7
男の裾を引き、ハジメは帰路に着く。体がほかほかして、気分が良い。買ったばかりの寝間着もちょうど良いサイズで、ハジメは思わず頰を緩めた。
「何にやついているんだ」
男が呟く。少しとげとげした言葉も、今は気にならない。
「食事は一日三回だったな」
賑やかな市場に差し掛かり、男は屋台を覗き込んだ。ここで夕飯を買ってくれるらしい。どんな料理があるのか、近くの屋台の前でハジメは背伸びをした。
アクリルの箱の中に、モルモットが詰め込まれていた。そのうちの一匹、白地に茶色いぶちのついたモルモットがつぶらな瞳でハジメを見つめ返してくれたのが嬉しくて、隣の男を見上げた。
「かわいい……」
「それ食べたいのか」
男の言葉が理解できなくて、ハジメはぽかんと口を開く。
「テンジクネズミの丸焼き、一つ」
ハジメの頭上で、甲高い声が注文した。見上げると、ごく普通の中年男性がカップ酒を片手に立っていた。ハジメが男の方に避けると、中年男性は屋台の前に寄る。
「お待ちどう」
尾頭付きの丸焼きが現れ、中年男性は硬貨と引き換えにご馳走を受け取った。先程見たモルモット達の変わり果てた姿と思わしき丸焼きを見つめ、ハジメは立ち尽くす。
「買いたいなら、渡した金で買え」
「ううん……」
首を振る。男は不可思議げにため息をついて、隣の屋台へと進んだ。
「飴がけと、亀」
男は手短に告げて硬貨を置く。マニピュレーターが器用に代金を取り、プラスチックのパックを二つ差し出す。両方とも中身は茶色い。多分リョクオーショクヤサイとかは、入っていないのだろう。
ハジメの視線に気づいたのか、男がパックの中身を見せるようにしゃがんだ。一つは粘っこい餡がかかった炒め物、一つは揚げ物。やっぱりトマトやブロッコリーは入っていなかった。
「食ったことあるか、こういうの」
「ううん、ない、です」
今度ははっきりと、返事をする。モルモットの丸焼きの衝撃が残っているのか、先程男の言っていた「カメ」が気になる。
でも、見た目はとても美味しそうだ。
「……味見ぐらいならさせてやる」
男が「カメ」じゃないほうのパックの蓋を止めていた輪ゴムを取る。蓋についた餡が糸を引いた。
「ほら、一個食ってみろ」
「いただきます」
パックの隅っこにあった芋のような欠片をつまむ。意外に歯ごたえの良い感触と、思いもよらない甘味にハジメは目を丸くする。
「おいひい」
「じゃあこれ買え」
男が少し身を引いた。買うのはイチマンエンから。ハジメは頷いて、カウンターの縁まで手を伸ばす。
「すみません」
「……ハイ、ナンデショ」
「あめがけ?っていうの、ください」
「ハイヨ。百五十円ネ」
菓子パンと同じくらいの値段に驚きながら、ハジメは小銭を二枚、がま口から出す。うんと背伸びをしてカウンターに置くと、先程と同じマニピュレーターが静かに持ち去った。
続いて、男と同じプラスチックのパックが出てくる。
「マイド」
ハジメの代わりに男が受け取る。マニピュレーターに礼を言うと、カウンターの向こうから小さく手を振ってくれた。
男が歩き出し、ハジメもついていく。
「……機械のひとって、ごはんつくるの好きなんですか?ここにはたくさんいる」
「顕現前にでかい工場で働いてた奴等は、手に職があるからな。地下の方が活きやすいんだろうよ」
素朴な質問に男は答えてくれた。そんな何でもないようなことが嬉しくて、ハジメはまたもや頰を緩める。
「よく笑うやつだな」
そう言って、男は再び袖をちらつかせた。端を握り、人混みを歩く。天井や店、曲がり角を覚えるのに必死になっていると、いつのまにか長屋の通りに出ていた。
鍵のかかっていない引き戸を開け、男の住まいに入る。草履を脱ぎ捨て部屋に上がると、男は流し台の引き出しから割り箸を二膳取り出した。
そうして、笠も取らずに煙草盆の側に座り込む。いそいそと紙巻きタバコを熾火に近づけ、赤く点ったのを確認して笠の下に差し入れた。
紫煙が漂う。
「飯にするか」
そう呟いて、パックの輪ゴムを外す。ハジメも煙草盆を挟んで男の向かいに座り、「あめがけ」のパックを開けた。
無言で男が箸を差し出す。ありがたく受け取った。
「いただきます」
ハジメが呟くと、男も続いたような気がした。
綺麗に割れなかった箸で、おかずをつまもうとする。つるつると滑り抜けてしまう芋を追いかけるハジメを見かねたのか、男は注告した。
「刺せばいいだろ」
男の言葉にハジメは戸惑う。箸を刺すのはマナー違反だと、お母さんやミネ先生が言っていたからだ。
少しだけ、格闘してみる。リトライも上手くいかず、観念してハジメは芋にぷつりと箸を刺した。甘くて少し粘っこい炒め物を夢中で食べていると、男が「カメ」のパックを差し出した。
「一本やる」
「あ、ありがとうございます」
揚げ物を取り、齧り付く。じゅわっと滲み出た脂が、胃袋を動かした。
唐揚げに似ている。
昔食べた味を思い返しながら、ハジメは口周りを脂と飴で汚す。
「少し残して朝飯にしたらどうだ」
揚げ物が骨だけになり、炒め物が半分まで減ったところで、男が提案した。ちり紙で口を拭いながら頷く。
「水は蛇口ひねったら出る」
「はい」
煙草をふかし、男は三和土を上がったすぐ側にある流し台を指差した。てんてんと雫が滴る蛇口を確認して、ハジメは申し訳なさそうに呟く。
「とどかないです」
紫煙と一緒にため息を吐いて、男は流し台下の戸棚を開ける。木製の折りたたみ椅子が出てきた。
「足りるか」
確認しろ、と言わんばかりに男は椅子を広げる。ハジメは小さな足を乗っけて試してみる。手を伸ばせば蛇口をひねることができる程度の高さになった。
「だいじょうぶ」
「喉乾いたらここから飲め」
男の言葉に甘えて、欠けた湯呑み茶碗に水を注ぐ。無味ではない水で喉を潤して振り向くと、既に男は布団を被り寝転がっていた。
「あの」
男に声をかける。明日はハジメにも予定がある。それを伝えておこうと思ったからだ。
また勝手に地上に出たと思われてはたまらない。
「なんだ」
「あしたは、おきたらガラクタやに行ってきます」
「……あの写真機か」
そう呟いて、男は笠で顔を覆い隠したまま、器用に寝返りを打つ。
「通り道は大通りを使え。勝手に野垂死にされたら適わん」
怪我のことを言っているのだろうか。推測のままハジメは頷く。
「はい」
「今日は、助けてくれたやつがいたのか」
「えっと、しろくておおきいヒトが」
「鳩を連れてたか」
「はい」
男が唸る。
「今回は運が良かったが、次アレに行き逢ったらとっとと逃げろ」
碌でもないやつだ。
そう告げて、男はそれきり口を閉ざした。男の言葉に、ハジメは少し寂しくなる。今度白衣に会ったら、またお礼を言いたかったからだ。
カメラを側に置き、半纏に包まる。部屋の隅っこで横になると、急に寂しくなってきた。どこからか聞こえる話し声も、どこかの扉が開閉する音も、ハジメには慣れないものだ。妹の寝息だけがあったあのリビングが、少しだけ恋しい。
妹には、いつ会えるのだろう。
それを聞こうとしたが、以前の男の言葉を思い出して、口を紡ぐ。脳裏に浮かんだ言葉が、温かな眠気に解けていった。
夢は見なかった。
足音と振動を頰が感知して、目を覚ます。畳目の跡のついた頰をさすり、半纏から這い出た。
「顔を洗え」
既に起きて煙草を吹かしていた男が、一声命令する。口元が冷たい気がして拭うと、涎が垂れていた。
男が用意してくれた台に乗り、蛇口を捻る。顔を洗ってさっぱりしたところで、昨日の夕飯の残りを思い出した。
「あさごはん、たべます」
パックを開け、挿したままの箸を取る。ごっそりと取れた炒め物の塊を持ち上げ、ハジメは途方にくれる。念のためかじってみるが、硬くて歯が立たなかった。
「かたい」
「少し温めりゃあいいだろ」
男が煙草盆の縁を叩く。どう使うのかハジメが悩んでいると、男はパックに箸を戻させて、火入の側に置いた。
「溶けるまで待っとけ」
じっと炒め物を見つめていると、つやつやとした飴が少しとろけてきた。昨日食べた時と遜色ない見た目に変わったところで、男がパックを取る。
「いい頃合いじゃないか」
「ありがとうございます」
箸を取ると、糸を引いて離れた。もうすっかり飴は柔らかくなっている。芋を箸で刺して頬張ると、目覚ましに良い甘みが広がる。
「おいしい」
「昨日と同じ味だろ」
男の小言も気にせず、ハジメは飴かけを平らげる。空のパックに輪ゴムをかけると、無言で男が取り上げた。
「ゴミは台所の袋に突っ込め」
そう告げて、男は無造作にゴミ袋にパックを放り込んだ。家の中身が溢れたゴミ箱とは違い、こまめに回収に出しているようだった。
「もうガラクタ屋も開いてるんじゃないか」
食後間もないのに、男はごろりと寝そべる。今日はどこにも出かけないのだろうか。そう聞こうとすると先手を打つように、男は呟く。
「俺は二度寝する。今日は、どこにも行かん」
そうして、僅かに笠の縁を傾けた。
「ああ……その前に、お前はどこに行ってもわからんからな。危険な場所を教えといてやる」
横になったまま、男は側の棚から紙切れを取り出す。三つ折りになったそれを広げると、一点を指差した。
「これはこの辺りの地図だ。ずいぶん昔のものだが、区画は変わってない」
「クカク」
「今いるのはここ。お前が逃げようとした西口はここだ。ガラクタ屋は……おい、わかるか?」
「はい」
次々と指し示す場所が変わる男の指を追いかけ、ハジメはなんとか返事をする。
「で、危険な場所だが……当然地上には出るんじゃないぞ。まず北口付近。ここは地上の息がかかった奴とゴロツキがうろついていて、見つかると厄介だ。この辻から先は行くな。それと屋台通りから伸びてるこの路地は、人肉も取り扱ってるから近付かないに越したことはない。水場も駄目だ。案山子や魚捕りがいる間はいいが、水底の奴の機嫌が悪いと引っ張られかねない」
で、と男は言葉を切る。
ハジメたちのいる長屋通りからほど近い小路を指す。
「この道には、入るな。厄介なモノがいる」
「ヤッカイ?」
ハジメの質問には答えず、男は地図を無為になぞる。
「命に関わるのはこの辺りくらいか」
「いのち……」
「そうでなくとも、変な奴、怪しい奴、挙動不審な奴、鳩を連れた奴に会ったらとっとと逃げろ。大通りならよっぽど運が悪くない限りは助けてくれるモノがいる」
突如男が起き上がった。畳の擦れる音がして、笠がにじり寄る。驚いたハジメが少し身を引くと、男はため息のような呼吸をした。
ふっ、と紫煙を吹きかけられる。
「煙なら、幾分かは効くだろう」
煙が沁みて赤くなった目頭をこする。地上ではカンゼンブンエンとかで、ハジメは煙草の匂いをまともに嗅いだことはない。それが今では、男が吹かす煙草でベーコンか何かになってしまいそうだ。
咳が治ったハジメを見て気が済んだのか、男は再び寝転がった。
「寝る」
「おやすみなさい」
取り敢えずの挨拶をすると、男は返答もせずに腹上で指を組んだ。
「あの」
「なんだ」
「おきがえします」
「すりゃ良いだろ」
「みないでください」
「めんどくさい奴だな」
ぼやきつつ、男はハジメに背を向けて横向きに寝そべる。安心して、ハジメは身支度を始めた。
古着屋で買ったばかりの服を着て、一人満足する。脱ぎ捨てた服を畳んで部屋の隅に置き、男がどこからか取り出してきた地図を拾う。カメラを肩から下げて、出かける準備は万端だ。
「いってきます」
三和土に下りて小さく呟く。男の返事は無かったが、少し身じろぎをした様に思えた。それだけの事に満足して、ハジメは長屋を出る。
男の言う通り、今日は大通りを歩く事にする。地図を眺めながら長屋通りを歩いていると、遠足をしているようで楽しくなってきた。突き当たりの通りに入ると、道幅が格段に広くなり、人通りも多くなる。地上住まいらしいスーツの男性やスパンコールのワンピースを纏った女性など、様々なモノがすれ違い、追い越していく。足下に視線を落とすと、毛玉のようなものが連なって転がっていった。道行く人々は毛玉を器用に避けながら、思い思いの場所へと向かっている。可愛らしい姿に惹かれてハジメは毛玉についていく。毛玉は細い路地に入ると、汚い側溝に詰まった。薄暗い路地の中で毛玉がぎょろりと目を剥く。驚いて、ハジメは路地から走り去った。
再び大通りを歩く。ほどなく遠目でもわかる装飾過多な店先を見つけて、小走りになる。
「おはようございます」
朝の挨拶とともに、店先を覗き込む。小上がりに寝そべっていた店員が、びくりと震えて起き上がった。
「わ、わわ、今何時」
「それよりお客さんだよ、いっちゃん」
天の声に促され、店員は目をこすりハジメを出迎える。
「おはよう。ごめんねえ、こんな格好で」
苦笑いをしながら寝癖のついた頭をかく店員の姿は、以前見た時とは随分と雰囲気が違った。青白い顔で、よろめきながら冷蔵庫に向かう。
「ハジメちゃん、ジュースあげる」
そう言って、紙パックの乳酸菌飲料をハジメに差し出した。ありがたく受け取ると店員は穏やかに微笑む。続いて冷蔵庫から赤い液体の入ったビニールパックを取り出して、シールだらけの戸を閉じた。
「いただきまーす」
パックの縁をちぎり捨て、店員は赤い液体を飲む。どこかで嗅いだことのある懐かしい匂いが漂った。
「いっちゃん、人前で飲むものじゃないと思うよ」
「だってお腹空いてるんだもん」
赤い被膜が薄っすらと残るパックを捻り、ゴミ箱に入れる。そうして店員は伸びをし、店の奥へと歩いていった。
「持ってくるから、ちょっと待っててね」
店員を待つ間、ハジメは小上がりの縁に腰掛けジュースを飲む。ストローから空気が吸い上げられた頃、天の声がハジメに声をかけた。
「紙パックはここに入れてね」
途端、店の傍らのゴミ箱が自走する。驚きながらも、ハジメは紙パックの隅を開いてゴミ箱に入れた。
この天の声も、機械の人なのだろうか。
「ごちそうさまでした」
天井と迷ってゴミ箱に声をかける。ふふ、と笑い声が降ってきて、ゴミ箱の蓋が開閉した。
「お待たせ!はい、写真だよ」
店の奥から店員が戻ってくる。右手にはフィルム、左手には白黒写真の束を掲げ、店員は小上がりに腰掛けた。
「はい、これが写真。現像するの初めてだったけど、上手く行ったみたい。ネガもあるよ。で、こっちは倉庫漁ってたら出て来たフィルム。ちょっと感度高いからザラつきが目立つかもしれないけど、これでまた写真も撮れるようになるよ。さっそく、フィルム装填していいかな?」
どこか興奮気味に店員は説明をする。少しハジメには難しい言葉もあったけど、とりあえず頷いた。
「じゃあ、カメラちょっと借りるね」
斜めがけのストラップをくぐり、両手でカメラを差し出す。
ハジメの小さな手の上で、硬質な音が響いた。
「ん?」
店員がレンズを覗き込む。続いて真上からカメラを見下ろし、首を傾げた。
「カウンター、回ってる」
白い指が、カメラの天辺についた小さな四角い窓を指し示した。四十八と記された横に、小さく矢印がある。
「カウンターって?」
「このメモリはフィルムの残り枚数を表してるんだけど……一回、シャッター切ってみて」
「きるの?」
「ああいや、写真を撮るってこと。いつも通りボタンを押してみて」
店員に促され、ハジメはカメラを構える。縦長のファインダーを覗くと、店員がピースサインをしていた。
「はいちーず、って言うんだっけ」
にこにこと笑う今がチャンスのような気がして、ハジメはシャッターボタンを押す。機械の動く感触があった。
「どれどれ」
再び店員はメモリを覗き見る。ハジメも一緒になって見てみると、円盤はひとメモリ分ずれていた。
「やっぱり、入ってるね。フィルム。送られてるし」
うーん、と店員は腑に落ちないような声を漏らした。
「フィルム入れたの?」
ハジメは首を横に振る。昨日までフィルムというものが何かもわからなかったのだ。それは店員もすぐに思い当たったようで、殊更不可解げに首を傾げる。
「巻き上げ方とかもわからなかったもんねえ」
「もしかして、そういうカメラなんじゃないの?ほら、マニピュレーター達みたいな」
「付喪神ってこと?だとしてもフィルムをぽんと生み出せるものなのかな」
店員と天の声の会話を、ハジメは理解出来ないまま聞く。
「……何にせよ、自動でフィルムをセットして巻き上げもしてくれるなんて、いいカメラじゃない!あとはピント合わせと露出もしてくれたら完璧かも」
店員の中で解決したのか、それ以上フィルム枚数について言及はされなかった。
続いて、白黒写真が差し出される。
「これが現像した写真だよ」
艶々とした写真を、ハジメは一枚ずつじっくり見つめる。
笑ってるお母さん。ハジメとお母さん。少しぼやけたハジメとお父さん。寝ているハジメ。ブランコに乗ってるハジメ。ベンチに座るお母さん。そして……。
「赤ちゃん、かわいいね」
ハジメの手元を店員は覗き込む。
おくるみの中の妹。
多分、ハジメが初めて妹に会った時の写真だ。
「いもうと」
ぽつりと呟くと、店員は満面の笑みを浮かべた。
「へえ、そうなんだ!ショーケンさんとこに一緒にいるの?」
「いなくなっちゃった」
店員が気まずげに口をつぐんだ。ハジメは写真を更に見る。
妹の写真ばかりだ。真っ赤なほっぺたがだんだん薄くなっていくのに気付いて、ハジメは写真を畳に伏せた。
しばらく三人とも沈黙する。
「……その、妹ちゃんがいなくなったってのは、死」
「ちょっと」
「ウエズさんは亡くなってるって言ってた」
沈黙を破った店員を咎める天の声が更に降り注ぐ。一方のハジメは、いもうとがいなくなった日に助けてくれたヒトの言葉を思い返していた。
「でも、ショーケンさんは、あわせてくれるって言ってたもん」
その日はいつになるのだろうか。ハジメはどうやって妹を迎えればいいのだろうか。やり切れなくて、寂しくて、ハジメは涙をこぼす。
天の声が悲痛な声を上げる。
「わー!泣かないで……いっちゃんのせいだよ!」
「う、そ、そうなの?ごめんねハジメちゃん。やなこと思い出させちゃって」
店員がハジメの頭を撫でくり回す。揺れたり歪んだりする視界に、伏せた写真だけが映った。




