餃子選手権
私の師に餃子を愛している人がいます。
「俺は、餃子の皮に包まれたい」
なんて本気で言っているようなおかしな師です。
そんな師が私とその他の生徒を引き連れて、餃子店に連れて行ってくれた時の話。
「餃子三十人前。」
師は、入店直後そう店員に告げる。
今回のメンバーは五人であるから一人平均六人前。一人前六個の餃子であるから一人三十六個。
大胆な注文に一同仰天する。
何回か店員が注文の確認に来た。周囲の客も、興味津々といった様子。店内がざわつく。
「餃子選手権するんだから、これぐらい頼まないといけないだろ」
師はそう言う。
私を含めた生徒四人も初めての体験にワクワクを抑えられない。
餃子選手権。それはその名からわかるように、ひたすら餃子を食べ続けて、だれが一番食べられるかというものである。餃子以外を注文することは許されない。過酷な戦である。
三十人前が一気に来るはずもなく、まず十人前が到着した。
一同それをペロリとたいらげる。
おいしい、やっぱ餃子サイコーなんて言いながら。
次の十人前も、その次の十人前も、難なく食べた。
ここまで全員が横並びの、餃子選手権。
「十人前」
師は追加注文する。
もはや、餃子という言葉を言わなくとも、餃子注文できてしまう。
だんだん口数が減っていく。
油が口に残ってきた。腹も油でいっぱいというような感じである。
初めの脱落者が出た。
なんと、師が最初の脱落者だった。
「もう、餃子の皮なんて見たくもねえ」
と、もうお前の顔なんて見たくもねえ、という捨て台詞じみたものを吐いて箸をおいた。
「お前ら、若いだろうけど、俺はもう還暦ちかいんだからな」
と、言い訳も追加する。
師に続いて、徐々に脱落者がでる。
脱落者は、わいわいと話こんでいる。
私ともう一人がもくもくと食べ続ける。
「餃子を食べてたら、その人の性格も分かるな」
師が切り出した。
「俺みたいに言い訳して、食うのをやめるのか。それとも黙々と食べるのか。そこで人柄が出ちゃうんだよね。餃子は人生だから」
この発言には、一同爆笑。
店員さんの肩小刻みに揺れるのが見える。
「餃子さえ食べれば、その人の人なりが分かっちゃうんだよ」
師はそう言う。そう語る。
餃子選手権、私は一個差で敗れて二位。
悔しさよりも、吐き気のほうが強い。
当分餃子は食べたくなくなった。
「すべての道は餃子に通ず」
師の名言だけが私の心に残った。




