の一人が命と引き換えにして封印魔法を当てたんだけど、急場だったから構成が滅茶苦茶になってどこに封印されたのか分からないの」
「それって実はもう復活してるだろ」
「それは無いわ。絶対に。あの子は封じる一点に全力を注ぎ込んだ以上、封印を破るのは生半可な方法では無理よ」
そう断言するデネディアの目は今まで見た事が無い程真剣な目だった。同じ魔翼族という点からも因縁浅からぬ仲ではないだろうし、その封印をしたという魔翼族とは親しかったのかもしれない。
「でも外部から封印を外される可能性もあると言えばあるのよね」
「そりゃぁなあ」
永遠に封印できたらそれは殺してるのと同じだろうし。
「封印もこの国にある可能性が高いのよね」
「…………あの公爵様はそれを?」
「知ってるわよ」
「あのクソエルフ!」
厄ネタがずっと昔から存在して星詠みが危ないって言ってる場所に俺を放り込みやがった!
「だから帰りましょうって言ってるの。大丈夫、テリオンの身の安全は魔翼族が守るわ」
「監禁ルートじゃねえか。断る」
肉体的に死ぬか精神的に死ぬかの違いでしかない。
「そろそろ金返せ」
「もう、せっかちね」
怖い話を打ち切って言うと、デネディアが引き出しから金の入った袋を取り出した。音で分かる重量感。掴んで中身の硬貨の種類と枚数を数え、その内の四分の三を返す。
「ええっ、それだけでいいの?」
「いや、十分なんだが。というかお前から金貰うと呪われそうだから嫌だ」
「何でバレたの?」
「親から既に幾ら送ったか聞いてたから」
「沢山持っててもいいじゃない。ヒモになりたいんでしょ?」
「何の責任も気兼ねもなく一切の憂いなしで暮らしたいんだ」
「どうしてそう堂々と言えるのかしら?」
誰だって考えるだろ。
金を受け取って用件を済ませた以上、長居は無用だ。不満そうな声を上げるデネディアを無視して部屋を出ていき、下にいたベル達を回収して買い出しに出発する。
野外授業で向かう山は別段険しくなく、生徒の合宿先にされるだけあって比較的安全なようだ。ただ年中気温が低く、今の暖かい時期でも雪が積もったままなんだとか。
だから時期的に早いが防寒具を買わなければ。それと武器。別に崖を登る訳でも道のない植物だらけを行く訳でもないが、杖代わりになる柄の長いメイスが良いな。あとは鉈かピッケルの役割もある手斧があれば尚良し。
新品の武器を買うという事態に大人気なくワクワクする。男の子だもん、仕方ないよな。
そう思いながらも顔には出さず俺は同級生達の案内の下で王都を歩く。
公国と違い建物が多い。逆に緑は少ないように見える。というか公国の建造物が住んでいる種族の数だけあって一貫性が無い。
異国の風景を楽しんでいると、妙な物を発見した。
「何だあの店?」
やたらと派手で店先には写真がいくつか置かれている。全て同じ人物の写真である。撮っている角度や衣装が違う。こんな風景、前世で見たぞ。
「あれはヴァレリアのファンショップよ」
「ファンショップ!?」
まんまアイドルじゃねえか! えっ、ヴァレリアって歌手は歌手でもアイドル方面? 誰だよそんな概念持ち込んだの。絶対転生者だろ(偏見)。
いやさ、日本のアイドル地味たこの光景は王国の街に浮きまくっている。それなのに近隣住人に受け入れられているというこのシュールさ。もう訳が分からないな。
店先の商品の値段の高さに驚きながらファンショップの前を通り過ぎる。値段と言えばふと気になった事が出来た。
「そういや、お前はちゃんと給金貰ってんのか?」
表向きは普通の学生として振舞っている奴隷身分のベルの懐事情が気になり、同級生達には聞こえないよう囁く。
「ないよ。だからアクセルから盗んできた。足りるかな」
猫耳を小さく動かしながらベルは財布を取り出した。デネディアが泥棒猫と言ったが、決して的外れではないようだ。
「……取り敢えずそれは使わず持ってろ。金なら俺が出してやるから」
「えっ、でも……」
「盗んだ金を簡単に使うな。癖になるぞ」
折角保護した数少ない月猫族の子供の手癖が悪いだなんて、養子に乗り気な月猫族の族長に悪いもんな。
◆
「手癖が悪いな」
アーロン王国領土内にある洞窟の中、若い男の声が反響する。巡礼者のような薄汚れたローブを身に付け、地面に敷いた敷物の上で書き物をしている。
「いきなり何よ?」
男に言葉を返すのは女の声。ただしそこに姿はなく、声がした場所には一匹のネズミが岩場の上に立っている。
「王女に触れた物を盗んで魔導生物を作ったんだって? せこい真似するよな」
「気を逸らす為の即席魔導生物なんだからそんなものよ」
「そんな玩具など使わず、早々に片付けてしまえば良いものを」
洞窟内に三人目の声が響く。それは血臭が漂う奥から聞こえてきた。
この洞窟には近隣の主である熊型の魔獣が住んでいた。
魔獣とは魔法を使う獣を指す。魔力は生物が当たり前に持っているが、使う才能が必要になる。それは獣も同じだ。人との違いは生態として魔法の力を取り込み点である。
魔力をそのまま純粋な力として利用する魔獣は自ずと強力な存在となる。弱肉強食の自然界で会得した固有魔法に加え体格が大きくなる。
大人三人分の体長を持った巨体に炎を吐く熊型の魔獣がここの主だ――それもつい先ほどまでの話ではあったが。
「魔女と言うのはどうも面倒な手を好む。始末したいのなら殺し、邪魔な物は叩き潰せば良い。手が有るのに使わんとは怠惰の証よ」
森の主であった魔獣の首は今や胴体から切り離されてフルフェイスのヘルメットを被り鎧を身につけた戦士の椅子になっていた。しがわれた声からして男の老人。その装いは傭兵のように見えるがただ座っているだけと言うのに凄みが感じられた。
斬られて間もない魔獣の首からは残った血が流れ洞窟の外へと小川のように流れ出ており、血の臭いに誘われ獣が来るのだが古強者の空気を察してか逃げるように引き返していく。
「何だっけ? どこぞの誰かの封印の解除だっけ? その為に王女の命を狙ってるっていう偽装……ぶっちゃけ混乱を起こすにしてもやり様はいくらでもあるよな」
ローブの男もまた、目の前を流れる血の川をインク代わりに手を休める事なくわざわざ動物の革で作ったと思われる紙に血文字を書き綴る。使っている材料もそうだが、男からは魔性の気配が漂っていた。
「どうにか目を逸らさせる必要があったのよ。そう思ってたら王女が目について」
「行き当たりばったりだろお前ら」
「別に政治犯ではないのだから、目的を達成できれば良いわ。だいたい、それを言うならあんたらも何しに来たのよ。帝国で奇声上げて暴れてた筈でしょう」
「奇声は上げてない。あれは呪文だ」
「儂も気合の声を発しただけだ」
「奇声じゃない。で、本当に何しに来たのよ。あんたら戦闘狂は正直邪魔なんだけど」
ローブの男と鎧の男は顔を見合わせてから女の声を発する鼠に振り返る。
「転生者が多いって聞いたから、先達として撫でてやろうかと」
「前から気になっていた勇者の実力を見に。つまらんようなら殺す」
「やっぱあんたら帰れ。……ところで良い匂いがするんだけど、奥で何やってるのよ?」
「弟子達が熊鍋を作っておる最中だ。使い魔だから食えなくて残念だったな」
「折角倒したんだ。一片も無駄にはできないよな」
「魔道書の材料に肉料理、か。この魔獣も災難ね」
気のせいか表情のない鼠が疲労に満ちた顔をした。
「もう帰れとは言わないわ。でも王都に来るのは止めて」
「何でだよ。お前らの陽動にもなるだろ?」
「調査どころじゃなくなるから止めて。転生者と勇者が気になるなら、もうすぐ学園の野外授業があるからそこ襲っておきなさい。転生者は一年生に多いし、勇者も王女の護衛で行くから」
「詳しいな」
「だって今、学園にいるもの。あっ、当日は私達には攻撃しないでよ」
ローブの男は手を止め、鎧の男は洞窟の天井を見上げてから再び鼠に視線を向ける。そして男同士で視線を合わせ、何度かハンドサインを交わす。
その内容は『お前が聞け』『嫌だよアンタが聞け』『年長者だぞ』『普通は年長者が率先するものだろ』などと云うものだった。最終的にはローブの男に決まったようで、やや躊躇いがちに質問を投げかける。
「……お前ら、王都での今の身元はどうなってんだ?」
「魔法学園の学生」
「――ギャハハハハハハハハッ! JCのコスプレとかマジ受ける! 見た目そこまで若くないだろ! というかよく着れるサイズの制服あったなハハハハハハハハッ!」
「貴様ら、儂の十倍以上は生きとる癖に。恥を知らんのか?」
ローブの男はゲラゲラと笑い転がり、鎧の男は呆れたように頭を振る。
「あんたらやっぱ帰れ」
悪の組織的な人らが参上!
別に隠された秘密とかストーリーの鍵を握るとかではない。
大儀なく、未来のビジョンもなく、ただ己の欲を満たしたい連中の互助組織です。




