第7話 探し人は誰ですか?
「世界一お馬鹿な魔法使い、ダンクさ。
さっきは助けてくれてありがとな、少年」
肌だけが包帯に変化した男性、ダンクがピリオに話しかける。だがピリオはあまりに驚き過ぎて何も話す事ができない。
ダンクはそんなピリオにこう囁く。
「出来れば少し飯食べていいか?
ここ数年ロクなもの食ってないから大変なんだ」
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オタクは首を傾げていた。
先ほどまでローブを着た変な男を相手にしていた筈なのに、いつの間にか全身包帯人間に夕飯を食べさせている。
しばらく彼は考えていたが、「そうかこれが魔法少女の恩恵か」と納得した。
一方ピリオはダンクのそばで必死に話しをしようとしていた。
「貴方は本当にダンクなんですか?」
「ああ、本物だよ。
証明する書類はないけどな」
「体は包帯でできているのに何で食事が必要なんですか?」
「何で、てそりゃ食べたものは全部魔力に変換されるからに決まってるだろ?
俺みたいな存在は、食事から魔力を吸収するんだよ」
そう言いながらひょい、とダンクは唐辛子の束を手に取り、一つずつ一口で食べていく。
「あ、あの…辛くないんですか?」
「?
カライって何だ?
ま、いいや。さっきのローブの男なんだがな、ありゃ魔術教会の手の者さ」
「魔術教会!?」
ピリオはずいっとダンクの顔に近付く。
魔術教会とは魔法使いなら誰もが憧れる職業であり、魔術大学院卒業したエリート魔法使いのみがそこで働く事ができるのだ。ピリオも魔法を使う身として、憧れは抱いていた。
「その魔術教会になんで追われてたんですか?
ま、まさか犯罪を…?」
「いやいやいや、俺は悪い事してないからな?
ただ十年前にアイツラに封印されて以来、誰かに呼ばれたから封印を破ってここまで来たんだよ」
「誰かに呼ばれた…?」
ピリオは何か嫌な予感がした。
そしてそれはダンクの一言で的中する。
「誰かがこの辺で召喚呪文をしたみたいでよ、封印されてるから瞬間移動は出来ないし、しょうがないから封印破ってきちゃったんだ。
少年、誰か召喚呪文やってる人知らないか?」
(僕だーーーっ!!
僕が召喚したから、来ちゃったんだーー!)
ピリオの顔が真っ青になる。ダンクがその理由を聞く前に皿洗いしていたオタクが話しに参加する。
「お客さん、何かの間違いじゃないのか?
召喚呪文なんて今じゃ犯罪なんですよ?この村で魔術使える人はいないし、召喚呪文なんてハイレベルな呪文誰も使えないよ」
「そうかなー、確かに呼ばれたんだけど…」
(僕です見よう見まねで魔法したらできちゃいました…ダメだ言ったら捕まる絶対言えない!)
ピリオは二人の視界の外でガクガクと震えていた。
オタクとダンクは相変わらず話しを続ける。
「そういやお客さん、ここには何時までいる気?」
「明日の朝には此処から去るよ。
また魔術教会の奴が来たら大変だからな、朝の霧の中に隠れて何処かへ行こうと思う」
「そうか…」
(明日…)
ピリオは震えを止め、ダンクの方を見る。
(明日で僕が夢見た魔法使いとお別れする…やっと、会えたのに…こうなったら)
ピリオはその時、いつかやろうと考えていた企みを今日やる決意を決めました。