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18.

むせかえるような薔薇の香りがただよい、壊れたシャンデリアのガラスがきらきらと散らばるそのなかで、フランソワーズは死んでいた。

呆然と立ち尽くす。わたしはこの光景を知っていた。

文学少女だった前世、推理小説を糧として生きていたわたしに友達がとある乙女ゲームを薦めてくれた。たまには視野を広げなよ、と余計なおせっかいを添えて。『薔薇の埋葬』というタイトルのそれは、推理というよりもサスペンス要素の強い代物だった。なにしろどのルートでも犯人と殺害動機がほぼ固定されているので、殺害方法くらいしか推理する部分がないのだ。

主人公の名前はクロエ・ルメール。下町の小さな旅籠の娘として育てられるが、ある日自分が貴族の御落胤であることを知らされる。実の父親に引き取られたクロエは、攻略対象である男性たちと知り合い恋に落ちる。そして屋敷で起こる連続殺人事件に巻きこまれるなかで関係を深めていく。最後はすべての黒幕が悪役令嬢ヴィクトワール・ド・ドルーで殺人の動機はペロー姉妹への嫉妬であったことが語られる。

そう。つまりフランソワーズ・ド・ペロー殺害事件の黒幕はわたし、ヴィクトワール・ド・ドルーなのである。

「……………………わたしじゃない」

言葉がくちびるから転がり落ちる。

当然だ。わたしは直前まで娯楽室でマイアとセヴランとカードをしていた。フランソワーズを殺しに行く隙はなかった。というかそもそも動機がない。フランソワーズはどこにもけちのつけようのない完璧な御令嬢だが、それだけで他人を殺そうとする人間はめったにいないだろう。そんな非常識がまかりとおるのはご都合主義の乙女ゲームの世界くらいである。けれどここはその非常識がまかりとおる乙女ゲームの世界なのだ。そしてわたしは楡屋敷の連続殺人事件の犯人がヴィクトワール・ド・ドルーだと知っていた。

この後の展開は憶えていた。ルートによって2件目の発生時刻や場所、被害者、殺害方法は異なるが、だれかがもうひとり殺される。そして犯人が判明し制裁が下される。どのルートでもわたしは死亡する。婚約者だったエドゥアールのお情けで服薬自殺し病死として処理される。アルフォンスに法廷へと引きずり出され断頭台の露と消える。パトリックに説得されるも罪をみとめず堀へと転落し溺死する。最後まで抵抗しクロエ殺害を図ったためモーリスの手で斬殺される。などなど。分岐によってはさらに多様な死に方があるらしいが、乙女ゲーム初心者だったわたしが解放できたのはこのくらいだ。

「……………………わたしじゃない」

指先が冷たくなっていく。みんながわたしが犯人だと断罪している気がした。なにしろ、犯人はヴィクトワール・ド・ドルーなのだから。それはわたしのことだった。最後に死ぬのはわたしだ。どうにかして事件を解明しわたしが犯人でないことを証明しなければ、わたしは死ぬことになってしまう。

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