せ、先生に抱き締められちゃった!?
一応深月らしくを心掛けて、廊下は走らず早歩きで突破。
数学準備室の横は、扉はあるが特に表記のない部屋だった。
「失礼します」
ノックして部屋に入る。
「……あれ、いない?」
狭い室内を見回すが、どうやら担任はまだ来ていないらしい。呼び出しといてあいつ……。
「つか不用心かよ……」
色々書類広げたまんまほっぽっていくとか。せめて鍵くらいかけてきゃいいのに。
「だってお前が来るだろ?」
「うわっ!」
急にドアが引かれ、ドアに背を預けていた俺は思わず引いた本人の胸に飛び込んでしまった。
「おっ積極的ィー」
「えっなっ」
「まぁまぁ落ち着け?な?」
にこにこしながら飛び込んだままの姿勢で動かない俺の腰を抱いて、1歩部屋の中へ入ってくる。
がちゃり。
何で俺男に抱き締められてんの。っていうか何でこいつ今鍵かけたの。っていうか……聞かれた?
「せ、先生……?あの、離して下さい」
「ん?んー……俺さぁ、気になって仕方ないことあるから、ちょっとこのままでいてくんない?」
何でこんな体勢で聞かなきゃいけないのかと思ったが、いつのまにか両腕が腰に回されていた。逃がす気がないとでもいうかのようだ。そして笑うような声で、恋人に愛を伝えるように耳に囁きかける。
「お前誰?」