5.
ペロー子爵は体調がすぐれないとのことで、面会は明日の午前ということになった。
晩餐には8人が出席した。
第2王子エドゥアール、エドゥアールの婚約者であるわたしことヴィクトワール、エドゥアールの秘書をつとめるアルフォンス、ペロー夫人、ペロー夫妻の娘フランソワーズ、フランソワーズの婚約者ベルナー氏、ペロー子爵の甥モーリス、モーリスの妹マイア。クロエの姿はなかった。
屋敷にはわたしたち8人とペロー子爵の他に、ペロー子爵の主治医カミュ先生が滞在しており、明日には顧問弁護士のユボー先生が来訪するとのことだった。
わたしはペロー夫人にエドゥアールの婚約者として紹介された。列席者は口々にわたしの容姿と衣装をほめたたえた。瞳の色に合わせたヘリオトロープのドレスはエドゥアールからの贈り物だ。あいかわらずレースとフリルたっぷりで身体の線をきちんとカバーしてくれている。こういうところだけは非常によく気がまわるのだ。
ペロー夫妻の一人娘フランソワーズは22歳で先日婚約したばかりだった。
15歳でデビューして以来結婚の申し込みは何度かあったそうだが、いまいち踏ん切りがつかずにいたところ、父親の病気をきっかけに決意したらしい。小麦色の髪に鳶色の瞳で、年齢のわりに落ち着いたモスグリーンのドレスを着ている。人目をひく華やかさこそないが物腰にはどこか気品があった。ちまちまとしたお上品な食べ方も口数少なく婚約者を立てるところも貞淑さを絵に描いたようだった。
クロエが天真爛漫な紅薔薇だとしたらフランソワーズは清廉潔白な白薔薇だ。
フランソワーズの婚約者パトリック・ベルナーは23歳で資産家の三男ということだった。
父親は騎士として叙勲されているが、もともと平民出身らしい。一見おっとりとした人の良い好青年にみえるが、会話の流れを読むのに長けていて、見た目通りではない鋭さも垣間見せた。
もっとも、いくら結婚を急いでいたとはいえ、本来ならば子爵令嬢と結婚できる身分ではないはずだから、みかけよりずっと抜け目ない人物とみておくのが妥当だった。
ペロー子爵の甥モーリスは18歳で海軍士官学校の学生だ。
伯父が病気と聞きつけて、職場を離れられない父親にかわりすぐに休暇を取り駆けつけたらしい。
軍人を志しているだけあってがっしりとした体格でよく日に焼けていた。声がやや大きくはきはきとしゃべった。士官学校では成績も優秀で教師の覚えもめでたく、ペロー夫妻の自慢の甥ということだった。
モーリスの妹マイアは15歳だった。
エドゥアールの顔をみてはしゃぎ、名前を聞いてはしゃぎ、わたしを紹介されてあからさまにがっかりした様子だった。焦茶色の髪に鳶色の瞳、前歯がわずかに飛び出していて胡桃にかじりつくリスを連想させる。
次のシーズンにはデビュー予定とのことだがどうにも幼さが抜けきらない。たぶんマイアがあと7年成長したところでフランソワーズのような淑女にはならないだろう。