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第一話 いきなり学園編だってよ


 俺の前世は二十二世紀の日本人だった。死因はトラックに轢かれたとか雷とかが落ちたではなく、高校の時の同級生に無理やり参加させられたとあるアイドルのコンサートでの警備だ。嫌な奴で、ある事ない事を言いふらしそれが正しいと自ら信じ込むタイプだった。

 断ると更に面倒だったし、ちょっと買いたい物もあった事だし渋々ながらそれを了承した。すぐに後悔したが。

 仕事内容は呆れる程のパワーを発揮するファン連中が間違ってステージから一定の距離に近づかないようにする為の所謂肉壁だ。柵があんのに、あいつらそれを押し倒しかねない熱気だったからバイトを雇って数を揃えるのも止むなしだなとあの時は思った。

 それはともかくとして、熱狂的なファンの中には時に犯罪に走る馬鹿もいる。俺はそんな馬鹿野郎の偶々障害になったから殺されて死んだ。

 平々凡々どころか面白味が無く未来の明確なビジョンが無い癖に、死に方だけは新聞を賑わせるようなものとか前世は首を捻りたくなる。


「お前、転生者か。それにしてはヘンテコな力を持っていない。もっと変だ。珍獣の類だな」


 これ、俺の第二の故郷であるフージレング公国の一番偉い人の言葉。ちょっと女湯覗いて未だ来ない精通を促進させようと試みた帰りに偶々出会い、その時の第一声である。ちなみにこの偉い人、俺と同じく覗き行為をしていた。憲兵さーん! マスコミさーん!

 世間に売り飛ばそうと思ったお偉いさんの格好は特に目立つ装飾もないがローブとその下の服の素材が高級品だと一目で分かり、最初は地位の高い人がお忍びで街に遊びに来ているのかと最初は思ったが結果は公国のトップを張るハイエルフ様だった。


「ああ、お前シーザーの所の息子か。って事は例の混雑種の一人か。何だ? 母親のように見た目より実は歳取っているのか? 酒飲めるか?」


 しかも親の事を知っていた。俺の父親は兵士だが、所属はハイエルフ直属の部隊の一人であるらしい。親の上司とか気まずいんだが。

 だがそれ以降、街中で度々会うようになった。長寿種であるエルフ、それもハイエルフとなれば長い人生を生きており常に娯楽に飢えているらしく、子供に悪い遊びを教えるのもその一環だったのだろう。

 公衆浴場の覗きスポットの開拓やムカつく有力者にイタズラを仕掛けたり、夜の公園でイチャイチャするカップルに爆竹魔法をぶつけたりなどして遊び回り、すっかり遊び仲間となってしまった俺だがある日唐突に公爵様モードになったハイエルフに言われたのだ。


「星詠みの巫女達からある情報が届いた。その情報を精査した結果、シーザーの息子テリオンよ、お前はアーロン王国にある魔法学園へと入学せよ」

「……いきなり言われても困るんですが。せめてちゃんと理由を説明してくれませんかねぇ?」

「うむ、それはだな……お前相手に真面目にやるのはバカバカしいな。何かアーロンの方でイベントフィーバーの予感がするからこっちも首突っ込もうぜ、ってなったんだ」

「馬鹿っすか?」

「このビッグウェーブには乗らねばなるまい!」


 ちなみにこれ、ハイエルフの独断じゃなくて各種族の代表でもある大貴族連中の総意である。馬鹿じゃねえのか? 馬ッ鹿じゃねえのか!?


「だって面白そうな事起きると分かってるのに傍観してるのもつまらんだろ」

「あんた国のトップだろ。それともそんな事じゃ俺の国は揺るがないぜヒャッハーって事か? 滅べクソが!」

「お前の故郷でもあるんだぞ? まあ、ちょっと真面目に言うとわざわざ星詠みの巫女が受信もとい神託を受け取った訳だから放置するのもいかんだろという事で、ちょいと探りを入れに人員を送ってだな、歴史に残る大事件なら山場で恰好良く登場しようと云う目論見がある」


 公爵エルフといい、この国のトップは長生きのし過ぎで頭がおかしくなっているに違いない。


「この国の上層部が頭煮立ってるのは分かったけど、何で俺!? ガキだぞ! だいたいもっとそういうのに適した人材が山ほどいるんだろうが!」

「そんなの送ったら内政干渉になるだろ?」

「その何言ってんだこいつ、って顔止めろや」


 クッソムカつく。


「そう憤るな。星詠みでは事件の中心は"異星"、つまり転生者と出ていた。まだ先のようだが、星はまだ輝いていないが誕生してるという事から子供なのだろう。ならこちら側から人を送るとすれば子供で転生者であるお前が一番なんだ」

「嫌だ。星詠みに目をつけられるなんて十中八九ギフテッドだろそいつ。そんn羨ましい奴の所に誰が行くか! ストレス溜まるわ! それに学校とか前世で十分なんだよ。しかも魔法学園とかモロじゃん! 周りが青春謳歌してるだけじゃなくて物語みたいな波乱万丈な生活を眺めて三年間も溜息吐けってか? ケッ!」


 日陰者は転生しても日陰者なのである。これで記憶が無くて性根が純粋だったならワンチャンあったかもしれないがそれってつまり別人だ。俺が俺として自己認識している以上、生まれ変わっても同じなのだ。


「相変わらずの拗らせっぷりだ。このまま公爵家の後光と権威と話術、ついでに魔法を以て魔法学園に放り込む事もできるんだが、優しい俺は穏当な方法を取ってやろう」

「脅しても無駄だぞ。生憎とこの十二年間で森の中で生活できる技術は学んだ」

「狩りが下手くそだなと思ったらお前生存(サバイバル)方面ばかり鍛えてるんだもんな。真面目に言うとだな、お前このままじゃ飼い殺しルートだろ」

「――――」


 否定できない真実に俺は絶句した。自分でも分かっていた。このまま何の対策もしなければ真綿で首を引っ張られる感じで飼い殺される、と。


「多種族国家故に誕生した多数の種族の血を宿す混雑種。流れる血のどれかの特徴がランダムで出るだけと思われてたけど、お前やらかしたからなぁ」

「言うなァ!」


 フージレング公国は多数の種族が入り混じった国だ。その雑多さは人種のサラダボウルとか言われた某合衆国以上だ。そうなると混血も進むのだが、進み過ぎた結果として『混雑種』という雑多具合を象徴するかのような種族が誕生した。

 どんな種族特徴が出るのか成長してみないと分からない福袋みたいな種族で、俺の母親がその混雑種だ。そこに色々混ざってるけど人間種族である父の血が混ざった事で母の『混雑種(木精寄り?)』から『混雑種』となった。

 おっと現状だけどオンリーワンですよ。チートねえけどもしかしてワンチャンあるんじゃね? とか思って無駄に情熱を燃やした過去の俺を殴ってやりたい。

 頑張ってしまった末に混雑種の新たな可能性を見つけてしまった俺。

 それを知って研究者魂に火を付けた魔術師連中に狙われる俺。


「ちなみにどうやったのか、今お前がこの屋敷にいるのを知って敷地の外で出待ちしてるのが五名……」

「何とかしてくれよ公爵様よォ!」

「無理。だってあいつら悪い事してないから。法的には」


 クソッ、異世界転生したんだから俺ツエーしてぇ、誰も持ってない力を開発してやるぜーとか思って頑張った結果がこれだよ!

 奴らは変態だ。この馬鹿エルフのように長生きし過ぎでイッちゃってる系だ。流石に法は守るが守っていれば何しても良いとか言い切っちゃうタイプだ。あんな奴らに捕まったら変な脳内麻薬ドバドバ出るような物食わされて知らない間に貞操の危機だ。


「だからさ、ちょっと国外に避難したら? その間にあいつらから逃げれるように力付けてさ」

「くっ…………」


 俺はフカフカの絨毯の上に膝を付き、手を付いた。来る地獄に備えなければならないと苦渋の決断の末、俺はアーロン王国の魔法学園に入学する事に決めた。




 俺は教師が明日からの授業について軽く説明しているのを左から右へと流し聴きながら事の経緯を思い出してみた。今考えてみると俺って騙されてるよな。

 あのハイエルフ、俺が転生者のようなギフテッド連中を妬んでいるのは知っているだろうに楽しんでやがる。星詠みなんてよく当たる占い程度でしかないって噂なのに。

 教師の話も終わり、本日は解散となった。

 絶対に日本のをモデルにしただろうと思われる学生鞄を掴む。早々に帰ろうとした時、教師が俺を呼んだ。


「テリオン。大した事じゃないが提出された書類に不明瞭な点があったそうだ。事務室の方に行って確認してきてくれ」


 いや、入学に必要な書類は暇を持て余した上級階級の人らが書いたんで俺はノータッチなんすよ――なんて言える筈もなく渋々事務室へと赴く。

 結局、不明瞭というのは提出したステータス表に書かれた種族の項目だった。

 この世界には種族と能力、技能などを知ることのできるステータス魔法というありがちな魔法が存在している。

 ちなみに一般には知られていないが、ステータス魔法を開発したカイザー・ブルーフェニックスというアレな名前の大昔の魔術師が『ステータス出ねぇじゃねえか!!』とキレて自ら作ったそうだ。間違いなく日本人の転生者だな。そしてアホだ。それも凄いアホ。

 理由はともかく今では無くてはならない魔法となっている。魔法学園を入学する際にも提出を求められる。

 俺の多種族国家特有の、それも比較的新しい種族で知っている者は少ない。他国なら尚更だ。だから俺は混雑種という雑種犬みたいな新種族について彼らに説明しなければならなかった。

 くっそ疲れた。俺だってよく分からんのに。とりあえずは超雑種という事で納得して貰った。

 正面玄関中央に設置されたデカイ時計を見れば、思ったより時間が経っていた。学校に一秒でも居たくない万年帰宅部である俺は早足で外に出て寮に向かう。並木道にわざわざ沿って歩くと地味に遠回りになるので多少道から逸れた場所を突き進む。

 結構皆同じことを思ってるのか、地面が踏み固められていて歩きやすかった。

 だからだろうか。とっとと帰る事に意識を集中していたせいで周りをよく見ていなかった。


「覚悟しろ、獣女!」

「は?」


 いきなり声が聞こえたので振り返れば、そこでは茶髪の獣人の少女が木の幹を背後にし、三人の男子生徒に囲まれている光景があった。よく見てみれば獣人の少女もリーダー各と思われる少年も今朝あった騒ぎの当事者だ。

 思わず声を出してしまったのであちらも俺に気付く。涙目になった女子とそれを取り囲む男子達。これは通報案件ですわ。


長命種族の年寄りはだいたい変人。あと厄い。

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