夢の中の彼女は2
「……っは」
ガタンという音で目が覚めてしまった。
家の猫が本を落としたらしい。
「高校入っても…か」
夢の出来事をぼんやりと思い返す。
高校入っても夢を見ていたいよ、僕は。
でも、なんだか高校入ってしまったら会えないような気がしてならない。
(なんて…気のせいだよね)
そう思ってもう一度眠りにつこうとするが、眠れない。
不安は胸に残っていた。
会えると思っていれば、会えるよ。
そう思っているくらい、いいじゃないか。
(ううん…別に会えなくなる訳じゃないんだから、不安がらなくていいんだ)
僕は自分に言い聞かせるように呟き、目を閉じた。
*
ーー鈴君。
幼い可愛らしい声が聞こえる。
色白で、細っこい身体。病弱そうなその子を見て、僕はなんと思ったんだっけ…?
ーーあのね、私行かなくちゃいけないの。
どこに行くの?尋ねようと思ったけど、声がでない。
ねぇ、行かないでよ。
ーーごめんね。
待って!僕は必死に彼女に手を伸ばした。
まっすぐに彼女を見つめるけど、やはり僕にそれは見えない。
涙が頬を伝う。
謝らないで…ごめんねはこっちの方だ。
僕には彼女の顔が見えていなかった。
*
「……夢か」
嫌な汗が額に浮かんでいる。
あの人は一体誰だろう?知っているような、知らないような…そんな妙な感じがして、変な気分だ。
それにしても、あの夢とは違う夢を見るのは久しぶりだ。
僕は何となくこの夢を忘れてはいけないような気がした。
「鈴ー、おはよー!」
朝、教室で読書をしていると、紫音がいつものように話しかけてくる。
僕は本を置き、軽く手を振って紫音に挨拶をした。
「おはよう、おん。なんかテンション高いね」
紫音はやっぱわかる? と言っていたずらっこく 笑った。
「実はね、昔の写真を見つけてさー」
「へぇー」
「幼稚園くらいのやつなんだけど…昔の鈴が超可愛いの!!」
「僕かよ!もー…なんか恥ずかしいからあんま見ないでよ」
紫音とは幼稚園の頃からの付き合いだ。
もしかしたらこういうのを幼なじみと言うのだろうか?あまりそんな感じはしないが、昔から仲が良いため、お互いの写真はお互いにたくさん持っていておかしくない。
(ただ、昔の写真見られるのって、恥ずかしいんだよなー)
大体僕は写真自体嫌いだ。
「…でね、その写真三人で写ってたんだけど、そういやもう一人すっごい仲良かったやついたなーって思って。懐かしいなー」
「……そう言われると、いたような気がする」
どんな人だっけ、女の子だったような気がする。
僕がそう思っていると、紫音も同じようなことを呟いた。
「たださ、そいつの顔が思い出せないのさ」
とっさに昨日の夢が脳裏によぎる。
顔が霞んで見えない女の子。あの子は……?
「……あいつ、どんなやつだっけ?」
思い出せない。
それなのに僕はなぜか涙が出そうになった。