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第2編 監視される世界  作者: SEED
第2章 存在する闇へ
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益者三友

雫は私服に身を包んで、帝都中央駅の近くのカフェでカフェオレを飲んで窓の外を見ていた。その理由は朝8時30分にここで天翔と待ち合わせしているからだ。だが残念ながらデートという洒落た物ではない。これは潜入捜査なのだ。


「はぁ。」


よくよく考えると碓氷天翔と言う人物はどれだけハイスペックなのだろうか。顔は上の中。成績優秀。天才的なハッキング能力。経済面への精通。政治家へのパイプ。警視庁内にもパイプあり。性格も問題なし。


「・・・・これで恋人がいないって、どうゆうこと?!」


これだけの能力なのになぜあの人はあれほどまでに女っ気がないのだ。まさかアッチの方なのだろうか?いや違うだろう。そんな新事実が存在していたら私は卒倒する自信がある。頭をフル回転して考えるが納得できる解答は思い浮かばない。するとほとんど人がいないカフェの中にドアのベルの音が響く。


「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」


「すいません。待ち合わせなんですけど・・・いました。ありがとうございます。」


お礼を言って碓氷さんがこっちの方にやってくる。あの人はこういう小さなことでも相手のことを気遣ってお礼を言うんだよなぁ。すごいと思う。


「雫、またせてごめんな。」


碓氷さんが時計を見る。私も釣られて時計を見ると時刻は8時20分。


「私が早く来てるだけですから気にしないでください。それより少佐がなんでこんなに早くくるんです———ッ!」


天翔は雫が言い切る前に雫の唇に人差し指を当てた。


「普通は女性より早く来るもんじゃないのか?それに今は潜入捜査だ。少佐はダメ。」


「は、はい。」


もう私顔真っ赤なんだろうなぁと思いながら捜査に関する打ち合わせを始めた。








打ち合わせを終えて、大学の人事部前までやってきた。すると人事部管理長が出てきた。


「今日から特別入学する月城彰です。」


「青葉美緒です。」


「はい、聞いてますよ。写真はもうこっちに送られてきているんで生徒手帳はこれです。潜入捜査なんて大変ですね。内容は私たちも知りませんが、各部署の管理クラスならあなたたちのことは知っていると思います。何かあったら言ってください。」


「分かりました。ありがとうございます。」





「管理クラスには話が通ってるって情報漏洩とか大丈夫なんでしょうか?」


「・・・その程度の意識が今の日本ってことさ。これからは日本もかわらないと行けないんだ。俺はそのために戻ってきた。そして3年前から・・・」


「碓氷さん?」


「・・・いやなんでもない。それと、『美緒』名前間違ってるよ。」


「あっ!す、すみません。え、えっと、『彰さん』でいいですか?」


「ああ、いいよ。俺も美緒って呼ぶよ。資料によると俺達は恋人って設定らしいからね。」


「え、えええ!?」


「そんなに驚く事か?・・・あっ、美緒は公安につとめた事がないのか。」


「は、はい。」


「公安じゃこれくらいの偽装は普通だよ。俺も半年だけ入ってたことがあるときはあのときはすごかったからね、ハハッ。」


「一体何が・・・・・?」


「よし、それじゃまた後で。学食で落ち合おう。」


「はい、分かりました。」


雫と別れた天翔は最初に取っていた数学の講義に向かった。

講義が行われる教室(教室と言っても数百人は入れる場所)に入り、真ん中の左側に座る。講義に出る事が目的だがもう一つの目的がある。それは早瀬霊の息子である早瀬学はやせ まなぶだ。早瀬は数学と情報の講義を持っている。その講義をできるだけ出ておく必要性・・・いや、興味があった。



「よし、講義を始めるぞ〜。」


教室に入ってきたのは大きな黒板の前に立って軽い挨拶を交わす。すると後ろのドアが開いたような気がしたので目を向けると若い男、准教授らしき人物が入ってきていた。後ろの席で講義を見学するのだろう。それを無視して黒板に目を戻した。










講義を聞き流してこれからの計画を考える。早瀬が行う講義は人気があるとさきほど出会った生徒に聞いたので大学中を歩き回って研究室に戻るのは昼時と、夕方と予測できる。雫は下の学年でコミュニケーションを取りつつ早瀬の孫を探しているだろう。俺は早瀬学を調査すればいい。




講義を終えて教室を出る。早瀬は連続で講義があるのでそのまま次の教室に行くらしい。それを見送ってから雫のもとへ急いだ。


雫は待ち合わせの場所にすでに来ていた。


「悪い。またせたな。」


「いえ、大丈夫です。」


「早瀬の孫は見つかったか?」


「あ、はい。でも・・・・」


「どうした?」


雫の反応が良くないので気になった天翔はカフェオレを飲み下しながら次の言葉をまつ。


「実は・・・・・女性だったんです。」


「・・・・・女性?」


「はい。これがプロフィールです。」


早瀬はやせ 遥香はるか。年齢19歳。帝都中央大学人間教養学科所属。他には特に目立った経歴はない。


「なんか、頭が良い普通の人って感じだな。」


「ですよね。」


「・・・・・よし、美緒はそのまま早瀬遥香の調査を続けてくれ。俺は早瀬学の調査を続行する。次は午後14時に食堂に集合だ。」


「はいっ!」




俺と雫は広場から別れ、また別れた。















天翔は講義が終わった早瀬教授を捕まえた。近い距離で見ると身長は同じ位。黒い髪は短くし、軽く右に流している。スーツの上着を脱ぎ、白衣をきた早瀬はいかにも科学者というかんじの20代後半だ。


「早瀬教授。」


「君は・・・・・特別入学してきた情報処理科の。」


「覚えててくれたんですね。ありがとうございます。」


「いや、書類選考の時に君を見たのは私だったからね。かなり優秀そうじゃないか。」


「いえ、教授の暗号理論についての論文を読ませていただいた時は感動しました。」


「ほぉ、私の論文を読んでくれたのか。それは光栄だな。今度ぜひ研究室に来てくれ。ゆっくり話そう。」


「はい、ぜひお伺いさせていただきます。」


「ああ、楽しみにまっているよ。それじゃ。」


そう言って早瀬教授は廊下を歩いて立ち去って行った。







「美緒、収穫はどう?」


「はい、軽いコンタクトを取ってみました。感触は結構いい感じです。・・・彰さんの方は?」


「今度研究室にくるように進められたよ。」


「それはすごいですねぇ。これからはどうしますか?」


「そうだな。しばらくコンタクトを取りつつ、フェーズ2に移行したら校内の監視カメラから二人の動向を見てみようか。」


「はい、分かりました。」


「食堂、込んでないといいけど・・・・・・うわっ。」


食堂に向かうために廊下を曲がると胸に衝撃がきた。天翔は転ばずに踏みとどまったが、衝突してきた方は今にも転びそうに後ろへと倒れる瞬間だった。とっさに前へ踏み出し。腰に手を入れ、抱え込む。


「ふぅ。」


手の中を見るとそこには一人の女性がいた。おそらく衝突してきたのは彼女だろう。


「大丈夫?」


「は、はい。ぶつかってしまって申し訳ありません。」


「あっ!」


後ろで突然雫が声を上げた。すると女性は後ろを見るとはっとした。


「あれ?美緒?」


「遥香さん、どうしてこんなところに・・・・・」


それを聞いた天翔は耳を疑った。「遥香」そう。天翔の中に腕の中にいるのは天翔たちがここにいる目的だったのだから。


「とりあえず、大丈夫ですか?」


「は、はい。こちらこそ、ぶつかってしまって申し訳ありませんでした。怪我とか大丈夫でした?」


「はい、僕は大丈夫です。」


「そうですか。よかった。」


さて、これからどうするか。そう考えていると再び別な声がした。


「遥香〜、、まってってば〜!」


向こうから走ってきたのは結衣だった。俺はその事実に愕然とし、先ほどの資料をおもいだした。『人間教養学科』そうだ。雫、結衣、遥香。この三人はこの言葉で繋がっていたのだ。友人になるのは時間の問題だっただろう。なんてことだ。天翔は内心舌打ちして周りに視線を向けた。しかし、周りには誰もいない。それはそうだろう。人がいない所から雫と天翔は歩いてきたのだから。


「あれ?美緒?こんなところでどうしたの?」


結衣は天翔の横に立っていた雫を見て驚いた。


「あれ?美緒がいるってことは今助けてくれた人は美緒の彼氏?」


「え、い、いや、うん。まぁそうだよ。」


「あれ?もしかして美緒の隣にいるのって・・・・月城さん?」


「先日は悠真と一緒の時にお会いしましたね。おひさしぶりです。・・・結衣さん。」


どうにか裏声にならずに結衣の名前を呼ぶ事に成功した天翔は安堵した。結衣、遥香、雫。三人の視線に晒されるのも違和感がある。


「結衣さん、遥香さん。今日はこれから予定があるので失礼します。」


そう言い残して天翔はその場を離れた。携帯電話をポケットから取り出し、悠真の番号を呼び出した。何回かの呼び出し音の後に電話に出た。


「もしもし、天翔か?」


「ああ、悠真。今大丈夫か?」


「ん?ああ、次は大学の講義もないから大丈夫だが。」


「それなら帝都中央大学の第3研究室前のベンチに来てくれ。・・・・昼飯の持参を忘れるなよ。」


「おい、それどう———」


悠真が言葉を言い始める前に通話を終了した。



しばらくして、約束の場所に向かうとそこには悠真が座っていた。近づいてとなりのベンチに腰掛ける。悠真は軽く驚いた顔をしながらペットボトルのお茶を飲んだ。


「あんまり驚かないんだな。」


「お前の突然の行動にはもう慣れたよ。」


「ハハッ、そっか。・・・ところで、突然呼び出して悪いな。」


「気にするな。・・・それで、今日はどうした?」


「俺は今P.J.F.Aの外部機関としてここに潜ってる。名前は月城彰。年齢は20歳。情報処理科に特別入学。」


「まぁ、まともだな。それで?」


その言葉に俺は苦笑いをした。


「ここの現外務大臣 早瀬霊の息子と孫がいる。早瀬学、数学・情報技術教授。早瀬遥香、人間教養学科、年齢19歳。」


「協力者は?」


「技術サポーターの部下が一人、こっちは人間教養学科に潜ってる。それと、警視庁の公安部から2人きてるらしい。こっちは顔も知らない。」


「人間教養学科ね。お前も大変だね。」


「全くだよ、さっきなんてこの三人と廊下で鉢合わせだぞ。」


「だから俺に会う用事を作ったってわけか。」


「そういうことだ。」


「それで?結衣と話したのか。」


「・・・あぁ。話したよ。」


「気づいてたか?」


「いや、あの目は本当に月城彰だとおもってるよ。」


「そうか・・・・」


「・・・それでいいのさ。あいつはもう『こっち側』に来るべき人間じゃない。俺みたいに踏み込みすぎて戻れなくなったわけじゃない。」


「そうかもな。・・・まぁ、何か合った時はいえよ。手伝ってやるから。」


「いいのか?」


「昔からそだったろ?」


「・・・そうだったな。」


その後は大学の中で誰々が可愛いとか適当な事を話してすごした。悠真はあえて結衣の話をしないようにしていたが、俺には分かっていた。だが、その心遣いがとても痛かった。






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