巧みなる攻撃者
エレベーターから降りて司令部に入るとそこはもうむちゃくちゃだった。さまざまな声が交わりながら人がデスクの間を駆け回っている。
「霧島さん!!」
司令部の中心に立って周りに命令を出していた霧島が天翔と雫、悠真を見て慌てたように手を上げてこっちにくるようにする。それを見て俺達は霧島のところへ人を掻き分けて入っていった。
「天翔くん、良かった。意外と早く到着してくれたね。」
「ええ、もう本部の下にいましたから。それよりこの騒ぎはどうしたんですか?」
「どこかのハッカーがシステムに攻撃を仕掛けてる。現在第3防壁まで掌握された。」
それを聞いた天翔は一瞬耳を疑った。自分が作成した防壁をさきほどの電話から数分、その間に3ブロックも掌握されたというのか。いや、今はそんなことはどうでもいいなと考えた。
「逆探知の状況は!?」
司令部の分析官に聞くとマイクを通して返事が返ってきた。
「逆探知完了まで残り5秒!3,2,1・・・でます!」
メインモニターに攻撃者の情報が表示される。そこには信じられない情報が表示されていた。
「こ、これは・・・・日本全土から攻撃されています!!」
「な、なんだと!?」
「日本全土・・・・・」
メインモニターには日本全体からP.J.F.Aの本部に向かって攻撃トラフィックが押し寄せている。しかしこれは明らかにおかしい。この規模のハッキングを行なうにはかなりの下準備が必要だ。なおにこのハッカーは防壁を力技、つまり数で総当りに攻略しているのだ。それにしてはこのスピードは異常すぎる。
「すみません、探知を本部周辺に絞ってくれませんか?」
「わ、分かりました!!」
分析官は疑問に思いながらも探査範囲を本部周辺に限定して表示してくれた。そこには帝都中央大学から異常なトラフィックを示していた。つまり、この攻撃は帝都中央大学からきているということだ。
「攻撃は帝都大学からです!その回線に絞って通信を遮断してください。」
「・・・・・ダメです、遮断できません!!」
「第4層突破されました!」
分析官の怒号が飛ぶ。それを受けて天翔は近くにあった空席の端末の前に座る。起動ボタンを押してUSBメモリをポートに接続する。
「天翔、どうするつもりだ?」
「通信場所はわかってるんだ。おそらく敵は帝都中央大学のスーパーコンピュータ『スバル』を使ってる。なら行政コマンドでスバルを停止させる。」
「・・・・・できるのか?」
「分からない。だから悠真、雫と一緒に念のために大学に向かっててくれないか?」
「・・・・・分かった。結衣は必ず守ってみせる。」
「頼む。拳銃は持っていけよ。お前は人に撃てなくても威嚇射撃くらいはできるだろ。」
「ああ、分かってるさ。」
「雫、悠真のサポートまかせるぞ。情報はリアルタイムで二人に流す。」
「は、はい。分かりました!」
二人は司令部から走って出て行く。天翔はそれを見届けてからキーボードに指を走らせる。一番の問題は世界No.5のスーパーコンピュータに侵入を許しているということだ。それがネットを介してなのか、物理的なのかは今問題ではない。これをとめるにはスパコンを停止させることが一番効率的だ。この際、それにかかる社会的な問題は無視する。
「攻撃トラフィックの解析データをこっちに回してください!」
「了解!・・・・送信しました!」
送信されてきたデータを隣のディスプレイで見てから対攻性防壁を作り上げる。これを防壁内に展開することで該当するデータをすべて破壊し、組み替えて逆送信するのだ。
「ソフトを防壁内に展開!・・・」
攻性防壁の展開完了まで5分かかる。それまでしのげるか。悠真と雫に頼むしかないかもしれない。天翔はハンズフリーのイヤホンを耳に装着して呼びかけた。
「悠真、雫。聞こえるか?天翔だ。」
「ああ、聞こえている。」
「聞こえてます。」
通信状態は良好のようだ。悠真と雫はもう帝都中央大学内に入っているようで、少なからず生徒達の喧騒が聞こえてきた。
「悠真、もう大学内に入ってるのか?」
「ああ、入ってる。スバルの場所はどこか分かるのか?」
通話をしながらキーをタップする。地図から大学内に拡大され、スバルの位置が表示される。
「スバルが設置されているのは中央サーバルームだ。だけどそこから各研究室のサーバに光回線でバックアップを敷いてる。どこかの研究室から操作してるのかもしれない。」
「そんなことできるのか?」
「それができるんだよ。管理者権限さえもっていればマシンは絶対に逆らわないんだ。」
「なるほど。確かにそうだな。」
「今から地図を送信する。雫と一緒に各研究室を回ってくれ。」
「分かった。でも生徒達はどうする?さすがにここで戦闘が起きたらカバーしきれないぞ。」
「そこは問題ない。大学には学長からの連絡ということで研究棟は耐震調査のために近づかないように言ってある。」
「なるほど。なら問題ないな。・・・・・よし、研究棟に到着した。と言ってもここは5階建てで部屋が50ちかくあるからな。時間がかかるぞ。」
「そのために俺がいるんだ。監視カメラを通して確立が薄い部屋をどんどん絞っていくぞ。」
「分かった。監視カメラの偽装に注意しろよ。」
そう言って画面の中にいる悠真と雫は研究棟の中に入っていった。研究棟の中は人がいないからか静かでどこか特別な雰囲気をかもし出していた。悠真と雫は拳銃を構えて一つずつ研究室を覗いていった。天翔とP.J.F.Aの分析官も監視カメラの情報を洗っていた。
天翔はディスプレイにコマンドをたたく、これで確認した監視カメラは38個目だ。これはもはずれかなと思いながら表示するとそこには予想もできない展開が広がっていた。物理研究室には早瀬学、准教授である木山冬実、一人の女子生徒、公安の潜入員がいるようだった。そして早瀬を守るように公安の人が拳銃を持ってかばっている。その10メートルほど前方に木山が女子生徒に拳銃を突きつけている状況だ。とっさに俺は無線に向かって叫んでいた。
「雫!物理研究室に迎え!まだ突入はするなよ!!」
「り、了解!!」
俺は席を立ち上がって霧島さんのところへ急いだ。
「霧島さん、状況を確認しました。・・・・・早瀬は准教授に襲われ、公安が保護、そして準教授は女子生徒一人に銃をつきつけ膠着状態のようです。悠真と雫を現地に向かわせています。俺も向かいます。」
「分かった。第一特殊部隊を向かわせる。」
「はい、でも研究棟周辺を包囲するように待機していてください。」
「了解した、伝えておこう。」
武器倉庫から拳銃を二丁持って簡単に装備を確認してから本部の地下で特殊部隊の人に車を出してもらい大学へ向かった。