表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/34

20.

部屋中の抽斗が引っ張り出され、壁際のチェストの下には薔薇の花が散乱していた。

たぶん花瓶を投げたのだろう。フランソワーズがうずくまっていた場所の近くにそれらしいガラスの塊が転がっていた。部屋の中央付近は足の踏み場もないくらいガラスだらけでよくわからくなっているが、たぶん花瓶でまちがいない。鋭利な断面に血液がべっとりと付着している。

シャンデリアの脚はゆがみ不安定な状態で天井からぶらさがっている。はめられていたはずのガラスはほぼ砕け落ち、冬の木のようにまるはだかになっていた。部屋に散らばるガラスの大半はこれによるものと思われた。残りは花瓶と、色ガラスが混じっているところをみると化粧瓶や香水瓶だろう。薔薇の香りの原因はこれだった。犯人がやったのか自衛のためにフランソワーズがやったのかわからないが、ものというものを手当たり次第に投げつけたらしい。

フランソワーズの首には指の形に痣が残されていた。手で首を絞められたようだ。

壁にはかすれた手形があった。乾いた血の色をしていた。大きさからみて成人男性のものだった。近くに血がついたペーパーナイフが落ちていた。女性的なデザインで、おそらくはフランソワーズの持ち物と思われた。


すでに夜遅くだったため、警察は翌朝呼びに行こうということになった。

楡屋敷周辺は森になっていて夜間に馬を出すのは危険だった。蒸気機関車が登場しようやく鉄道が各地に敷かれるようになった時代だ。電話とか自動車とかいう選択肢はなかった。わたしも世界史に詳しいわけではないけれど、たぶんシャーロック・ホームズとかあのあたりの時代だと思う。


エドゥアールとアルフォンス、それに執事の立会いの下で検案が行われた。

心窩部から下腹部にかけて殴打の痕が複数残されていた。足底と手掌他数か所にガラス片による刺切創がみられ、右側腹部にはやや大きめの刺創があった。花瓶によるものと思われた。外傷からの出血は、創部の状態をみても室内の状態をみても、死亡するほどの量ではないとのことだった。おそらく打撲による腹腔内出血で失血死したのだろうとカミュ先生は結論した。


カミュ先生が検案をしている間に、ベルナー氏の指揮で犯人の捜索が行われた。

不審な人物はみつからなかった。屋敷の周囲は堀に囲まれている。門番の話では、晩餐がはじまる前ぎりぎりにアルフォンスとベルナー氏が戻ってきた後、橋を渡った人間はいないということだった。

アルフォンスが屋敷に滞在していた全員に晩餐の後の行動について質問し記録した。フランソワーズの侍女によると、子爵令嬢は今日は午前からずっと体調が悪く、ひとりにしてほしいと頼まれていたという。晩餐の前に、フランソワーズから今夜は部屋には絶対に入らないようにと指示された。そのため、晩餐の後フランソワーズが部屋でなにをしていたのか証言できる者はだれもいなかった。

質問が終わるころにはマイアも泣きやんで幾分落ち着いていたが、幽霊のように生気がなかった。

楡屋敷の主人であるペロー子爵はベッドから起き上がれる容態ではなかった。夫人と主治医が相談し、子爵にはフランソワーズの死は伝えないということになった。

話し合いが終了した後、各自部屋に引き上げた。部屋を出る直前、わたしはエドゥアールがクロエの肩を抱くところをみてしまった。王子様エドゥアールのルート。わたしは服薬自殺し、病死として処理されることになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ