再始動 ③
裏口に着いた天翔は2つの拳銃の弾倉とストックを確かめた。壁に寄りかかって膝の上にノートパソコンをひろげ、監視カメラで最終確認をする。相手はまだ金を詰めるのと人質を監視するのに忙しいようだ。鳴はサブマシンガンの弾倉を確認してから深呼吸していた。
「大丈夫さ、この程度の事件すぐに解決できる。」
そう言って俺は鳴の肩を叩いた。
「はいっ。ところで、弾は電撃弾でいいですか?」
「ああ、そうしてくれ。チームβにもそう伝えてある。」
しかし、俺は片方のハンドガンには実弾。もう片方に電撃弾を詰めた。それを見ていた鳴は不思議に思った。
「どうして違う種類の弾を詰めるんですか?もしかして1丁ずつ使うんですか?」
「いや、2丁同時だよ。・・・あとから見れば分かるさ。」
そう言って天翔は後ろに控えていた人にノートPCを預けて立ち上がった。
「よし、各員装備チェックOK。あくまで敵に気づかれないようにしてくれ、状況開始。」
俺と鳴は裏口を開けて中に侵入していく、中は白色のタイルが埋め尽くしていた。
「どうしますか?最初にメインフロアを制圧しますか?」
「・・・そうだな、そっちから行こう。」
そう言って俺はポケットから地図を取り出した。
「これどこから持ってきたんですか?」
「所轄の所から拝借してきたんだ。・・・ここに受付カウンターがある、ここは後ろの事務室、さらに廊下に繋がっている。ここからカウンターまで侵入するぞ。」
「分かりました。」
そして俺と鳴は走って事務室まで向かった。
特になんの障害もなく事務室にたどり着くことができた。そして俺が先行して事務室の中へと侵入する、中に人はおらず、カウンターの下まで簡単に忍び込むことができた。そして手鏡で確認すると人質に銃を向けている犯人がいた。だが、予想外のことが起きていた。
「まずい、1階メインフロアに3人が全員集まっている。あの袋は・・・金だな。もうそろそろしびれを切らす頃だろう。」
するとβチームから通信が入った。
『こちらβチーム、対象を確認できません。』
「了解。エネミー2と3は1階メインフロアに集まっている。」
「少佐、どうしますか?」
隣にいる鳴が今にも飛び出さん顔で指示を仰いできた。そして俺は決断した。
「βチームは1階メインフロアの階段で待機、犯人が屋上に行くかもしれない。」
『了解』
「鳴、君はここから敵が裏口に逃げるのを阻止してくれ。」
「し、しかし、少佐は!?」
「俺はここから突撃する。いいな?ここで待機だ!」
そう言って俺はそこから飛び出した。左手に電撃弾、右手に実弾を込めた拳銃だけを持って。
それは天翔がハッキングしておいた銀行のカメラから外にいる所轄、P.J.F.Aの人間にも見えていた。
「なっ、ここで突撃だと!馬鹿な!?」
「天翔くん・・・君は。」
霧島はそうつぶやいてからウィンドウの中を駆け抜ける閃光のような青年を見つめていた。
天翔は体が軽くなるような現象にとらわれていた。しかし、この感覚は前にも出会っている。そう、FBIで爆破テロを解決した時に会った感覚だ。あの時はアメリカで出会った親友を助けるために無我夢中だった。その現象が今ここで来ていた。正直、忌々しい感覚だ。加速した思考が瞬時に判断を下す。エネミー3がこちらに気づき拳銃を向けた。しかし、もう片方では俺に気づいたエネミー1が人質に拳銃を向けようとしている。常時60コマで流れているはずの知覚が120コマの状態で情報が目から入ってくる。エネミー3に向かって左手を向けるエネミー1には対照的に右手を向ける。同時に引き金を引く。その間も走るのをやめない。
左手の銃から放たれた銃弾は流れるようにエネミー3の眉間に電撃弾が直撃し、倒れ込む。右手から放たれた銃弾はピアノ線に沿って飛ぶようにエネミー1の銃口へ吸い込まれて行く。
左からエネミー2が突進してきた。それを確認して、手を押さえて倒れ込んでいるエネミー1に左から電撃弾を放つ、そしてそこから右に回転し、エネミー2の腹部に膝蹴り叩き込む、相手が10センチほど浮かび上がり、さらに上から拳銃の柄で思いっきり首を叩く。顔から地面に衝突してエネミー2は昏倒したらしい。
手をだらりと下ろして周りを確認した。人質は全員無事、自分にも特に被害はない。
「状況終了。被害ゼロ、人質も全員無事です。今から銀行のセキュリティゲートを開けます。犯人の回収お願いします。」
『り、了解。』
そして俺はゲートから司令部の方へ歩いて行く。霧島さんは俺を見てから肩を叩いてきた。
「よくやった。さすがだな。」
「ありがとうございます。あれくらいなら余裕ですよ。」
「ハハッ、そうか。」
霧島さんに拳銃を手渡してからノートパソコンを預かってから起動する。セキュリティを立て直す作業に集中すると回りの音は聞こえなくなってきた。
伊藤鳴は銀行から出て部隊待機所で銃を置いてから先ほどの光景を思い出していた。まるで閃光のような動き、瞬時に判断し、自分の判断に迷いを抱かず、即座に行動する。あれはまるで芸術品のようだった。そして3年前に見せたあの銃口に弾を直接入れる技術。あれを何でもなく片手で動きながら打ち込む技術。戦慄したし、尊敬すらする動きだった。
チームβである沖田と遠藤は2階から侵入し、メインフロアを確認したが敵を発見することはできなかった。
「少佐に報告しましょう。」
「それが妥当だろうよ。」
「少佐、こちらに対象は確認できません。」
『ああ、エネミー2と3は1階メインフロアに集まっている。』
「少佐、どうしますか?」
『チームβは1階メインフロア階段で待機、対象が屋上に向かうかもしれない。』
「了解!」
「だけど、少佐と大尉だけで大丈夫かな?」
確かに遠藤少尉の質問も分かる、しかしあの碓氷少佐と伊藤大尉なら3人が相手でも余裕だろう。
「命令通り階段に向かいましょう。」
「おう。」
遠藤と沖田はメインフロア階段を下ってメインフロアを除いているとカウンターの下から碓氷少佐だけが飛び出した。
「おいおい、どうゆうことだよ。伊藤大尉はどうしたんだ?」
「少尉、援護しますか?」
遠藤は悩んでから待機の命令を出した、少佐からその指示は出ていないと言う事はそれでいいと言う事なのだろう。
しかし、二人が予想していた事態はやってこなかった。異常なスピードと判断力で少佐は敵を2人片付け、さらに3人目を体術で瞬時に制圧した。かかった時間はおそらく5秒ほほどだろう。
「に、人間にあんなのできんのかよ。銃口に直接銃弾ぶち込むなんて初めて見たぞ。しかも実践で動きながらなんて。」
「お、俺もですよ。」
「まさに閃光・・・だな。」
少佐は片付けた3人を呆然と見てから状況を確認して無線に状況を報告している。沖田と遠藤は階段から出て行ってそれを呆然と見ていた。
午後10時、事件が解決した銀行は黄色いテープで立ち入り禁止になったままだった。そしてその入り口をベンチに座って見つめる男がいた。
「ハッキングの腕はメチャクチャ上がってるじゃん♪だけど、俺に気づかないなんてまだまだだね。」
そうつぶやいてから男は立ち去っていった。
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