表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/16

お姉ちゃんは狂戦士!?

 「深月みづきちゃん、今日も学校行かないって言うのよ……」

 朝ごはんを囲む食卓で、全く手を付けられていない席を見ながら母がぼやく。

 「ふーん……まぁ成績は落ちてないしいいんじゃね?」

 俺は大盛りに盛られたご飯に玉子と醤油をかけつつ返事を返した。

 「でも、出席日数は大丈夫なのか?」

 それまで黙っていた父が心配そうに問う。姉の深月の欠席し始めた日を思い出したのか「半月か……」とぼやいて、ため息を吐いた。

 「おはよー……」

 暗い雰囲気に包まれた食卓に、寝ぼけ気味の声が混ざる。

 「あ、巴月はづき、おはよう。早く食べないと遅刻するわよ」

 「はーい」

 もう一人の姉である巴月だった。巴月は、深月と双子である。髪型が全く違う上、二卵性だったためにあまり似ていないが。

 「心配だなぁ…。高校で何かあったんじゃないか?」

 「ん?何の話?」

 行儀よく「いただきまーす」と言って茶碗を片手に持った巴月にこれまでの話を説明すると、意味あり気に黙り込んでしまった。

 俺は県内トップの超進学校に通っているが、そこまで頭がいい訳でもない2人は、仲良くほどほどのレベルの女子高に通っている。クラスは違うが、巴月は深月が休みがちな理由を知っているのだろうか。

 「巴月、なんか知ってんのか?」

 「うーん……まぁわりと……でも本人が言っていいって言ってないし……」

 「理由を話すのをか?」

 「うん……。私もどうにかしてあげたいけど、深月は生徒会だし私は部活だしで放課後とかは一緒にいれないし……クラスも違うから殆ど何もしてあげられないんだよね……」

 クラス内や生徒会で何かが起こっているらしい。もしかして……。

 俺はわりと確信を持ちつつ、最後の一口を頬張った。

 

 放課後、部活も何もしていない俺は、帰ってきてそのまま深月と巴月の部屋に乗り込む。

 深月は布団にくるまっていた。

 「……何」

 「ちょっと話があんだけど」

 「私にはないの。でてって」

 そう言って更に布団の奥に潜り込んでしまった。

 「いやいや俺にはあるんだっつの。深月、何で学校行かなくなったんだよ」

 「……」

 無視決め込みやがった。

 「まぁ大体想像は付いてっけど。……いじめら」

 「っ!!何で!巴月が言ったの!?」

 言い切る前に布団を跳ね上げてがっつり掴みかかってきた深月の目は赤く腫れていた。

 「っぐ!?く、苦し……」

 「殺す!今あんたを殺して巴月も殺す!」

 「!?おごっ……ぐ、ぉ……」

 やばいやばいやばいこいつ本気なんだけど!普通に喉仏潰されかかってんだけど!!

 「っぁ、は、な……」

 「このまま死ね!!」

 あ、息できなくなったわ無理だこれ。火事場の馬鹿力とか出てこねえし。むしろ深月が出してるし。

 身長差とか体格差とか男女差とかあるはずなのに、もう殺される予感しかない。

 まさかこんなとこで死ぬとは……遺品整理でパソコンの中とか本棚の裏側とか机の下とかスタンダードにベッドの下とか見られるとやばいんですけど。せめてそれらを処分してから死にたかった……。

 さよなら世界。

 視界が赤を通り越して白くなってきたころ、「ちょっと-!?」という声と共に、喉から手が離れた。

 「何やってんの!?星梧せいご死ぬとこだったじゃん!!」

 そういえば今日は水曜日だった。巴月の部活がない日でよかった。

 「……っるさい!あんたも死ね!!」

 咳き込みながらも、やっと戻ってきた空気を必死に吸い込んで感覚がなくなりかけてた手足を動かしている間に、今度は巴月の首に深月が手をかける。

 「おいおいおいおいおい!!やめろって!!」

 「止めんなァ!!死ね!みんな死ね!!」

 「ちょ……」

 なんだこの狂戦士……。え、こいつほんとに深月?あの大人しくて落ち着いた深月?自慢の長い黒髪振り乱してるんですけど。「理想のお姉さん」とか言って慕ってる近所の男どもが見たらそっちも発狂するんじゃね?

 「ごほっ、な、なにすんの!」

 「巴月が!勝手に星梧に言ったからでしょ!?」

 「はぁ!?何も言ってないし!」

 「じゃあなんで星梧が私がいじめられてること知ってるのよ!」

 「えっ!?」

 驚いた巴月が俺を振り返る。「まぁ察しはついてたしな」と返すと、巴月は俯いて肩を震わせた。

 「……深月、だって、辛そう、で、っでも、私っ、助けっ……れなくてぇ……っ」

 ぼたぼたと大粒の涙を零しながらその場にしゃがみこむ。

 深月は、急に泣き出した巴月に慌てて、一緒に座り込んで背中をさすっていた。……さっきまで殺すとか言ってませんでしたかね。

 勿論、俺は空気が読めるいい男なので水を差すようなことは言わず、殺されかけたことも水に流して、机の上に置かれたティッシュボックスを渡すに留めた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ