再始動 ②
事件現場はまさに殺伐としていた。銀行の出入り口から50mほど離れた所に仮設の司令部が設置されていた。天翔は霧島と共にそこへ入ると所轄の面々から睨まれるように顔を向けられたが難なく流し、銀行内部の資料などに目を通し始めた。
「銀行の電力と電話線は生きてますか?」
「問題ないはずだ。こちらからの通話を試みたが、犯人とおもしき男が出た。要求は午後16時までに1億用意とヘリを用意しろと言ってきている。」
天翔は表面に出ない程度に驚いた。銀行強盗なんて頭の悪い事をするヤツは大概逃亡手段に車を使用するが、ヘリとは全く以て意外だった。どうやら犯人のリーダーは頭のキレる人物のようだ。
「了解です。さて・・・と、どうしようかな。」
「天翔くん、どうするつもりだい?」
霧島さんが資料を片手に話しかけてきた。警察の人たちも俺の次の言葉を気にしているようだ。しかし、この事件を無リスクで解決するには無理があるだろう。
「霧島さん、一つ相談があるんですけど。」
「なんだい?君の相談ならば大概通るよ。」
「・・・特殊部隊、所轄、すべての指揮権をすべて俺に貰えませんか?」
「・・・・・ふむ、分かったいいだろう。」
「なっ!」
霧島は特になにも考えずにOKを出した。しかしまだ20歳の者に現場の能力のほとんどを託すのは馬鹿げている。それが分かっていた警察関係の人たちは驚いた。
「そんなことできる訳ないだろう!」
所轄の主任らしき人物が声を荒げた。しかし天翔はそれを横目で見つつ何も話さず霧島から特殊部隊の隊長がいる場所を教えてもらい、そこへ向かうために司令部を出て行った。
「できるんですよ。彼は『特別』ですからね。」
霧島は主任を見て冷静に言葉を紡いだ。
「彼は今まで私たち日本に多くの力を貸してくれた人物です。そしてすべてを解決に導いてきた。それらを考えても、納得できる。それに・・・このことは警視庁長官、内閣総理大臣が認めている事例です。」
「・・・・・」
主任は唖然として天翔が歩いて行った方を見つめた。そこには特殊部隊の総隊長と気さくに話している青年がいた。そして霧島はその言葉が最後だと言うように背を向けた。
天翔は霧島さんから部隊と所轄の指揮権を貰い受け、特殊部隊総隊長の所へ向かった。部隊が待機している場所には1班5人と総隊長、副隊長会わせて12人が待機していた。俺が近づいてくるのを見て総隊長らしき人物が前に出てきた。
「私がP.J.F.A特殊部隊総隊長の吉野守大佐だ・・・ってもしかして碓氷か?」
「吉野さんじゃないですか、おひさしぶりです。」
「久しぶりだなぁ、3年間アメリカにいたんだって?全く連絡くらいよこせよ!」
吉野は大きな声で騒ぎ立てながら俺の肩を掴んだ。それを聞いてか周りの隊員たちが珍しい物を見たように口をあんぐりと開けてこちらを見ていた。おそらく吉野は3年前とかわらず隊員の前では厳しい姿で通しているのだろう。
「すいません、あっちでも忙しかった物で。」
「まぁいいさ。ところで、この事件お前が指揮を取るのか?」
「はい、所轄を含む全権を預けてもらいました。・・・よろしくお願いします。」
「お前が指揮を取る事に文句はないさ。・・・さ、準備にかかろう!」
そう言って隊員達が立ち上がって銃器の点検を始めた。俺はそれを見てから横にあった椅子に座って持っていたノートPCを開いた。しばらく画面を見ていると吉野さんと霧島さんが俺の前にきていた。
「どうかしたか?」
「いえ、なんでもないです。」
キーボードを打ち込み銀行内部のセキュリティシステムに侵入する。そして防犯カメラに接続する。防犯カメラは破壊されていなかったようだ。カメラの映像がディスプレイにどんどん表示されていく。するとそこに一人の目出し帽を被り、ハンドガンで武装した男を見つけた。
「(一人なのか?だけどこれだけの人質を一人で抑えてるとは思えないけど・・・)」
霧島さんもそれを感じたようで「一人・・・?」とつぶやいていた。監視カメラを次々と切り替えていくと金庫のほうに従業員一人と犯人一人が写っていた。そして2階のメインフロアに一人、合計で3人のようだ。人質は全員1階のメインフロアに集められている。
「部隊を三つに割って一気に突入するしかないな。」
「いえ、それは最後の手段です。・・・・・ここは俺の案を聞いてほしいんですけど。」
「ああ、聞こう。」
「まず、部隊で腕の立つ人たちを3人集めてください。俺と1人、2人。これで2つチームを作ります。そして俺のチームが1階のメインフロア、金庫を制圧します。もう1つのチームが2階メインフロアを制圧します。」
俺が話終わると霧島さんと吉野さんは納得したような形で顔を頷けていた。俺もそれを見て銀行の監視カメラのウィンドウを閉じて、コマンドウィンドウを開いて文字列を打ち込む。
「吉野さん、人選は任せます。10分以内に選んでください。」
「了解した。」
そういって吉野さんは駆け足で部隊の方へ走って言った。
多くの中から選ばれた精鋭は男性2名、女性2名だった。
すべての技術に置いて難なくこなす天才、沖田総一郎。
圧倒的なフィジカルを持つ遠藤清隆。
驚異的な集中力を持ち歴代最年少で第一特殊部隊隊長に任命された天才、伊藤鳴。
「今回の指揮を取る碓氷天翔です。よろしくお願いします。」
「この中で君が知らないのは俺だけかな?」
そう言って前に出てきたのは遠藤清隆だ。
「はい、よろしくお願いします。」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。命令には従うさ。」
そう言って笑顔で握手してくれた。すると、横から突然衝撃がきた後に体全体に圧迫感を感じた。横を見るとそこには俺より身長が小さい女性が抱きついていた。
「おわっ、誰だ?」
驚いて顔を見ようとすると彼女は顔を俺の胸にすりつけるようにしてきた。
「やっと、帰ってきた・・・。」
「え?」
「何も言わないで行くなんて!」
上をみた彼女の顔は以前に見た事がある顔、しかし雰囲気から顔立ちから大人っぽさを混ぜ合わせたような出で立ちの、そう。伊藤鳴だった。
「鳴、久しぶりだね。」
「ホントだよ、馬鹿!」
「ごめんごめん。こっちも忙しかったんだ。でも鳴が第一特殊部隊の隊長なんて驚いたよ。」
「天翔に負けてから努力したもからね。・・・今なら勝てるかも。」
「いや、無理でしょ。アハハ。」
「もうっ!」
それを見ていた遠藤は唖然とそれを見ていた。部隊の中で鉄壁と言われる伊藤大尉がここまで誰かと親しくしているのは初めて見る。
「さ、世間話はここまでにしましょう。」
「そうですね。」
話を切り上げてくれた沖田さんにお礼をしてから整列した。
「今回の作戦を指揮する碓氷天翔少佐です。よろしく。」
「沖田総一郎軍曹です。よろしくお願いします。少佐。」
「遠藤清隆少尉です。よろしくお願いします、少佐。」
「第一特殊部隊隊長、伊藤鳴大尉です。よろしくお願いします。」
「作戦を説明します。まず、一回からチームαである俺と伊藤大尉が潜入します。チームβである沖田軍曹と遠藤中尉が2階から潜入。最初にチームβが行動を開始し、2階メインフロアにいるエネミー3を行動不能にしてください。次にチームαが1階メインフロアにいるエネミー1を行動不能にします。そしてさらにチームαが金庫にいるエネミー2を行動不能にします。」
「少佐、質問が。」
「どうぞ、遠藤中尉。」
「敵が無線などで通信を取っていた場合、一瞬の隙でも相手が連絡を取ってしまうと思うんですが。」
「それについては問題ありません。俺の自作の無線電波かく乱装置を設置しています。セキュリティシステム、電力供給システムも俺が掌握中です。なので、俺たちの通信はインターネット通信を使用します。これを自分の携帯とBluetoothで繋いでください、セキュリティも高めてあります。」
「は、はい。了解しました。」
「では、状況を開始してください。」
「「「了解!」」」
解散して各持ち場に向かうところで吉野さんに呼び止められた。
「天翔くん、武装はどうするんだい?我々はサブマシンガンとハンドガンを装備しているが。この状況ではスナイパーライフルは役に立たないだろう?」
「そうですね、ならハンドガンを2丁貸してもらえますか?」
「2丁?フッ、面白いことをするものだ。トゥルーハンドかね。」
「FBIとCIAで学んできたのは伊達じゃありませんよ。」
そう言って天翔は鳴がまつ裏口へと足を早めた。
すいません、登場人物に修正を入れました。