文化祭 3日目
今日は文化祭3日目、時刻は文化祭開始5分前。しかし始まる前から俺は自前のノートPCを見ながら次の行動を決めていた。
「・・・なんでこんなことに。」
思わず口から出た愚痴に呼応したかのようにディスプレイにメールを知らせるアイコンが表示された。相手は遥香だ。メールを開いてみる。
>今はまだ出てこないでください。後輩は諦めたみたいですが先輩がまだ至る所で天翔さんを探してるみたいです。
とメールが入った。俺はそれを見てさらに落ち込む。こうなったのも昨日のライブが原因だというのはもう分かり切ったことだった。今日は文化祭最終日、6時〜9時までキャンプファイヤーがグラウンドで行われる。そしてそこで結ばれたものは一生幸せになれる。というありきたりな伝承がある。しかしこの伝承、悠真の祖父が実例として生まれた事から現在大学ではもっとも信憑性がある不思議だ。
>>分かったよ。しばらく隠れておく。
遥香に返信してしばらくすると文化祭開始のメロディ〜が聞こえてきた。ディスプレイで大学の中を見ているとみんな俺を捜すのをあきらめ、文化祭を楽しんでいるようだ。
「さて、そろそろ出るかぁ。」
教室を出て外を回っていると結衣にを見つけた。結衣は梶谷先輩と一緒に回っているようだった。邪魔をしないようにと視界に入らないように外側へ抜ける。遥香は妹の碧と一緒に文化祭を謳歌しているようだ。悠真は相変わらず学部の先輩後輩にモテモテで忙しそうだ。
「天翔さんっ!」
「雫、今探してたんだ。」
「あっ、そうだったんですか。何か御用ですか?」
「いや、雫は今日誰とどんな楽しみ方をしてるか気にあってね。皆のこと回ってたんだ。」
「そうだったんですか。・・・・・それより問題が発生しました、少佐。」
いきなり声を潜めて階級で呼ばれた。つまりP.J.F.Aの任務の話だ。
「なにかあったのか?」
「はい。本日をもって潜入任務は終了。午後12時に本部へ出頭せよとのことです。」
「分かった。今から向かう。」
「お供します、少佐。」
様々な部活やサークルが勧誘のチラシを配っている校門を出てタクシーを拾い、本部へと直行した。
「碓氷天翔少佐、出頭しました。」
「北山雫一等兵、出頭しました。」
「長期任務ご苦労様、つかれただろう。といっても、大学生活を味わえたのは幸いだったかな?」
「はい、大学はあっちでしか入っていないので、貴重な経験でした。」
「そうか。息抜きになってくれると考え、帝都中央大学では君の席は残しておいてくれるようだよ。また好きなときに行ってくれたまえ。」
「本当ですか?」
「ああ。早瀬教授だけでなく他の教授たちからも強い要求があったらしい。君はまたいろいろなところで技術的にも才能を発揮しているようだな。」
そう言ってP.J.F.A司令官 霧島裕也はハハハっと笑った。俺と雫もそれに釣られて苦笑いを漏らす。
「それで霧島さん、俺達が呼ばれたのはそれだけではありませんよね?」
「・・・・・あぁそうだ。君たちには新たな任務についてもらいたい。」
「・・・・?」
「明日、アメリカ国防長官が来日される。君と雫くんはそれの警備についてもらいたい。」
「俺達が・・・ですか?」
「そうだ。連絡は追って伝えるが、明日の予定は朝から開けておいてくれるか?」
「了解です。」
司令室を出ると外は午後4時を回ろうとしていた。
「予想以上に時間がかかったな。」
「久しぶりに本部に来たので少佐はいろんな仕事押し付けられていましたものね。」
フフっと雫が笑う。確かに雫の言う通り本部のサーバセキュリティ更新。ネットワークの点検など仕事を押し付けられた感は否めないだろう。
「大学に戻るか、雫。」
「戻るんですか?」
「あぁ、キャンプファイヤー・・・・でないのか?」
「わ、私は出る人いませんし。」
「雫ほど若い美少女が男捕まえないでどうすんだよぉ?」
「びっ、美少女ですか?!」
「雫が声かければ帝都大の一人や二人ついてくるだろ。」
「そ、そうですかね?」
「そうだよ。」
「な、なら私と・・・・・・一緒にでませんか?」
「え、俺と?」
「は、はい。・・・だっ、ダメならいいんです!」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「だ、ダメでしょうか?」
「・・・いいよ。」
「ほっ、本当ですか!?」
「あぁ、そうと決まったら早く戻ろうぜ。時間なくなっちまう。」
「はいっ!!」
雫の顔が赤いのは夕日だけの影響ではないのだろうと、俺は思う。それがうぬぼれであったとしても、今はそれでいい。
俺の顔も赤くなり、雫の透き通った瞳を見つめる事はできないのだから。
その後、大学に戻った天翔と雫は学生の餌食にさらされ、結局一緒にキャンプファイヤーに出る事はできなかった。