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17.

わたしとセヴランは娯楽室に向かいモーリス、マイアとカードをした。途中で夫人の侍女が呼びに来て、モーリスは去って行った。その後は人数合わせにセヴランも参加したが、彼は上手に勝ちをゆずりマイアをよろこばせた。

晩餐が終わってから約2時間後。

そろそろ部屋に引き上げようかと片付けはじめたところで、真上から物音がした。ガラスが割れる音のようだ。ばらばらと断続的に響いている。続けてなにか重いものが床に落ちたときのような、鈍い音がした。娯楽室は1階のコの字型の東側、階段を降りて右手にある。真上はフランソワーズの部屋だった。

「いま、なにかものが落ちなかった?」

マイアはのんきに天井をみあげた。セヴランの表情がわずかに強張る。わたしの従者は耳がいい。たぶんよくないことが起こっている。そしてこういうとき、わたしの従者はなによりもわたしの安全を優先する。そう。他の人間の生命よりも。

わたしは走り出した。

「お嬢さまっ!?」

セヴランはすぐに追いついた。けれどわたしの表情をみて、立ち止まらずにわたしの手を引き走った。階段をのぼって2階へ、右手に曲がってすぐだ。

フランソワーズの寝室は鍵がかかっていた。

「たすけて……、だれか……たす……け……」

なかから彼女のうめき声がした。ひどく苦しんでいる様子だった。

わたしはふたつとなりの応接室から入ろうとした。部屋は3つずつ組になっていて内側でつながっているのだ。けれどそこも鍵がかかっていた。間は使用人用の控え室だがやっぱり鍵がかかっていた。扉は丈夫そうだった。わたしとセヴランふたりで壊すのは不可能だ。

わたしは廊下の端まで走って右に曲がった。つきあたりは窓になっていた。窓を開けて身を乗り出し、右手をみればフランソワーズの応接間のバルコニーがみえるはずだった。

「バルコニーからまわりましょう。この窓を出て、飛び移ればいけるはずよ」

「莫迦をいわないでください。だれがそんな離れ業やってのけるんです」

「わたしがやるわ」

「冗談じゃありません。どうしてもとおっしゃるならおれがやりますからあなたはここにいてください」

「だめよ。セヴランが怪我するわ」

「あなたが怪我したらおれの首が飛ぶんですよ」

ごもっともだった。

そうこうするうちにマイアがやってきた。セヴランはマイアに執事を連れてくるよう頼んだ。確かにマスターキーがあればあっさり解決する問題なのだ。自分で執事を探しに行かなかったのは、わたしのそばを離れないためだったらしい。わたしを連れて行けばすむ話なのだが、セヴランがわたしを歩かせたりましてや走らせたりだなんてするわけがないのだった。

執事が鍵束を下げてやってきた。騒ぎを聞きつけたのかエドゥアールもクロエとアルフォンス、それに従者たちを連れてやってきた。

執事がフランソワーズの寝室の鍵を取り出した。鍵は開いたがドアは開かなかった。内側からかんぬきがかけられていた。結局5人がかりでドアを破ることになった。ドアが開いた。

むせかえるような薔薇の香りがただよった。

部屋のなかはぐちゃぐちゃで強盗が入ったかのようだった。明かりはついていない。廊下から射しこむ光で、シャンデリアのガラスが砕けて床に散らばっているのがわかった。部屋の中央、ベッドの足元にフランソワーズがうずくまっていた。絨毯の黒ずみは影よりもより黒く、おそらくは血痕と思われた。

「……遅かったようですね」

セヴランがつぶやいた。

「フランソワーズ!」

「だめよマイア!」

クロエの制止をふりきってマイアが部屋に駆けこんだ。

壊れたシャンデリアのガラスがきらきらと散らばるそのなかで、フランソワーズは死んでいた。

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