第43噺 知識求める魔法使いは真実を求めない
若き雌鳥から、知識求める魔法使いへ。
貴方は今、真実を見ていますか?
貴方は今、真実から目を背けていますか?
私は真実を見ることが出来ません。
だから、もし真実を見つけたら……どうか目をそらさず、受け入れて下さい。
そしていつか、私が見れなかった真実を私に教えてくださいね。
〜アタゴリアン・コッコの別荘〜
ダンスが別荘で療養してから、数日が経過した。
ダンスはベッドの上で魔術の本を読み漁るのがすっかり日課になっている。
その横では金髪の長髪の女性、リンベル・コッコが静かに冒険小説を読んでいた。
二人は暫く本を読んでいたが、やがてリンベルは本を閉じる。
「あらあら、すっかり遅くなってしまったわ。
今晩も美味しい食事を作りますから楽しみにして待っていてくださいね!」
そう言いながらバタン、と扉を閉じる。
ダンスは暫く本を読んでいたが、やがてファー(粥の一種)を入れた皿を盆に載せながらリンベルが部屋に入る。
「あらあら、まだ読んでるの?
早くしないとせっかくの料理が冷めてしまうんですけど」
棘を含んだ言い方にダンスは慌てて本を閉じ、料理に目を向ける。
「やっと目を向けてくれた。
いつも貴方は魔法に夢中なのね」
ダンスは恥ずかしそうに顔を赤くしつつ、盆の上に料理と一緒に載せられているスプーンを掴み食事を始めようとする。
リンベルは再度部屋を出て、リンゴジャムとパン、綺麗に盛られたサラダを机の上に置き、食事を始める。
腹部を怪我したダンスは食事が難しく、スープの上に浮かぶファーを食べるのも四苦八苦していた。
一方、リンベルはサラダにドレッシングをかけ、レタスを美味しそうに頬張る。
しゃきしゃきと聞こえる元気な音をなるべく聞かないふりしながらダンスは慣れない食事を進めていった。
それから数日経ち、ダンスは心の中にリンベルの姿を見るようになっていく。
下に続く。
リンベル・コッコはとてもよく喋る明るい女性だった。
天気が良い日はなるべく一緒に外に出そうとしたし、悪い日は一日中同じ部屋で本を読むか彼女の話を聞いていた。
ダンスは魔術の本を片手に聞きながら良く頷いていた。
それが二人の日常の過ごし方だった。
或る日の事、雨が降り二人で本を読み漁っていた時、リンベルはダンスに胸の内に秘めた夢を語った。
「私の父親は魔術師だった。魔術で国を発達させたいと考えていたわ。
しかし祖父が機械による国の発達を目指した為に互いは衝突してしまい、父親は私と母を置いて国の外へ出ていってしまったわ。
もう十数年も前なのに私は今でも父の優しさを忘れる事が出来ないの。
そして私は看護婦を目指した。
それはこの国の怪我人や病人を治す為では無いわ。
この国を出て、何処に行っても通用する技術が欲しかったの。
それがたまたま看護婦だっただけなのよ」
ダンスは自分の体に巻き付けられた包帯を触りながら、彼女の話を黙って聞いていた。
そして心の中にリンベル・コッコへの透明で形の無い想いが、彼女の肩を優しく抱き締めてあげたいと強く願った。
しかし腹部の傷が想いを止めるよう警告し続けていた為にダンスはじっと彼女の美しい横顔を見続けるしか出来なかった。
リンベルは自分が読んでいた本に目線を向ける。
「私は冒険小説が好きなの。
カッコいい主人公より、綺麗な風景を文章の中で見るのが好きなのよ。
綺麗な草原やパンの街や綺麗な湖に見たこともない魔法を読んで、頭の中で自分なりに文章の世界を作るのよ。
そしてその中で私は旅をしたいの。いつかこの国を出るときの準備の為にね」
リンベルは『臆病者シュリアの冒険』と書かれた本をパタン、と閉じ、ダンスに顔を向ける。
その表情は普段の明るさは無く、瞳には覚悟を決めた強い輝きが揺らめいていた。
「ダンス、もし、もし怪我が治って魔法を学ぶために国の外に出るなら……その時は私も連れていって下さい!
私も国の外に出たいの!」
ダンスは暫くリンベルを見つめ、リンベルはダンスを見つめた。
まるで数時間も感じられる沈黙の先にダンスは一言、
「……出ていってくれ」
「え?」
「出ていってくれと言ったんだ!」
「!」
リンベルの瞳から覚悟の輝きが消えていく。
代わりに悲しみとも憂いとも言えない曇りと涙が、彼女の美しい瞳を隠していった。
そしてリンベルは何も言わず、部屋を出ていった。
続くか?続かないか?
それは知識求める魔法使いが知っている。




