夢の中の彼女は3
「……はぁ」
「鈴、どうしたよ?溜息なんてついて」
「いや、別に…」
入学式前日になった。
最近夢は見ない。見ないと言ってもたったの五日程度なのだが、やはりまるでこのまま見ることがなくなってしまうように思えて僕にはとても怖いことだった。
まだ夢を見ていたい。
それは僕がまだ幼いからそう思うのかな。
「あ、わかった!明日の入学式に緊張してるんだろ?鈴は可愛いなぁ」
「馬鹿、別にそんなんじゃないし」
「またまた~」
元気のない僕を紫音が笑顔でからかってくる。
……うん、やっぱり元気がないのは「最近夢を見ないからです」なんて言えないよなぁ。
だって、「気になる子がいるんだ、夢の中に!」なんて、ただの頭がおかしい人じゃないか……。
(変なのは自覚してますよ)
また一つ、重い溜息がこぼれた。
ほんの少しの間しか離れてないのに。
こんな短い時間でこんなに寂しくなるとは自分でも思っていなかった。
僕はぼんやりと空を見上げた。
僕と彼女は同じ空すら見ることが出来ないのに。
所詮夢の彼女が、どうしてこんなに僕を揺さぶるのか。
何とも幼稚で、くだらない。
(夢なのに、夢なのに…)
言い聞かせる度に胸がちくちくする。
くだらない、とは思ってる。それでも…夢なんかの言葉で彼女を収めたくないよ…。
僕が変なのはわかってるけど。
彼女の声が聞きたい。
聞いて、その指に触れたい。
温かなその指に…。
(うあー、夢欠だ…夢が足りないっ!)
「痛っ!何、どうした!?」
「…むぅ」
どうしようもない気持ちは膨らむばかりで、僕はその場から動けなくなりそうだった。
戸惑った僕は、隣にいた紫音を叩いて、動けることを確認する。
紫音、ごめん。
今だけやつあたりを許して。
*
「ぼくね、……ちゃんのこと、だいすき!」
「わたしは……くんのこと、もっともーっとすきだよ!」
「ぼくのほうがすきだもん!」
「わたしのほうがすきだよ!」
「ふたりともけんかしないでー」
「してないよー、すきだよっていってただけだもん」
「ね~」
「おとなになっても、ずっといっしょにいようね!」
*
「ずっと一緒って…言ったのに」
ハッと目が覚める。
誰かの声が聞こえた気がしたのだが、周りには自分しかいない。いや…自分の部屋だし、朝も早いので親も入ってこないだろうし、自分以外がいたらおかしいんだけど。
まだ頭がぼんやりしている。
もしかしたら自分の寝言で起きてしまったのだろうか?なんて恥ずかしい。
(……なんか変な気分)
夢は見なかったのだが、夢を見た後のような感覚が僕に残っている。
もしかしたら忘れてしまっただけで夢を見たのかもしれない。
僕はまだ冴えない頭を起こし、ゆっくり窓の外を見た。
ほの明るくなった空。
同じ空を、誰か大切な人が見てる。一瞬そんな気がしたのだが、誰のことを思ったのかはすぐ忘れてしまった。