聖女様③
ーーノースディア地方。
パラディア国北部で最も王都に近い地方。北部では北に進むにつれて雪が多く積もっているが、この地方では雪が降らないと言われている。
「そんな地方で唯一雪が積もる場所ーーそれが白幻の森だよ」
「ただ雪が降ってるだけでしょ。そんな洒落た名前つけなくてもいいのに」
「そこは一面銀世界でとてもとても美しいーーらしいんだよ」
「? らしいって、行ったんじゃないの?」
どこか含みを持たせるような言葉にシャルロットは首を傾げる。
「行ったとも。入口までね」
「は? 入口ってーー」
「とにかく、一度行ってみるといい。私が君に頼んだ理由もわかるだろう」
ーー頼んだよ、聖女シャルロット様。
その言葉を最後に、電話は切れてしまった。
「結局、まともな情報無いじゃない……」
ーー聖女シャルロット様。
少女の脳内に男の声が残る。それはじわりじわりと、彼女の中に溶けていく。
「……聖女様って柄じゃないっての」
すっきりしないような表情で受話器を掴む。先ほどまで人の癇に障るような表情を浮かべていたこの白猫は、今は可愛らしいぬいぐるみのように動きを止めている。
「……相手の声に反応しすぎるのも考え物ね」