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第十一話 少女から監視されていると思えば有りなのか? ねえよ


 そこにいない筈なのに誰かがいる。ホラーかよ。いやファンタジーだ。

 図書館でその存在を感知した俺はそのまま昼寝して何食わぬ顔で寮に戻った。寮まで行くと監視者は去って行った。二十四時間監視している訳でも寮の中にでも入ってくる訳でもない何とも半端な監視体制だ。

 一人だけで監視の上、日常も過ごさなければならないとなれば杜撰なのも仕方がない。そもそもそれで監視しようというのが杜撰過ぎである。

 本当にいた監視者の正体は同じクラスの女子生徒。名前はベルと言い、見た目は小柄で黒髪に黄色い眼をした猫耳。そこまでなら猫の獣人族かと思えるが、獣人族に物理的干渉受けない空間の裏側に入る力はない。

 何を言っているのか訳分からないと思うが、俺もぶっちゃけ原理は知らない。ただ、通常空間の裏側に隠れる魔法が確かに存在している。高度な魔法な上に使える者は限られると聞いているが、一部の希少種族には同じようなアビリティを持つ者がいる。

 その名は月猫族。見た目は猫の獣人族だが彼らは空間の裏側に隠れて移動する種族アビリティがある。フージレングでも数が少ない種族なのだが、まさかアーロンにいたとは。

 そもそも何で俺を監視しているのかこれが分からない。接点なんて無いぞ。クラスのほとんどに接点ないけど。

 直接問いただすか? しらばっくれても空間の裏にいる所を引っ張り出せば現行犯だ。俺には空間の裏にいる奴を捕まえる手段はないが、他にやりようは色々とある。

 だけどなー、捕まえて尚黙秘されたらどうしようもない。デネディアに協力を頼めば空間からの引きずり出しと情報の抜き出しが同時に解決するが、あんなのに頼ったら俺の色々が危ない。

 授業中、教師の歴史の授業を右から左へと聞き流しながらちらりとストーカー少女ベルを見やる。真面目に授業を受けてノートに板書を写していた。うーむ、何故彼女に付け狙われるのか。これが分からん。

 謎を解決しようとしたら更に謎が増えた。ウンウン唸っている間にも授業が終わる。次は昼休憩で生徒達は早々に去っていく。俺の近くを迂回しながら。やっぱムカつくな。

 ちらりとベルを見るといつの間にか消えている。速いなオイ。

 どうしたものかと思いつつ、すっかり誰もいなくなった廊下を歩いていると通せんぼする生徒が一人。不良貴族もといブーメル・オルテインだ。


「……決闘でもする?」

「話がある。少し付き合え」


 冗談を言ったのだがスルーされた。校舎の裏来いって奴なのか、答えも聞かずにブーメルは後ろを振り返って歩いて行く。

 無視して食堂行ったろかと思ったが、何となくついてい行く事にした。このタイミングで話かけると言う事はもしかすると、希望的観測だが何か事件に関係するかもしれないからだ。

 ブーメルの後ろを歩きながら、額を掌で隠して第三の眼を開く。あー、風邪みたいな頭痛がする。三百六十度の視界も頭がグルグルして気持ち悪いが、前を見ながら後ろを視れるのは便利だ。

 視ればやはりベルが空間の後ろに隠れていた。しかもバスケット片手にサンドイッチを食べながらだ。この野郎。いや、このアマ。

 ブーメルの用が何か分からないがこのままベルの監視付きとなると不都合だ。だから俺は前を歩くブーメルに声をかける。


「どこに行くつもりだ?」

「行けば分かる」

「場所そのものに意味がないなら別の所で話さないか?」

「ああ?」


 不機嫌そうな声でブーメルが振り返るが、額を押さえた俺を見て不審げになる。直後、舌打ちして立ち止まった。

 額を押さえている手の甲には皮膚から血を滲ませて『監視されている』という文字を作った。その場で変化できる身ならではの筆談(?)である。殺された時もダイイングメッセージを残しやすい。というか犯人名指しで事件解決!


「……どこだ?」

「そりゃあ、お前――」




 女子が入れない男子トイレだよ。

 案の定、連れションの体で男子トイレに入るとベルは入って来なかった。チョロい。……こんなチョロさは求めてないんだけどな。


「クソだな」

「大するなら言え。帰るから」

「この状況の事だ!」


 男子トイレの隣り合う個室に俺達はそれぞれ入っている。勿論、実際に排泄していない。声は一応聞こえないようにブーメルに音遮断の結界を張って貰った。流石貴族の子だけあって密談スキルを備えておるわ。念の為に尿の音を再現して監視者に聞かせようと提案したら却下されたのは残念だが。

 空間の裏で男子トイレ前に立って顔を赤くしてる少女を視れるのは第三の目を持っている俺だけなので理解が得られなかったのは仕方がない。


「で、何の用だ? 監視してるのを監視してるから手早く済ませて欲しいんだけど」


 第三の目は開いたまま。一人に集中しているので負担は抑えているが、それでも空間の裏側を見ていると頭が痛い。思わず頭痛が痛いとか言ってしまいそうになるぐらいに。


「……情報交換だ」

「何のだよ」

「一先ずは王女襲撃事件についてだ」


 それが終わってもまだ情報交換などの協力を続けたいような言い方だった。


「前に俺を潰すとか何とか言ってなかったか?」

「優先順位の問題だ」

「親に何か言われた?」


 返事は無かったけど壁一枚を隔てた向こう側で忌々しそうに顔を歪めている気配がした。という第三の目で丸見えだった。

 学園生活で既に出来つつあったグループを見ていると、仲良しグループとは些か違った趣きを持つグループを幾つ発見できた。それは主に貴族の子息子女らのだ。

 具体的に言うと親や家名が出てきた事だ。親の自慢や愚痴とかではなく、まるで自分は代理人とでも言うかのような口振り。王女の周りに集まる連中はそれこそ露骨だ。

 人が集まれば派閥という物が出来るものだが、貴族社会は殊更それが露骨だ。寧ろ堂々と宣言して巻き添えは御免だと自分の立場を明確にしている節がある。

 それは兎も角、学園内で起きた王女襲撃については貴族達も注目しているのだろう。なら親族が学園に通っている貴族は子供を通じて何か探りを入れるのも考えられる。


「でも何で俺? 貴族でもないし、留学生だぞ」


 平民で、しかもこの国の人間じゃない。声をかける相手を間違っているとしか思えない。まさかこいつ――


「全員に断られてボッチなのか?」


 声をかけたが全て断られるか何かで他に協力者がおらず、止む終えず多少の面識がある俺に最後の望みを賭けて声をかけたと。


「そうかすまなかった俺が悪かった」

「便器に沈めるぞ貴様。他に駒はいるが、王女が城に篭る原因になったあの夜に現場にいたのはお前だ。騎士団は犯人の手掛かりを他に漏らさないせいでこちらに情報が回って来ない」

「犯人探しなんて騎士団に任せとけよ。貴族がやる仕事じゃないだろ」

「そんな単純な話じゃない。いいから貴様は黙って俺の問いに答えろ」

「どうすっかなー」


 ぶっちゃけ損得とかどうでもいいので何があったのか教えてもいい。その中には犯人のヒントになる物もあるだろう。だがわざわざ教える理由も無ければ教えない理由もない。いや将来喧嘩を売ってくるであろう事を考えれば教えない方に傾くか?


「…………貴様、ゴーデン派に目を付けられているぞ」

「いきなり派閥名出されてもチンプンカンプンなんだけど」


 知らねえよ誰だよゴーデンって。というか何でだよ。


「貴様を捕らえた騎士の家がトップの派閥だ」

「あー……あの眼鏡の」


 そう言えば騎士団長がゴーデンとか言っていたような気がする。


「逆恨みかよ」

「いいや、それ以前からだな」

「どういう事だ?」

「それを知りたいなら俺に協力しろ。お前を監視しているという奴とも関係があるかも知れないな」


 うーわー、面倒くせぇ。そして意外に人をよく見ている。何で俺はこんな事に巻き込まれてるんだ? 全部忘れて飯食って寝たいが、無視しても実害がありそうだ。というか牢にぶち込まれた。かぁーっ、本当に面倒だな!


「くっそ、何で俺がこんな目に……」

「それはこっちのセリフだ。貴様が留学生なんてとぼけた事をほざくからややこしくなっている」

「はあ? 何の事だ?」

「それをとぼけていると言っているんだ。フージレングから大使として送られてきた魔翼族はお前にご執心だそうじゃないか」

「――――」


 顔を覆う。


「国狩り、災厄種族、傾国の魔女。伝説上の上位種族を表に出して来て、更には新種の人族を留学させてくるだと? 公国は一体何を企んでいる」


 ちゃうねん。そいつ私情なの。俺はそれから逃げてここに来たはずだったの。

 しかし眼鏡の様子からアーロン王国だとそんな有名じゃないのか? とか思ってた魔翼族だが伝説扱いだった。実際、長老格のじー様ばー様達の話に寄れば災厄だの傾国だの言われるのは納得であるが。ちなみに傾国はその美貌で国を腐らせたとかじゃなくて魔法で物理的に国そのものを腐らせた事があるらしい。そんな種族殺してしまえ。


「まあ、答えないだろうな。それとも知らないのか」


 無言で苦悩している俺の様子を誤解したらしいブーメルが勝手に話を続ける。待って、ねえ待って。そんな誤解を抱いたまましたり顔で話進めないで。お前を指差して笑うどころか故郷の恥部に言い訳できないのを苦しむ俺を放って先に行こうとしないで。


「どっちでもいいさ。まずはこっちの問題からだ。とっとと話せ」

「くっ……分かった、話そう。と言っても大した情報じゃないけどな」


 ようやく立ち直った所で、俺は情報提供する決意をする。そんな決断のいる程の事じゃないが、羞恥を抱いたまま言葉を喋るのに精神力が必要だった。

 取り敢えず要点だけを、マッチョな牛型に襲われた事を俺の戦闘方法を省いた上で話す。


「仮にも騎士達を足止め、いや、騎士が足止め程度しか出来なかった魔導生物か。相当な錬金術師だな」


 例えば交流会で現れたように完全なその場限りの魔導生物なら作るのは修熟した錬金術師なら簡単だ。だがスケールが大きく質量があるとなると倍に難易度が上がっていく。

 内包した魔力を推進力に加速し鋭い牙や爪で突撃かます軽い黒い獣よりも大きく重量があった牛の方が遥かに作るのが難しい。しかも直接近くで操作せずに自動でなると余計にだ。


「核の中には王女が触れたと思われる物品が入っていた。多分、そこから縁を辿って王女を補足してたんだと思う」


 ペンや食器、あとトイレットペーパーなど。馬鹿みたいだが学園内で王女をターゲティングする手段として魔法的な追跡手段としてそれらを使うのは妥当だ。髪の毛や血として丑三つ時に藁人形を打つみたいな呪いもできるだろうが、一国の王女がその手の守りをしていないとは考えられないから単純な追跡手段としたんだろう。


「そうなると犯人は学園の関係者で気軽に校舎を歩けるヒト。殿下の性別を考えれば、女生徒の可能性が高いな」

「トイレットペーパーもあったしな」

「は?」

「いや、なんでもない」


 魔導生物の核の中に入っていたのは近過ぎず、それでいて同性だからこそ近くで入手できる物ばかりだ。教師は授業などで生徒達から離れている事が多く、王女が使った物を見てすぐに回収できる程になれば同じクラスの女子の可能性は大きいだろう。

 近い人物となればあの刃が伸びる剣を持った金髪の少女が当て嵌るが、あそこまで近いともっと確実な方法がある。


「いいだろう。思った以上に有益な情報だった。褒美に良い事を教えてやる」


 どうでもいいけどこいつ本当に上から目線だよな。


「アクセル・ステレウスには予知能力がある」

「………………はぁぁぁぁっ!?」


王国「お前何考えてんの? あんな爆弾送るの止めーや」

公国「だって言う事聞かないと暴れるって言うし」

王国「だからってこっち投げんなよ、もー!」


偉い人の間にこんなやり取りがあったとかなかったとか。


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