聖女様①
「ーー行方不明事件?」
広々とした書斎に小さく少女の声が響く。艶のある長い黒髪を指に絡ませながら、少女は自身の発した言葉に顔を顰めた。耳元でふわふわと浮く受話器(大きな口をした白猫の顔をした、なかなかファンシーなデザイン)に耳を寄せ、少女は手にしている紙に目を向ける。
「最近、子供が遊びに出たっきり、家に帰ってこなくなる事案が多数出てきててね。我々も捜索活動しているんだが、誰一人見つからないんだよ」
受話器から発せられる男性の声。何処か笑みを浮かべていそうなその声に、少女は嫌々そうに顔を歪める。
「そんなの、マルフェン警部の部下が真面目に操作しないで何処かで遊んでたりするんじゃないの」
「はは、私の部下がそんなことをするはず無いじゃないか。相変わらず酷いなあ、シャルロット」
馬鹿にしたように笑う男の声に、連動するように受話器もニヤニヤとしている。それを見て少女ーーシャルロットは苛立っているかのように紙を机に叩きつけた。
それが受話器の向こうに伝わったのか、おっと、と男ーーマルフェンは笑うのをやめた。受話器は目をぱちっとさせ、それすらも彼女は気に障ったのか、苛立ちを声に乗せた。
「それで? アンタは私に何を頼みたいのよ! 送られてきた資料見たってろくな情報載ってないし、何よりアンタ自身何も喋らないし!」
「おいおい、口調が乱暴になってきているよ?」
「アンタが苛つかせるからでしょう!」
カルシウムが足りていないんじゃないか、と、マルフェンはため息混じりにつぶやく。
電話切ってしまおうかとシャルロットが受話器を掴むと、彼は待てと制止した。声のトーンが変わったことに気づき、彼女はようやく本題かと受話器を掴んだままため息をつく。