カッコイイ人
高校時代の後輩、三島くんと偶然再会した。
あの頃、三島くんの隣にはかわいい彼女がいたし、
私は彼よりも一つ年上で全くさえないオンナ(今もね)だった。
だから、むしろ堂々と彼を『カッコイイ』と口にしてファンだと公言していた。
まわりも、笑って流していた。
本当は、本気で好きだったけど、本気を隠すために嘘の『好き』を何度も口にしたのだ。
三島くんの彼女にも私なんか相手になるわけもないと笑顔でスルーされていた。
卒業で自然消滅した恋は今でも少し、私の胸を痛くする。
再会した三島くんは、相変わらず格好良いけど何やら落ち込んでいる様子。
恋人にも振られて自信喪失しているそうだ。
会社で人間関係がうまくいっていないそう。
「え~三島君、今もそんなに格好良いのに!!」
と思わず言っていた。
「先輩は高校のときも自分をいつも格好良いっていってくれてましたね。」
その後、私の前なら格好いい自分に戻れる。自信も持てていろいろうまくいく気がすると彼に縋りつかれて、『たった一人のファンクラブ』として彼が落ち込んだら会ったり、電話したりして彼を誉める日々が始まった。
「疲れていてもそんなカッコイイなんて、さすが三島君だね。」
「え?それって三島君がカッコイイからだよ。嫉妬されてるんじゃないの?気にしないで。」
「せっかく、三島君はカッコイイんだからもっとそのカッコイイ笑顔を振りまいてあげらいいんじゃないかな。」
「え?そんな仕事まで三島君やってるんだ。カッコイイと頼られるんだね。」
etc etc
もちろん、彼氏彼女なんかじゃない。たとえ、また私が彼を好きになっちゃったとしても・・・
私ももう、高校生のおこちゃまでもない。周りも見えるようになった。
そんな私が高校時代と違うのは
サエナイオンナもサエナイなりに努力するようになったことだ。
たとえ、お付き合いしているわけでもない「ただのファン」だとしても、あの格好良い、三島くんのファンであるのだから少しは見目良くしておかないと三島くんが恥をかく。それはダメだ。
まずは、清潔感。これが一番大事。ナチュラルは何もしないではない。すべきことをしてその上で自然にみえるのがナチュラル。洗顔もおろそかにしてにきびや汚れた毛穴をみせてあるのと、きちんとケアした上でノーメイクであるのとは違う。
どちらかというとぽっちゃりの私は適度に油分があってに意外と肌がきれいらしい。
化粧品売り場でもうらやましがられる。
そこがチャームポイントなら活かさないとね。ボディローションも購入して、マッサージもして代謝を上げる。
実は無精で伸ばしっぱなしだった髪も、洗った後、普通のドライヤーで乾かしていただけだったが、ツヤを出すというドライヤーとブラシに買い換えた。ヘアクリームなんて初めて使った。
服装も、似合うものより好きなものを着ていたのだが、似合うものを重視するようにした。
「カッコイイ三島くんのそばにいて恥ずかしくないようにがんばるね。」
少しでも格好良い彼が恥ずかしくないように。
努力して努力して努力した。
三島君は私が彼のためにきれいになっていくのをまぶしそうに見ていた。
「先輩ががんばってるから、俺もがんばるね。」
そう笑顔で宣言すると、悩みを克服した彼は、格好良さを増していった。
うまくいかなかった会社での人間関係もスムーズになったという。
だんだん、自信を取り戻していった三島くんの周りにはまた、人が集まりだした。
そして彼を『格好良い』という人間が増えて・・・それに比例して私への彼からの連絡は減少していった。
あ~あ。
仕方ないよね。三島君はあんなに格好良いんだもん。
私とは釣り合わないよ。
私はファンなんだから。
涙が滲むこともある。
ちょっとの間だけど、三島君と過ごした日々は本当に楽しかった。
一緒にショッピングにいって彼に似合う服をプレゼントしたり、オシャレな彼に似合う店で食事したりしたっけ。
こんなさえない私が、ちょっとでもあんな格好良い三島君とまるでデートみたいな、カップルみたいな毎日を過ごせただけでもよしとしないとね。
彼に合わせて買ったオシャレな洋服の溢れたクローゼットの扉を開いて、タメ息をひとつ。
彼に見せるんじゃないならこんな服、もういらないかな。
でも、捨てるのもムリ。だってコレは彼が似合うよっていってくれたカットソーだし、こっちのコートは彼のコートとこっそりおそろいの色なんだ。
アクセサリーも彼と選んだ。さすがにおそろいは私の恋心をばらしちゃうから、同じシリーズであることにひっそりと喜んでた。
やだ・・・私ってばストーカーみたい。
あ~あ
部屋のチャイムがなった。
涙を拭うと鏡を覗いて身なりをチェックしてから玄関に向かう。
ふふふっと笑みがこぼれた。
三島君と再会する前ならどんな格好でも気にしなかったな。
彼のおかげでこんなことを自然とするようになったんだな。
もう、あまり会うとことないだろうけれど、三島君と一緒にいれて私にもイイコトあったんだな。
「はい。」
「三島です。」