表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/47

第十七話 フージレング民イコール山男

正月終わるまで投稿はお休みさせていただきます。

そもそもストックが切れた。


 怖い体験の後、ブーメルと王女襲撃のその後について軽く話した。どうやらブーメルの所の派閥は水面下で犯人探しを続けているらしいが、候補は絞れても尻尾を出さない以上決定的な証拠にはならず監視に留めているようだ。

 それってつまり未だにテロリストが一般生徒に成りすましたままで学園にいるって事だよな。オイ、どうにかしろよ。犯人分からなくても学園封鎖なり何なりしろよ! 騎士も引っ込めずにさあ!

 なんて俺がギャアギャア言った所で変わる訳もなし。勇者いるから平気だろの精神で学園生活を過ごそう。既にポッチだけどな。

 だがそんなボッチでも学園という閉じた社会は集団行動を強制する。真面目な話、会話に参加しなくても行動の流れを把握するのは大事。

 例えば実技。二人組作ってから始まり、模擬合戦も今後の予定としてある。ダンジョン実習も集団行動だ。

 何でそんあRPGみたいに実戦主義なのかって? どこの国でも魔法使える奴は有事の際、何かしらの形で関わるからだよ。

 魔力は生きとし生ける物すべてが持っているが、構成を知覚し編める才能を持っているのは一部だ。無手で爆弾や戦車砲みたいな威力出せる奴を何もさせずに放置してる方が国として失格であろう。

 それに城壁で守られた街の外はそれこそ地球とは比べ物にならない危険な生物が闊歩している。魔法使えなきゃ死ぬ。

 前置きが長くなったが、今俺は学外実習の為に教師が決めたグループに分かれてこれからの事について話し合っていた。


「………………」

「………………」


 話し合って――ないなこれ。

 学園は前期後期の二つに分かれ間に長期の休みが入るのだが、その前に色々と行事がある。ヴァレリアのコンサートは恒例行事ではないが、一年生前期に学外での活動があるのだ。林間学校みたいなものだ。

 王都の北にある山をグループに分かれて進むという行事で、前世の林間学校と違うのは野生の獣がわんさかいて偶に魔獣の類が出るそれなりに危険な道程という点である。

 その為の準備もまた生徒側で相談して決め、山登りのルートなども各グループで考えなければならない。実際に山を登る大変さを教えたいという学園側の思惑だろうが、日本だと絶対バッシングを受けただろうな。

 やはり教育委員会が必要なのでは? いや待て。当の親達が派閥争いしてて、自分らの子供をそれに巻き込んでるじゃないか。それを言ったら地球でも様相と程度は違うが似たようなものだ。やっぱ世界は違えど世の中はクソだな。


「………………」

「………………」


 現実逃避はここまでにしてそろそろ話を進めないと放課後にまで話していない話し合いが食い込んでしまう。俺は前世から生粋の帰宅部であり、授業が終われば校舎の中に居たくないタイプなのだ。

 グループ一つにつき人数は約八人。このクラスでは五つのグループに分かれた訳だが、他グループは和気藹々と賑やかに進む中で俺のいるグループだけが一つで四つ分の負を請け負っているかのように暗い。

 いや、多分俺のせいなんだろうけどな。皆、偶にこっちに視線を向けたかと思うと慌てて逸らすし。

 あっれ? 俺が犯人とかいう誤解が解けた筈だよね? 何でここまで危ない奴扱いされないといけないわけだ? これってボッチじゃなくて単に皆から恐れ疎まれてる不良学生じゃねえか。なお悪化したとかどういう事だ。

 ちらりと同グループの女子の一人を見る。ベルである。一人だけこの空気の中涼しげにしているが同時に積極的に行動する気はありませんと言った態度で気配を消している。

 このガキ、隠れるのは空間の裏だけにしておいて動けよ。


「……誰かこの中で山登りの経験がある人」


 好きでそうした訳ではないが、この空気を作った張本人として仕方なく話を切り出す。


「す、すいません。歩いた事ありません」

「わ、私も、です」

「ある」


 はい、ベル以外は全滅。というかそんなビビるなよ。イジメてるみたいで悲しいだろ。


「そうなると、こっちで指示するしかねえか」


 グループでの話し合い前に教師から渡されたしおりをパラパラと捲る。遠足かよ。

 防寒具のコートの貸出と携帯食料、水などは支給してくれるがそれ以外は全て自分達で用意しなければならないとある。地味に金かからんかこれ? というか俺は最低限の荷物だけでアーロン王国来たから一から買い揃えないといけない。あっ、武器もねえじゃん!

 丁度良いと思って、買うしかねえか。


「山については……一応しおりに書いてあるか。取り敢えず山登り用の格好を用意する必要がある。金はあるか?」

「ひぃっ、こ、これは親から授業の為にって貰ったものなので勘弁してください」


 偶々目があった男子生徒が半泣きで弁明した。泣きたいのはこっちだ。本当に俺の評価ってどうなってるんだ?


「言い方が悪かった。野外授業で装備を整える必要があるんだが、それを買い揃える予算はあるのか? 一応言っておくけどカツアゲなんてしないからな」


 丁寧に言い直す。何で俺がこんな苦労を……。ああ、後ろで楽しそうに歓談してる他グループの声がムカつく。


「は、はい、大丈夫です。入学時点で野外授業があるのは知らされてましたから。親も出してくれます」


 ヘコヘコすんなや。というか同級生だろ。同じ平民だろ。指摘したいけど、それ言うと更に話が停滞しそうだから徐々に鳴らす方向に行くか。

 それよりも入学時点って、俺知らないんだけど。あのクソエルフに行けって半ば脅されて来たから年間行事とか知らない。何よりも今更だが、仕送りがない! ああっ、クソッ、よく考えれば小遣い貰えねえじゃんかよ!

 チィ、金については後だ。俺から脱線したら話が進まん。


「よし、誰か王都の店に詳しいのは?」


 おずおずと言った様子で六人の男女が手を挙げる。つまり俺とベル以外だ。何? 君ら結構遊んじゃってる系? 俺はまだ色々あって疲れたから休みの日は部屋でゴロゴロしてただけなんだけど、君らは積極的に遊び出掛けちゃってた訳?

 聞けば、彼らは全員この王都で生まれ育った生粋のシティボーイ&シティガールだった。全員が平民だが、元から持っている服や装備を家からすぐに引っ張り出せるらしく、足りない分を買いに行く程度で良いらしい。


「あー……それじゃあ今度の休み、全員で足りないのを買いに行くぞ。面倒だと思うが、一人で買いに行くとミスがあったりするからな。それに誰が何を持っているか、その把握は必要だ。しおりにも教師のチェックが入るってあるからな」


 一度全員で荷物バラして確認する必要がある以上、買う時点で一緒に把握しておいた方が楽だ。買い忘れも無くせる。


「質問ある人は?」


 無言が返って来る。というか何だお前らその目は。不良が捨て犬を拾うのを目撃したかのような顔は。

 ……何だか勝手に仕切った自分への気恥ずかしさで背中が痒くなってきた。


「何だか――」

「はい、質問がないならこれで解散な! 休みの日は空けとけよ!」


 ベルが何か言いそうになったのでしおりを勢い良く閉じて席から立ち上がる。話し合いが終われば今日はもう帰って良い事になっているので早々に教室を出る。


「はぁー、メンド。仕切るのとか嫌なんだけど。何かあったら俺の責任じゃねえか」


 ボヤきながら廊下を一人歩く。


「あっ、一応山の事調べておかねえと」


 思考を切り替え、野外授業に必要な資料を集める事にする。何か学年行事として定着しているようだが、相手は山である。そう、山だ。未だに森と山の区別がイマイチつかないが、大自然様の象徴たる御山様だ。

 自然を舐めてはアカン。いや本当にマジで。フージレングの恒例ボーイスカウトキャンプでそれを知った。

 天候しょっちゅう変わるわ茂みの奥が獣の巣になってるわちょっと余所見したら景色変わってるわで本気で挑まないと危険だ。

 魔法が使えるとは言え、素人の子供を放つ以上ある程度は整備されているだろうが事前知識ぐらいは仕入れておきたい。

 図書館に行ったら地図とかガイドブック置いてないかなと思い、早速行ってみる。

 ベルを発見した時以来の図書館。相変わらず本臭い。

 案内図を見て……地図って何に分類されるんだ? 字面から地理だろうが、地理の項目がねえ!

 地図って軍事機密なとこもあるが、この世界は魔法でパパッと簡易な地図作れるような所だ。王都に近く子供の遠足先に使われるような山の地図ぐらいあると思うんだが。

 これは掠りもしないジャンルを省く消去法戦術でしらみ潰しにするしかないか。クッソ面倒臭ぇなオイ!

 ズカズカと本棚と本棚の間の通路を進みながら本のタイトルをチェックしていく。もしかして、伝記とかに一緒くたにされてる? 旅行記とか多いからな。

 そう推察しても見つからず、段々とどうでも良くなって来た頃に俺はそれを見つけた。


「んっ、くぅ…………ぬ、抜けない」


 本棚の下の段に頭――というか上半身突っ込んでパンツ丸出しの女生徒を。


「…………何だこれ?」


 縞パンかぁ。この世界、女性下着専門のメーカーあるらしいっすよ。ぜってぇ転生者の仕業だわ。

 いや、現実逃避してる場合じゃない。見なかった事にしたいけどそれはそれでこのまま放置するのは可愛そうだ。

 こういうのはさぁ、ギャルゲ主人公とかの役目でしょ。モブがこんな場面に遭遇したら一発でブタ箱行きだから、こういうクソ運命のイタズラ的なの止めろよ。マジで止めろよ。それに前にもこの図書館で似たような事あったぞオイ。

 俺は見覚えのある少女の尻尾を横目にすぐ隣に立つ。


「おい、引っ張ってやるから動くなよ」

「え? だ、誰ですか!?」


 説明するのも面倒なので、腰の部分を掴んで一気に引き抜く。制服の上着が見え、次に埃で汚れた栗色の髪、そして同色の狐耳が外に出る。


「お前さ、意外にアグレッシブだよな」


 棚の中に引っかかっていたのは前にも会った事のある狐の獣人の少女だった。


ベル「面倒見良い?」

テリオン「問題を事前に払拭する努力をそう言うならな!」

ベル「面倒見良い人」

テリオン「止めろそんな目で見んな! 俗人でも罪悪感はあるんだよ!」


あったかもしれない会話。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ