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びびで・ばびで・ぶー!

 「よし、じゃあいくぞ……」

 「うん、ファイト!」

 スライドして手のひらに1粒出す。見た目はサルがCMやってたあれとかフリなんちゃらとかと全く変わらない。

 口に入れる前に匂いを嗅いでみたものの、うっすら甘い匂いがするような気がするだけだ。

 (ええい、なるようになんだろ!)

 ここで試せないようでは男が廃る!と勢いで飲む。よく考えたら飲んでも男が廃るじゃねえかと思ったが、セルフ突っ込みをする間に、身体が温かくなってきた。

 「う……」

 なんというか、身体全体がこそばゆいというか、むずむずするような感覚に包まれる。皮1枚隔てて輪郭をなぞられてるような心地。何か念能力に目覚めそう。

 数秒してから不意に感覚は消え失せ、目を開く。閉じたつもりはなかったが、気付いたら閉じていたようだ。

 低い。

 まず最初に思ったのはそれだ。椅子に座ったまんまだったのだが、どう見ても視点が低くなっているし足が着いていない。

 「おぉ……」

 女のように華奢な手足を見つつ、ついでに見えてしまった胸の大きさにちょっと感動する。これは結構あるのではないだろうか。

 「わー、すっごい。星梧、めっちゃ深月に似てる!」

 「まじで?」

 声が完全に女だ。試しに立ってみると、背中に髪がかかった。髪も深月と同じくらいに伸びているらしい。

 っていうか立つときに揺れた部分がめっちゃ気になる。自分のになったって分かってるけど超触りたい。

 「ん、背はちょっと小さいかなぁ?胸はちょっと大きい、けど誤差でいけそうかな!若干低いけど声も似てるし」

 「まじか」

 部屋に鏡なんてものはないので自分では見えないが、そんなに似ているのだろうか。首を触ると確かに喉仏がなくなっていたが、手で顔を触ってみてもあまり違いはわからなかった。

 ……ていうか股間がすーすーすんな……。胸に気を取られてたけど、これ下半身も女なわけだろ……?あ、やばい色んな意味でどきどきしてきた。

 「うーん、とりあえずサイズが合わなくて使ってなかったブラ貸すから、明日は合うやつ買いに行こうね」

 「……は?」

 「だから、下着必要でしょ?」

 「!!!」

 ようやく自分がブラをしなければならないことに気付き、あまりの耐えがたさに「無理やっぱやめる!」という言葉が口をついて出そうになる。そんな理由で救えるかもしれない姉を留年させる訳にはいかないのでなんとかこらえたが。

 

 「ん……?」

 また身体が温かくなりだした。どうやらこれが変化の前兆らしい。もぞもぞしたくなるような感覚が過ぎて、ようやく見慣れた高さが戻ってくる。時計を確認し、効果が1時間11分続くことを脳内に書き入れた。

 ちなみに1時間6分で戻るらしい巴月は、一足先に戻って「あっこれ深月にも飲ませてみよっかな!?星梧に似るよね!?おっとりした星梧とか超見たい」とか言ってさっさと部屋にすっとんでいった。正直俺もほんとに似るのか見てみたかったが、それより先にやることがあったので巴月の背を見送った。

 身体が元に戻ったので、急いで和明に電話する。

 奴は待っていたかのように1コール鳴り終わる前に出て、開口一番『なんだ、女の方で電話してくれるかと思った』とか抜かしやがった。とりあえず、まだ何も喋ってないのになんで俺が俺のままだって知っているのか。

 「……言いたいことが結構あんだよ」

 『何?僕男と電話する趣味ないからさっさと終わらせたいんだよね』

 「俺だってねーわ!お前なんなの!?普通に友達やってたけど、変なもの作れるとか知らなかったんだけど!?」

 『言ったとこで信じるタイプじゃないでしょうが。僕前世の記憶持ってて、前世が魔女だったんだよねとか信じる?』

 「信じねえ」

 『ほら。だから言わなかったんだよ。それにこの世界の一部の奴らに、魔女とか悪魔とか魔族の前世を持つ人間を狩ろうとしてる奴がいてね。身の安全は最優先事項だから』

 うっわファーンタジーぃ。なんなのこいつ。ラノベの主人公にでもなればいいんじゃねえの。もうその手の設定出尽くしてるけど。

 「俺がお前をそこに突き出したらどうすんだよ」

 『捕まる前に、お前を殺す』

 「…………」

 『なんてね。星梧はそんなことしないだろう?』

 今の絶対本気だった。羽が生えたMSに乗った奴の台詞より本気だった。あれ生存フラグなのにこっちは確実に死しか見えなかった。

 「……とりあえず、なんで巴月にこの薬?を渡したんだよ」

 『まぁ深月さんが心配だったし、星梧に直接渡してもどうせ信じないだろうしね。……それに、言ってなかったけど実は巴月さんと付き合ってるんだよね』

 「はぁ!?巴月が!?お前みたいな怪しい奴と!?」

 『ね。よくこんな怪しくて将来が不安な奴の告白をOKする気になったなぁと思って惚れ直したね』

 「うっわ、絶対別れさせてやる」

 『はは、酷いな。これでも結構本気だし、というより……巴月さん、もしかしたら……』

 そのまま先を言わずに黙り込みやがるので、勘が鋭い俺は大体予想を付けつつ、先を促す。

 『巴月さんは、一人だけ全く系統が違う顔をしているだろう?ご両親にもあまり似ていない。それに、無意識のうちに魔力を受容している……多分、前世の記憶に目覚めてないだけで、僕と同じだと思う』

 「そ、うか……」

 …………。

 ……しんみりした空気を台無しにするので口には出さないが、何で急にファンタジーが押し寄せてきたんだ。正直、姉とか友人とかからファンタジーが広がっているんだとしてもそこを避けていきたかった。もう今更だけど。身近なファンタジーの世界に最早呆れるしかない。

 『まぁ暴露話はこれくらいかな。他に聞きたいことは?』

 「色々あったはずだけどな、もうお腹一杯ですって感じだ……。服用するときの注意点だけ教えろ』

 『連続服用しても問題はないけど、飲んでから30分は間を開けた方がいいね。それと、飲んだら作用時間を超えるまでは戻れない。身体が変化するには10秒程度かかる。変化してる間に連続して飲んでも変化がキャンセルされることはない。……うーん、それくらいかな』

 「へーへー、了解」

 『じゃあ楽しい女子高生ライフを送れることを祈ってるよ』

 プツ。ツーツー……。

 …………祈るなよ、んなもん。

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