文化祭 2日目 前編
文化祭2日目はスピーカーからの開会の挨拶で始まった。といっても初日のような堅苦しいものはなく簡単なものだ。小坂に監視させていたデサイズのリーダーはそのまま校門から出て行ったらしく、P.J.F.Aの隠密部隊が監視していたがうまく撒かれたらしい。隠密部隊の方は悔しがっていたが天翔自身は逃げられて良かったと考えている。大学内で仕掛けようとしても生徒達がいて不可能だ。
「さて、ここからの選択肢を間違うと大変だな。慎重に行きますかねぇ。」
「慎重って言葉を見誤るなよ、天翔。」
「大丈夫さ、結果よければすべてよしってね。頼りにしてるぜ、悠真。」
「アルバイト代くらいは命はかけてやるよ。」
そう言って俺は悠真に片耳用のBluetoothイヤホンを手渡した。
「これを携帯と同期させて常に耳の中に入れておけ。骨伝導で会話中の相手の声まで分かるようになってる。」
「分かった。」
悠真がイヤホンを同期させ、耳の中にいれると瞬時に通話を知らせるメロディが流れ始めた。
「もしもし。」
「こ〜んにちは、君が天翔くんの友達?俺は小坂亮太、よろしくね。」
「久山悠真だ。よろしく。」
「あぁ〜、君が噂の久山総理のお孫さんか。」
「まぁな。」
「よし、挨拶も済んだな。今日は文化祭2日目だが、また構成員が出てくるかもしれないから小坂は顔認証システムで片っ端から検索をかけろ。俺と悠真は情報を元に各自見回りだ。」
「りょーかい」「OK」
「悠真、なにか予定があるときは『グリム』を通してから行動しろよ。」
「分かった。」
それから俺と悠真は二手に別れ、大学内を回ることにした。大学内はメインストリートと呼ばれる道を中心に大きな盛り上がりを見せていた。グラウンドにあるメインステージではとある集団がコントをして観客を笑いにつつんでいる。自分が出演するライブは今日のクライマックスだ。それまではまだまだ時間がある。それまでになんとかデサイズのリーダーと接触を試みたいというのが本音だ。
「それにしても、今回出てくるかも分からないからなぁ。」
前回の失敗は痛かった。まさか街灯カメラまでもすべてハックして追跡を逃れるとは。
「ところで天翔。おまえ、会長と予定があるんじゃないのか?」
「あぁ、忘れてないさ。12時からな。」
「そうか。」
「なんですなんです、天翔くんはデートですか〜?相変わらずモテモテっすね」
「大学で可愛い人紹介してやろうか?」
「ほんとっすか!?ぜひぜひ!」
「この仕事が終わったらな。」
「よっしゃ!俄然やる気湧いてきたー!」
「現金なヤツだ」
俺は携帯を取り出し、結衣のアドレスを呼び出す。電話をかけるとしばらくして結衣が出た。
「もしもし?」
「結衣、俺だよ。」
「どうしたの天翔?」
「この後時間あるか?」
「うん、大丈夫だよ。何か用事?」
「ああ、この後学生会の梶谷先輩が会いたいそうだ。会ってくれないか?」
「う〜〜ん・・・・・いいよ。分かった。」
「ありがとう。場所はメールで送っておくよ。」
「了解、またね天翔。」
「あぁ、また。」
「あっ!そうだ天翔。」
「ん?どうした?」
「遥香さんにも連絡してあげてね。連絡がなくて寂しいらしいよ。」
「ハハッ、オーケー分かったよ。」
通話をきり、真人さんにメールで連絡をする。
>すまない、この借りはどこかで必ず。
と返事がきた。相変わらず義理堅い人だ。
しばらく回っていると、会長との約束の時間になった。
「グリム、悠真。これから少し抜けるぞ。何か見つけたら返事はできないが連絡はしてくれよ。」
「了解だ。」
「おっけーすよ、デートを楽しんできて下さい」
「うるさいよ」
大学の端にあるカフェにつくと、西蓮寺会長はまだ到着していないようだった。先に注文するのもどうかと思ったので窓際の奥の席に座った。しばらくぼうっとしていると、隣に人の視線を感じ顔を上に上げると、赤いチェックのエプロンをつけたウェイターがこっちをオドオドと見ていた。
「あの、あのあの。ご、ご注文はお決まりですか?」
「ん、あぁ〜。ごめん、人を待っててね。」
「そ、そうだったんですか。ごめんなさい、店長が注文を取りに行けってうるさいもので。」
「いえ、大丈夫ですから。すみませんが、相手がきたら一緒に注文させてください。」
「は、はい。申し訳ありません。」
彼女はそう言うと足はやに厨房の方へと戻って行った。
「なんというか、危なっかしい人だなぁ。・・・でもあんな感じの人が一般的にモテるのかな?」
「うん、そうだと思うよ。」
「・・・・・ッ。驚かせないで下さいよ。西蓮寺会長。」
「フフっ、ごめんなさい。女性と待ち合わせをしているのに別な女性と楽しげに会話してるからちょっとからかってしまったの。」
「彼女はウェイターですよ、俺が何も注文しないので注文を取りにきたらしいです。」
「あら?まだ何も注文していなかったの?」
「ええ、さすがに最初に取っておくのはまずいかと思いまして。」
「あらあら、ありがとう。でも気にしなくてもよかったのに。」
「いえ、全校生徒の憧れである学生会会長と一緒にお茶できるんですから、それくらいは当然の配慮かとおもいまして。」
「・・・皮肉ですか?」
「ちょっとした冗談ですよ。」
先ほどのウェイターを呼び、今度こそ二人で注文をとり、カフェオレと珈琲が届くと西蓮寺さんは話し始めた。
「遅くなってしまいましたが、天翔さん。今回はありがとうございました。研究でお忙しい中、アンケート投票プログラムだけでなく文化祭用の特設ウェブサイトまで立ち上げて頂くなんて。」
「いえ、気にしないで下さい。その代わり会長とお茶できているわけですし。」
「それくらいで本当にいいんですか?・・・・・このお茶は私が約束したわけですけど。」
「ええ、会長と一緒にお話したいと言う人は至る所に居ますから。」
「そ、そうですか。」
「ところで、今日は他にもなにか御用ですか?」
「え?」
「昨日のお誘いの時、僕はお礼だけではないと感じたんですけど。」
「さすが天翔さん、カンが鋭いですね。」
「実は、警察の方から不審人物が侵入している恐れがあるから注意してくれ。との連絡が学生会の方へ回ってきたんです。」
「・・・・・」
「それで、天翔さんには事情をお話しておいて、何か問題が起きたときすぐに連絡してほしいと思いまして。」
「・・・・それくらいならお易い御用ですよ。不審者や不審物を見かけたら学生会と守衛の人に知らせるように友人にも言っておきます。」
「本当にすみません。」
「大丈夫ですよ。・・・・・すみません、時間のようです。これで僕は失礼します。」
「あっ、はい。明日のライブ、楽しみにしてます。」
「あんまりプレッシャーかけないでくださいよ。」
そう言って会長に苦笑いを返す。会長は微笑みを浮かべて見送った。そしてお金をすべて天翔に払わせてしまったことに気づいたのは、彼女がカフェを出る寸前だった。