第57噺 怪力乱神御伽噺の真実~ダンス・ベルカード編~
未来人から若き魔術師に。
先ず初めに、アタゴリアンの設立から話そう。
この国は実験的に造られた国だが、一つ問題があった。
それはこの魔力に満ちた世界では人のいる所に魔の物が自然的に集まってしまう事だ。
あくまで人間を対象に作られたこの世界に悪魔や天使は必要ないのだ。
だから私達は天使の一人、べリアルと交渉を行いここに悪魔や天使の逃げ場、デビルズヘイヴンを作る事となったのだ。
表向きは『天国や地獄から逃げた者達を保護する国』として、
真実は『二度と地上の者に手出しさせない檻』として、
この国は作られたのだ。
「な、何だと!?
では我が今まで守って来たものは一体……!?」
魔王、君の意見は聞いてないよ。
そしてべリアルはベル、と名を変えこの国の王として君臨したのだ。
さてここからが本題だ、若き魔法使い。
貴様はここから先の真実を聞く気持ちはあるか?
もし無ければ何も伝えないまま私の行動をするだけだが?
「下らない脅しはやめろ。
真実だろうが何だろうが聞いてやる……その後で、アタゴリアンを破壊しようとするお前を殺してやる」
ふふふ、良い答えだ、それでこそベルガードの名に相応しい答えだ。
赤丸の代わりに答えてやろう。
先ず、貴様は人間ではない。
未来のクローン技術によって魔力を与えられて造られた、人造人間なのだ。
〜デビルズヘイヴン・王の間〜
豪華な装飾が施された部屋の中、ダンスはいきなり自分の床が砕かれていくような恐怖を感じながら訊ねる。
「……なん、だって?
俺が、人間じゃない?」
「お前は人間ではない、だが魔の者でもない。
初めからこの計画の最終段階の為に生まれた供物なのだよ」
「最終段階だと……?
もったいぶらずに、さっさと教えろ!」
ダンスは嘲笑するナンテ・メンドールに向かい手を伸ばそうとするが、魔王が間に入り手を止める。
「やめろダンス!落ち着くんだ!」
「く……!」
「有り難う魔王。
いや、『ジャベール・フィリス』と呼ぶべきか」
魔王がギロッとナンテ・メンドールを睨み付ける。
ナンテ・メンドールは嘲笑を崩さないまま話を続ける。
「ダンス・ベルガード。
君はせっかちになったねぇ。
まあ良い、あまり長引いてもつまらないだけだ。一気に話すとしよう。
ベルは今回の計画に参加する代わりに報酬を幾つか要求してきた。
その一つが『魔神創造の為の供物』。
自分が新たに仕えるための究極の力を持つ神を要求したのだ。だがそれには純粋な気持ちを持つ魔術師を生け贄に捧げなければならない。
そこで我々はクローン技術を使い君を創造したというわけだ」
「…………なんだそれ…でも、冗談……じゃ、ないんだな……」
「ああすべて本当だ。
貴様が未来人で試験管から生まれた事も、生け贄として育てられた事も、デビルズヘイヴンの皆は知っていた」
ダンスの記憶の中で優しく微笑む彼等の姿を思い出す。
悪魔も堕天使も皆優しく接し、全てを教えてくれた。
その優しさは全て、この時の為だったのだと思うと心が傷む。
そして目線は自然に魔王と呼ばれた悪魔へ向けられていく。
察したベルが教えてくれた。
「あ、そいつは違うぞ。
アイツは虚言癖がある上に地上を住み家としているために、教える事は出来なかったのだ。
だが驚いたぞ、ただの役立たずだと思っていたのにまさかダンスを連れてくれるとはな。
おかげで手荒に捕まえる必要が無くなった」
「な……ち、違う……我は、我はそんなつもりで、ここに来た訳では……だ、ダンス!」
魔王はダンスの両肩を掴む。ダンスは目を丸くして魔王の顔を見る。
普段は笑みを浮かべている顔は震え、目はキョロキョロと動き回っている。
「我は!!……我は……我、は……」
「魔王……落ち着け。
こいつらが最低だってのは分かった。そして怒りのままこいつを殺しても何の解決にならない事も……だから、俺は……」
ダンスは魔王の手を優しく払い、堕天使ベルの元へ向かう。
そして、その前で跪き床にキスをした。
「ダンス!?」
「ベル様。俺はこの通り貴方に従います。
俺を生け贄に魔神を召喚し、願いを叶えてください」
「ほぉ、そうか。
それでは」「そして、どうか地上の者を助けてください。彼等を導く許可を下さい。彼等に安らぎを与える許可を下さい」
「…………」
「貴方の願いは『魔神を造る事』でしょう?
なら俺は貴方の願いの礎になります。だから俺の願いも叶えてください」
「ふ……そうだな。
死ぬために生まれたお前には、我が儘を言う権利があり、お前を作った私には、叶える義務がある。
だがもう駄目だ、アタゴリアンで生きている者は殆どいない。
今更お前がそんな願いを言った所で、叶える事は出来ないな」
「……!」
その言葉を聞いて魔王が震え上がる。
「そ、そんな……我が、我がデビルズヘイヴンに行こうと言わねば……守る事ぐらいは出来たのに……何故、何故我は……!」
「ベル様、ならばもう一つ願いを言わせて貰います。
リンベルを俺の側に連れてください」
「!」
リンベル、という言葉に魔王は目を丸くし、ベルは初めて笑みを崩した。
「……リンベル?」
「はい、たとえ死んでても生きてても構いません。
彼女を俺の側に連れてきて欲しいのです。
俺は彼女を守り助ける為にここまで来たのです。
たとえ、この身が魔神の生け贄にさせられても……心は彼女と共にいたいのです」
「……リンベル……」
ベルは冷や汗を垂らしていたが、やがて笑みを作り上げる。
「分かった……お前の願いは叶えてやろう。
必ず。必ずリンベルを……つれてきてやる」
「有り難うございます。
もう1つ、これから自殺する者の強欲をお聞きできますか?」
「何だ?
……聞いてやろう。だが、これが最後の願いだ。
俺は3つも願いを叶える気はない」
ベルは苛々しげに訊ねる。
ナンテ・メンドールは黙って二人の話を聞いていた。
「2つで充分です。
そこにいる魔王も保護してください。出来るなら牢に閉じ込めてでもいい」
「何だと!?」
「良いだろう、警備兵!」
ベルの言葉に警備兵が駆けつけ、魔王をあっという間に捕まえる。
「牢にぶちこんどけ、だが手荒に扱うなよ」
「分かりました!」
警備兵は魔王をあっという間に部屋から連れ出していく。
魔王は一言もダンスに声をかけられないまま、部屋を出ていってしまった。
それを見届けてから、ナンテ・メンドールが声をかける。
「良かったのか?
あいつ、お前の親友なんだろう?」
「親友だから閉じ込めたんだ。
……俺が死ぬ姿を奴に見せたら、あいつ、きっと自分を許せなくなる」
「だから、そんな事を願ったのか?
今の流れなら少しでも自分を生かそうと知恵を使うべきだろ?
生きる事を諦めたのか?」
「死ぬ覚悟が出来たのさ。
魔神の供物になるぐらい、なんて事はない。
あの二人が助かるなら、それでいい」
静かに目を閉じるダンス。
対照的にナンテ・メンドールは笑みを浮かべる。
「くく、美しい友情って奴かい?素敵だが……無意味だな」
「何故だ?」
「堕天使ベルの報酬の一つ。
それは今日アタゴリアンと共にデビルズヘイヴンも滅びる事だからさ」
「!?
な、何だって!」
ベルは静かにナンテ・メンドールに一歩近付き、短剣を喉元に突き付ける。
「む!?」
「話しすぎだ、ナンテ・メンドール。
だが言ってしまったものは仕方ない、か」
「ベル様、今のはどういう事だ?
デビルズヘイヴンも滅びるだって!?
ここと未来は協力関係じゃないのか!?」
「黙れ若造。
我々はそもそも死に場所がほしくてデビルズヘイヴンを作り上げたのだ。
お前達は気付いてなかっただろうが、今や城下町は祭り騒ぎだ。
皆、今日で死ねる事を喜んでいる」
その言葉に、ダンスは急いで窓から町の様子を見る。
そこには見たこともない装飾で彩られ、大いに賑わう町の姿があった。
「そんな……」
「もはやこの国に生きる事を望む者は居ない。
魔神が現れ、世界を滅ぼすだけだ」
「ああ、未来の事なら気にしなくていい。
我々は貴様等が想像できない程未来にいるのだからな」
目を丸くし驚愕するダンスに、警備兵が近付き、手を掴む。
だがダンスはその手を振り払う。
「離せ!
これ以上先は話しても無駄、のようだしな」
「良く分かってるじゃないか。
2つも願いを叶えさせてやるんだ、黙って生け贄祭壇の所まで行って貰おうじゃないか」
「ち…警備兵ども、案内しろ!」
ダンスは警備兵より先にすたすたと歩いていき、兵はあわててダンスに付いていく。
そして、部屋を出ようとした時、くるりとベルの方に振り返る。
「…必ず約束は守れよ」
「…当たり前だ」
続いてナンテ・メンドールに振り向き、睨みをきかせる。
「このイカれた未来め!腐った真実め!俺はいつか、必ずお前に復讐してやるからな」
「もう死ぬ身で何をほざくかと思えば……無駄さ、誰にも未来を変える事は出来ない」
ナンテ・メンドールはダンスを見て嘲笑し、くるりと振り返る。
「さて、私はそろそろ安全な未来に変えるとしよう。
また会おう、ダンス・ベルガード」
「覚えとけナンテ・メンドール。
その時は、お前が死ぬ時だ」
その言葉を残して、一人は未来にもう一人は祭壇へ向かっていく。
一人残されたベルは、ふらふらと崩れ落ちていく。
「何故だ……何故ここで、リンベルの名が出てくるんだ……何故……」
「報告します!」
不意に、扉から声が聞こえてくる。
見ると先程とは別の警備兵が立っていた。
「リンベルを名乗る曲者を捕らえました!
今ここに連れていきます!」
続くか?続かないか?
それは堕天使の狂王だけが知っている。




