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お姉ちゃん、お兄ちゃんになっちゃうの!?

 巴月が泣き出したことで背中をさすっていた深月も一緒に泣き出してしまったので、2人を深月のベッドに座らせて、落ち着くまで待ってから本題を切り出す。

 時間を置いたことで冷静になったのか、深月も取り乱して殺しかけたことは謝って、学校を休む理由を教えてくれた。

 つまり、自分を酷くいじめてくるクラスメイトが生徒会長で、クラスぐるみ、生徒会ぐるみでいじめが行われるということらしい。

 深月が先生にかけあったら、濡れ衣だと言い張られてさらにいじめが酷くなった上、相手が生徒会長であるためにまともに取り合われず、それどころか遅刻や早退が増えたことを責める始末だったとか。

 巴月が言っても同じことになってしまい、参った深月は学校に行けなくなったということらしい。

 「テンプレのようないじめだな……。いじめられてる理由は?」

 「わかんないの……。長谷織はせおりさんとは中学も一緒だったけど、でも殆ど接点なんてなくて……生徒会で一緒になってから、急に……。ふっうぅ……」

 「わああ、泣かないで深月ぃー」

 慰める方がすでに涙ぐんでるのだが、それでいいのだろうか。

 ベッド下に落とされていたティッシュボックスを拾って渡す。

 「……うーん、理由がわかんないんじゃ対処のしようがねえな……。聞いた限りでは何故か嫌われてることしかわかんねえし」

 「そうなんだよー。深月が抵抗しないで大人しくしてても酷くなるし……」

 「でもこのままだと留年しちまうよな。成績はよくても、出席日数がなぁ」

 「そこだよねぇ。10月までは休んでなかったし、最悪あと1か月ちょっとくらいは休んでも大丈夫だろうけど。私が深月の変わりに出てあげようと思ったんだけど、顔が全然違うからさぁ」

 「身代わりか。確かに、双子とはいえ顔が違いすぎるからな」

 「むしろ星梧の方がよっぽど似てるもんね」

 「そういや昔は深月とよく間違われてたな」

 「……まぁでも男子だしねぇ……身長違いすぎるし……」


 そんな話をした2日後。夕飯を食べ終え、部週末だからとか言って毎週金曜日に出される課題を部屋で片付けていると、部屋のドアがノックされた。

 「はいー?何ー?」

 「あのさぁ、ちょっと相談があるんだけど」

 巴月が何やら声を潜めながら入ってくる。

 「聞かれたくないこと?」

 「いや、そういう訳でもないんだけど……」

 後ろ手にドアを閉め、静かな足取りでベッドに向かい、そっと腰かけた。

 どうみてもこそこそしてる。

 「なんだよ?」

 「ん……。えっと、学校って何回休んだ?」

 「は?学校?1回風邪で休んだけど」

 「遅刻とかは?」

 「遅刻はねえな。風邪のときに早退はしたけどな」

 何でこんなこと訊いてくるんだ、こいつ。

 「じゃあ1か月くらい学校休める?」

 「……あ?んなの無理だっつの。テストとか課題とかあるし」

 「あっそうか……」

 まさか、一昨日の身代わりの話だろうか。しかし、いくら顔が似てるって言っても所詮男の顔立ちだし、身長が違いすぎる。

 「俺に深月の代わりは無理だろ。学校の方は……そうだな、テストと金曜日に出られればいけるとしてもだ」

 「えっじゃあ金曜日以外なら大丈夫なの!?」

 人の話を聞け。

 「あのさ、実はと、友達に魔女がいてさ、」

 ……なんか急に話がファンタジーになったぞ。

 「それで、性別を転換する薬を1か月分作ってもらえたの!だから深月になれるよ!」

 しまった、頭が受け付けない。


 「待て。巴月、お前それ確実に騙されてるからな?」

 「本物だよ!私一回飲んだもん!分かった、今飲んであげる!」

 「えっ」

 言うと、巴月は後ろ手に隠し持っていたタブレットケースみたいなのから一粒取り出し、口に放り込んだ。飲み込む間が過ぎて、急に巴月の身体が揺れる。

 「お、おい、大丈夫なのか?」

 「ん、んっ」

 顔を手で覆い隠し、なお震える巴月の肩を支える。と、少し茶色がかった髪色が短くなり、屈めていた身体が明らかに大きくなった。

 「えっえっ!?」

 なんだこれ、わけわかんねえ。

 震えが治まったことで恐る恐る顔を見ると、巴月はもう顔を上げていた。……いや、もう巴月ではなかった。

 「へへっこれで男の子になったでしょ?どうどう?」

 いつもと違う系統の服買ってみたんだけど、みたいなノリで言われても。っていうか声が無駄に渋いせいでチャラい男っぽい喋りが浮いてる。

 「お前巴月だよな?」

 「そうだよ。信じられないでしょー」

 「…………信じらんねえ……」

 マジでなんだこれ。どうなってるんだ。俺はいつファンタジー世界に足を踏み入れた。

 目の前の男子は俺より少し背が低いが、それでも175㎝はあるだろう。体格的には俺よりもいいかもしれない。ていうか服が巴月のもののせいでぴっちぴちだ。脱げんのかそれ。

 あまりにも信じられなくてまじまじと巴月を見ていると、巴月はどうだとでも言いたげにVサインをしてくる。女子ならともかく男だと思うと若干うざい。

 「やー、魔女さんほんとすごいよねー。あ、でも魔女って言っても女の人じゃないんだよね」

 超自然的現象を普通に受け入れる巴月もおかしい。俺はファンタジーなことが起きても信じられないタイプらしいことが今わかった。もうこれ以上信じられないことに出会わないだろうレベルで信じられない。

 「そういえば星梧と同じ学校らしいよ?三輪和明くんって知ってる?」

 ……魔女というやつが、まさかの親友だったことが今日一番信じられないことだとは思いもしなかった。

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