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32.

ユボー先生は側頭部を撃ち抜かれて死んでいた。

服装は深夜に不審者騒動があったときのままの寝間着で、眼鏡はベッドサイドに置かれていた。壁にめりこんでいた銃弾は1発だけ。3発の銃声のうち後の2発は鍵と閂をそれぞれ破壊するためにアルフォンスが発砲したものだというから、筋は通っている。実際残りの2発もすぐにみつかった。暴行の痕跡などは一切みられなかった。静かな表情からはなにも読み取れない。

銃弾は耳から一横指頭側を右から左へと貫通していた。ベッドから起き上がり左側、つまり暖炉のほうを向いた状態で真横から至近距離で撃たれたのだろう。アルフォンスが一瞥して断言した。薬莢の痕跡や銃創の形状、それに銃弾がみつかった場所から明らかだという。自殺でよくみられるやり方だったが、凶器はみつからなかった。即死なのは疑いようもない。凶器を処分する余裕があったとは思えず、他殺と考えるほかない状況だった。

先生の性格を反映してか、室内はきれいに片付いていた。チェストの上の花瓶には白薔薇が生けられており、かすかにただよう清冽な芳香がその横に置かれた聖書にいっそうの高潔さを添えている。デスクの上には法律関係の書籍が数冊、その上にばらばらに重ねられたメモ用紙だけが部屋のなかで唯一エントロピー増大の法則に従っていた。

わたしとセヴラン、それにかなり遅れてからやってきた夫人とモーリスにベルナー氏が状況を説明した。

銃声が聞こえたとき、となりの部屋のベルナー氏が最初に駆けつけた。ドアをノックしたが返事はなく、開けようとしても開かなかった。まもなくエドゥアールとアルフォンスがやってきた。ベルナー氏はふたりに部屋が施錠されていることを説明した。アルフォンスはベルナー氏に執事を呼んでくるよう頼み、ベルナー氏はその場を離れた。

昨日の今日だけに待ちきれず、アルフォンスは部屋の鍵がかかっていることを確認して鍵と閂の両方を破壊することを即断した。護身用の短銃を取り出しためらわず発砲した。鍵を破壊した後そのまま閂も破壊したため、閂がかかっているかどうかは確認しなかった。

ふたりが部屋に入ったとき、ユボー先生はすでに死亡していた。まもなくニコラとユーグが到着し、ユーグがカミュ先生を呼びに走った。ほどなくしてベルナー氏が執事を連れて戻ってきた。ベルナー氏と執事は暖炉にくべられていた書類の束をみて血相を変えたが、ニコラに書類の救出を指示したときには大半が灰になっていた。それからわたしとセヴランもやってきた。

部屋の鍵はデスクの抽斗と執事の鍵束にひとつずつ。どちらも在るべきところに存在していた。窓もバルコニーに続くドアも控え室に続くドアもすべて完璧に施錠されていた。フランソワーズの部屋とおなじく、こちらも隠し通路などはみつからなかった。ベルナー氏、エドゥアール、アルフォンスの3人が真実を述べているとするなら、部屋は密室になっていた。

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