第8話 ピリオの決意
深夜
宿屋『魔法少女のウインク』、食堂。
ダンクはこっそり食堂の食べ物を漁っていた。
「うー、十年ぶりに食事をしても、全然魔力が回復しないな。何か食べ物は無いか…ん、なんだこのノート?
『ピリオ魔法少女育成計画』?ピリオって誰だ?
ま、いいや…食い物食い物っと…」
「ダンクさん」
ダンクは驚い後ろを振り返る。
そこにはローブを着たピリオが立っていた。右手には燭台を持ち、火の付いた蝋燭がピリオの顔を照らしていた。
「うわ、何だ少年!?
あ、いやそのまだ何も食べてないから泥棒じゃ」
「話があるから、こっちに来て」
そう言うとピリオは食堂を出る。
ダンクは首を傾げつつ、それに付いていった。
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宿屋の外は暗く、月灯りがローブを着たピリオを照らしている。
ダンクは先程とは違う気配に違和感を感じながら訊ねる。
「少年、どうしたんだ?
こんな所に呼び出して」
「…僕の名前はピリオ。
ピリオ・ド・シュリアだよ」
「ピリオ?さっきその名前をどこかで見たような…」
「話しっていうのはね」
ダンクの疑問を遮るようにピリオが話しをする。その言葉は重く、緊張しているのが分かる。
ダンクは口を止め、ピリオの言葉を待つ事にした。
「僕と一緒に世界を旅してくれませんか」
「なんだって?」
「僕はこのノンビーリ村で生まれ、ノンビーリ村で育ちました。
でも、僕は世界を知らない。この森の向こうに何があるのか全く分からない。
僕は知りたいんだ。世界がどんな場所なのか、どんな魔法が存在しているのか…この目で見てみたいんだ」
「それなら一人で旅に出ればいいだろ。
まさか俺にお前の子守りをしろって事じゃ」
「ダンクさんは世界中を渡り歩いた事があるんですよね?」
ピリオはローブから絵本を取り出す。
タイトルには『おばかなまほうつかいダンク』と書かれていた。
ダンクの言葉は再度遮られ、ピリオは必死に言葉を重ねていく。
「僕はお父さんの魔力鉱石から世界の情報を聞いていた…でも僕はずっとそれを聞く事しか出来ない。
生まれてから死ぬその瞬間まで、世界の端の端にいるんだ!
だから、だからどうしても世界を見たいんだ!
お願いします!僕と一緒に世界を旅してください!
お願いします!」
ピリオは必死にダンクに向けて頭を下げ続ける。
ダンクはじっと考えた。
(ここで断るのは簡単だ。
というか断るのが普通だ。こいつはただの臆病者で世界も人生も深く考えて生きてはいないんだからな)
ダンクは包帯だけの姿になってもう数百年以上は生きている。人間が生まれ堕ちて果てるだけの人生を何度も見ている。
この少年はその中で最も堕ちやすいタイプだ。1日あっただけの怪物に自分の人生を預けようとしている。
(こいつは馬鹿で阿呆で間抜けで無謀で愚鈍で無意味な選択をしようとしている。
こいつは止めなければいけない。かつての自分と同じ思考をしている。自分と同じ過ちを繰り返してはいけない。そんな危険な思考はしてはいけない!)
ダンクは顔を上げ、少年を見る。
少年はじっとダンクを見つめていた。
ダンクは口の部分の包帯を歪ませ、フッと笑う。
「分かった。一緒に行こうじゃないか。
世界が今どんな姿をしているのか、興味があるから」
「本当に!?
ありがとう!」
ピリオは嬉しそうに頭を下げ続ける。ダンクは口の部分の包帯を歪ませる。
包帯で表情は分からない筈なのに、何故かピリオには懐かしいモノを見る時のような表情に見えたという。