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26.

正午を大幅にまわってから、ようやくセヴランが迎えにきた。

部屋に引き上げるなり日記帳の話をはじめたわたしに、彼はため息を吐いた。元来の性格なのか職業柄なのか不明だが、セヴランはわたしの前では感情をあまり表に出さない。ここまで疲労困憊する姿もめずらしい。

「まだやるんですか。探偵ごっこ」

「失礼ね」

「警察が介入した以上、お嬢さまの出る幕はありません」

「あるわよ」

犯人でないことを証明しなければわたしは服薬自殺することになってしまう。セヴランは目だけで賛同しかねると訴えていた。固辞するセヴランをとなりに座らせ、わたしは続けた。

「それにしたって、あのフランソワーズに秘密の恋人よ。まだしんじられないわ」

貞淑を絵に描いたような淑女だったのに。しかしセヴランの反応は薄かった。

「そうですか」

「驚かないのね」

「15歳で社交界デビューしたどこにもけちのつけようのないお嬢さまが未婚のまま22歳という時点で、わけありかと」

ぐうの音も出なかった。まったくもってその通りだ。フランソワーズみたいに完璧な御令嬢が嫁き遅れた末に平民出身のパトリックと結婚することになるなんて。奇跡だと本人が言っていたではないか。

「フランソワーズの秘密の恋人って、だれだったと思う?」

「この屋敷にいるとは限らないでしょう」

「いいから、考えてみて」

薄い青色の瞳をのぞきこむ。空と海とが融けあうところ、水平線の色に似たごく淡く緑がかった空色ホライズンブルー。わたしはこのめずらしくてどこか懐かしい色の瞳が好きだ。灰紫色モーヴよりもずっとずっと澄みわたったきれいな色だと思う。

セヴランは目を閉じて嘆息し、渋々といった体で推理をつむぎはじめた。

「ベルナーさまではないですね。来月ベルナー卿のご子息を紹介してくださるという文面から明らかです。モーリスさまでもないでしょう。従弟のモーリスさまなら家格は十分釣り合います」

モーリスなら素行は申し分ないし、特定の相手がいるわけでもない。あの日記が書かれたのは子爵がクロエを引き取る以前のことだから、モーリスとクロエはまだ出会ってはいないはず。少し年下ではあるが、子爵家の財産の分散を防ぐという意味では理想的な相手といえる。

「本人同士が想いあっていらっしゃるのなら反対する方はだれもいらっしゃらないかと」

「そう。それなのよ。あの書き方だとおふたりは想いあっていたとしか考えられないの。それでね、フランソワーズみたいにどこにもけちのつけようのないお嬢さまが想いあっていたのに結婚できなかった相手って、どういう人だと思う?」

「身分が極端に高いか低いか。素行に問題があるとか。あるいは、すでに特定のお相手がいらっしゃる方でしょうね」

「身分が極端に低い人は王都のお土産に詩集なんてよこさないわよ。パトリックで許されたってことは貴族じゃなくてもかまわなかったってことだし。素行に問題といったって、あまりにも目に余るような人は、そもそも好きになる余地なんてないじゃない」

「お嬢さま、恋愛経験ないでしょう」

「おだまり」

セヴランがようやく目を開けた。

「心当たりがおありなのですね」

わたしは大きくうなずいた。

「子爵令嬢では王子と結婚は難しいわ。それに殿下にはわたしという婚約者がいる。そもそもフランソワーズの日記帳が殿下の部屋に置いてある時点でおかしいじゃない」

フランソワーズの部屋には抽斗という抽斗を引っ張り出した形跡があった。恐らくは証拠になりそうなものを回収し隠滅するために。例えば、日記帳とか。

「つまり、こうおっしゃりたいわけですね。フランソワーズさまが殺害されたのは、相続問題ではなく」

「姉から妹に乗り換えたことで痴話喧嘩になったのよ」

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