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第十二話 結果だけ分かっても過程が不明なら意味不


 アクセルには<重力操作>とは別に隠しているが<未来予知>のギフトを持っている。

 ステータス魔法で表示されるステータスは偽造できないが、見られたくない場合は一部を隠蔽はできる。

 隠しているという事実は隠せないが、内容は隠せる。勿論そんな事をすれば疑いの目を向けられるが一つだけならプライバシーの問題でもあるし、隠蔽したらそれを施したステータス魔法を使える者の証明書を書く必要がある上に他者が隠蔽を解くのは可能だ。

 まあ、ステータス隠蔽は兎も角――


「ギフト二つ持ってるとかどういう事じゃああああっ!!」


 思わず個室のドアを蹴る。二つって何? ナメてんのぶっ殺すぞコラ! 一つだけでもヒャッハーと大騒ぎなのに二つとか。二つとか! こちとら転生者なのにねえんだぞアァン!?


「落ち着け。嫉妬は見苦しいぞ」

「嫉妬もするわ! 有り得ねえだろ二つって! こちとら精神磨り減らしてようやく不良三人を叩きのめす程度の力しかねえんだぞ!」

「貴様、出し抜けに喧嘩売ってるだろ! この場で決着をつけてやってもいいんだぞ!」


 それから間罵詈雑言が飛び交うが、数分でお互いに馬鹿をやってると自覚して冷静になる。


「ぜぇ、ぜぇ……もうちょっと詳細を」

「あ、ああ。貴族の派閥と関係あるのだがな。アクセルの家であるステレウス男爵家はゴーデン派の貴族だ。と言っても末端だった。昔はな」

「それで最初のクソボケ爆弾発言に繋がるのか」

「そうだ。アクセルが生まれ、奴にギフト……特に未来予知を持っていると判明してからは派閥内での発言力を伸ばしてきた」


 なんでも災害や賊の襲来、飢饉などを予知しその対策を事前に打つ事で領地経営に貢献していたそうだ。それだけなら良い事だが、起こる災厄に対しての防衛策だけでなく派閥争いなどに利用し政敵を潰し邪魔する者を排除する攻撃手段としても使い始めた。

 結果を知れるとなればその情報を利用法はいくらでも考えられる。政治なんて魑魅魍魎の世界にいる人間なら尚更だ。アクセルの予知によってステレウス家はその表向きの地位以上の立場を手に入れてきた。


「予知の範囲とか的中率とか、具体的な効果は?」

「流石に詳しいところまでは不明だが、範囲は自分の近くに限られるようだ。逆に言えば同じ土地にいるだけで未来を予知される。どの程度先の未来まで読めるのかは不明。的中率も不明だが、上位貴族達が重宝している点から高いと見ていいな」


 厄介だと思わず舌打ちする。

 未来予知と一言で言ってもその精度や方法はマチマチで何より絶対じゃない。予知に関する知識ならフージレングの星詠み達を知っているが、敵として見た場合こちらの動きを高確率で予測されているのは面倒と言うしかない。

 星詠み達は占星術など様々な方法によって未来を予知、予測して国営に助言を与える者達だ。各種族の予知関連のギフトやスキル保持者、種族的にそういった能力を持ち長けた者達がいる。例えば俺の額にある第三の目を持つ天眼族だ。

 俺は第三の目を優秀な感覚器としか使えないが、天眼族はその能力をより広範囲に広げ情報を収集しまとめて起こり得る事象を予測する。機械で地盤のプレートの動きを測定して地震が起きる確率を計算していると言ったら分かりやすいか。

 他にももっと漠然としたそれこそ占いのような手法を取っている部族もいるが、星詠み達の内輪にいるだけの的中率を誇っている。

 星詠みはそれらの結果を統合し更に精査する事で公国に貢献している。流石に彼ら程の精度を持っているとは考えづらいが、アクセルがギフトとして予知能力を持っているとなるとその的中率は侮れないだろう。

 何故なら魔術や経験則による技術(スキル)としての力ではなく、ギフトとしてステータスに表記されたのなら神がそれを<未来予知>と言えるだけの力だと認めたという事なのだから。


「……ん? 嫉妬でうっかりしたが、それのどこが俺にとって有益なんだ? ぶっちゃけただムカついただけだぞ」


 俺はアクセルを一方的に嫌いだが別に敵対していない。奴が<未来予知>を持っているからと言っても単にギギギッと音を立てそうなぐらい妬ましいと思うだけだ。


「ゴーデン派に潜ませている内通者からの話によれば、貴様が王女を殺すらしい」

「………………は?」


 先程とは別方向で凄い話を聞いた。俺が殺す? 誰を? 王女をか?


「何で?」

「俺が知るか。予知の具体的な内容までは知らない。その予知を何時視たのかもな。少なくとも奴が王女に接近できたのは学園に入ってからだから、入学以降に予知した事になる」

「訳分からねえ……あれ? 王女様を殺すしかも知れない男を放置するのはそっちとしてもマズイんじゃないか?」

「予知は証拠にならん。何よりも奴の予知など外れてしまえばいいんだ。そういう意味で、俺がこうして貴様に話すには予知通りに行かせない為の布石だ」

「それは逆に殺しちゃう布石になるかもしれないぞ」


 漫画やゲームでそんな展開見た。


「元から不確定なものなのにそれを恐れるのは馬鹿のやる事だ。だから言ってやる。殺すな。でないと俺がお前を殺す」

「お、おう……」


 俺に負けた癖にと軽口を叩ける感じじゃなかった。こいつ本当に十二歳? イジメの現場の時も思ったけど子供が出す気迫じゃねえよ。


「……はぁ、続きだ。貴様を牢にぶち込んだ眼鏡はゴーデン派の首魁の貴族だが、その次男坊だ。長男を出し抜きたくて先走ったんだろうな。その結果が魔翼族の登場だ」

「俺のせいじゃねえし」

「何にしても貴様は目を付けられている。学内にいる以上、生徒や教師だろうが気を付けろ。現にお前は監視されているんだろ?」


 話は終わったと言わんばかりに隣からドアを開ける音が聞こえる。


「ああ、最後に聞きたいんだが、ウチのクラスにベルって言う女子がいるんだけど何か知らね? 監視されてんだけど」


 何でベルが俺をつけ回しているのかと不思議だったが、もしかすると派閥云々の関係者かもしれなかった。


「あの黒猫の獣人か。アレならアクセルの奴隷の筈だ」

「またかよ!」


 つくづく俺を不快にさせてくれるなあの男はよォ!

 ベルについての情報を一通り聞き終えた俺はブーメルが立ち去った後暫くしてトイレから出た。

 第三の目はもう閉じているのでベルが男子トイレの前で未だ待ち伏せているのかも分からない。だがそんなの関係なく、俺はそれからごく普通に飯を食い授業を受けた。ムカムカしながらな!

 授業中に何度アクセルの頭を殴ってやろうかと思ったが、悪い意味で目立っている現在の俺の立場からそれをして万が一目撃されると余計に現状が悪化する。グギギ……。

 前世の職場で鍛えたストレス耐性がここで輝くとか本当に止めてくれよ。

 長く苦しい授業が終わると俺はいそいそと校舎から出て行く。俺が勢い良く椅子を引いて立ち上がったら見てくるの止めて貰えませんかねぇ?

 溜息を吐きながら、寮までの道のりを歩く。

 ブーメルからの情報によれば、ベルは国外の自由交易都市にてアクセルに買われた奴隷らしい。

 アーロン王国の奴隷事情は経済面で自活や家族を養う事ができなくなった者がその立場に自らなって奴隷として買い取ってもらい働くというものだ。買った主は奴隷の衣食住を保証し、奴隷は得た給金で自分を買い戻す。それと子供の奴隷はおらず、基本的に孤児院に引き取られる。ダークファンタジーみたいな悪い意味での奴隷制度はそこにはない。

 だがそれはあくまで制度の話で、法の抜け道なんて今も昔も世界が違ってもあるもんだ。法律なんて全然詳しくないから具体的なところまでは知らないけど、国外で得た奴隷は衣食住の保証などはそのまま適用されるが買い戻し云々などは別の話になってくるらしい。だから十二歳でもベルはアクセルの奴隷であるようだ。

 その他にも表向きは養子として人身売買が娼館などで行われている。

 我が故郷であるフージレング公国では奴隷と言えば犯罪奴隷で、人様に迷惑かけた分下水処理とか文字通りの汚れ仕事やれやと言わんばかりに労働させている程度なので怖いなと思いました。まる。

 奴隷云々は俺が口出しする事じゃないが、アクセルの奴隷であるベルがうざったい。アクセル関連でベルには悪いが憎さ増し増しである。

 本格的に排除(殺す的な意味ではなくどっか行って貰う的な)する手段を考えるか。

 空間の裏から引きずり出すには手っ取り早い方法としてはデネディアに頼むというのはあるが、それは最終手段というか封印。人生と引き換えにするにはまだ早い。

 俺にも月猫族の血はあるが魔法的体質含めて作り直さないといけないから時間掛かるし今まで構築して来た素の身体能力を失いかねない。それもまた自己改造で取り戻せるが、数値化できない体感での制御なので非常に面倒だ。

 他には新月の夜だ。新月の下では月猫族は空間の裏側に入れない。だけど新月はこの間通り過ぎたばかりだし、その日はバレるのを警戒して監視して来ない可能性もある。

 まだ何か方法があったような気がするんだが、思い出せん。何だったかな?

 必死に記憶を思い起こしながら歩いていると、もう寮の前にまで到着してしまった。そこでふと視界の隅に見慣れた尻尾が見えた。部屋に居座る三毛猫だ。

 あの猫は部屋に惰眠を貪る為に来るだけでそれ以外では何をしているのか不明だ。もっと言うとどうやって寮の中に侵入して来るのかも謎だ。前は天井裏から襲撃して来やがった事もあった。

 一体どういう経路で寮内に入っているのか気になった俺は玄関から外れて三毛猫の後を追う。

 三毛猫は寮の傍を周り、とある窓の前で足を止めた。そこは俺の部屋の窓だった。だがそこはちゃんと毎朝鍵を閉めている。外から開ける事はできない。

 ――そう思っていた時期もありました。

 窓を見上げていた三毛猫は突如ジャンプしたかと思うと空中で身を捻り後ろ脚で窓を叩く。鍵が外れる音がした。

 ちょっと待てや。鍵は単純な構造だけど外から叩いただけでどうにかなる程雑じゃねえぞ!

 驚いている間にも三毛猫は空中で更に身を捻って窓を叩いた脚とは別の後ろ脚を窓のフレームに引っ掛けて蹴り開けた。


「………………」


 あれやっぱり化け猫か何かだろ。凶暴な猫どころじゃねえ。悪魔が猫に化けてたとか言われても驚かない。

 地面に着地した三毛猫はそのまま開けた窓から部屋に入るのかと思いきや、不意に観察していたこちらに顔を向けてきた。


「お? 何だテメェやんのかコラ」


 畜生相手にガンをくれるのって人としてどうかと我ながら思うが、相手は化け猫である。この位の身構えは必要だ。


「ゴァァァギャァァァァァァッ!」

「だからそれ猫の鳴き声じゃねえよ!」


 やはり化け猫。突然こっちに向かって走り出した猫に俺は身構える。だが、猫は俺の横を素通りして後ろの方へ行ってしまった。


「キャアアアッ!?」

「はい?」


 悲鳴が後ろから聞こえ振り返ると、ベルが三毛猫に追われていた。


「ひ……や、止め……きゃう!?」


 そしてノミみたいに跳ねては蹴りをする三毛猫に負けて転び、背中に乗し掛かれて身動きが取れなくなった。


「あー……そういや、猫は隠れた月猫族が見えるんだったか」


 月猫族の空間の裏側に隠れるアビリティは弱点がいくつかある。新月もそうだが、猫は彼らが見えるそうだ。


「ほら、どけよ」


 取り敢えず、ベルの背中の上でふんぞり返っている三毛猫の首根っこを掴まえて後ろに放り投げる。三毛猫は身軽に着地すると『シッ』とか鳴いて(?)興味なさそうに窓から部屋に入って行った。


「ほら、大丈夫か?」


 ベルを起こして埃を払ってやる。多少引っかき傷はあるが無事であるようだ。あの三毛猫、俺の時は引っ掻くどころか切り裂いて来る癖に。


「う、うん、えっと……大丈夫」

「そうか、それは良かった。で、このまま帰してくれるとはまさか思ってないよな?」

「あ…………」


 俺は逃がさないようにベルの肩をしっかりと掴む。

 おかしいなぁ。笑顔を向けている筈なのにベルの顔が青いぞぉ?


フージレング公国の星詠み。

未来を予測し国に役立てるのが重要な仕事一つだが、普段の主な仕事は祭事の取り仕切り。多数の種族のごった煮国家故にその辺りの調整とか色々大変で、同時にここがポカやらかすと部族間の軋轢に繋がる為かなり重要。魔翼族とはかなり仲が悪い。昔の祈祷師が災厄を予知した際、だいたい登場して来たから。

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