文化祭 1日目
あれから何事もなく文化祭への準備が進んで行った。個人的な問題点は山積みだが、雫は学校には来ているし、周りともコミュニケーションを取っているようで問題はない。・・・・俺とは話してはいないが。
「それじゃぁ天翔はこの場面で出てきてね?」
だが、このまま放置しておくと後の計画に支障が発生する。それはなんとしても避けなくてはならない。
「・・・・・天翔?」
「・・・あっ、なに?」
突然目の前に美優の顔がアップで映し出された。それに反射的に反応した俺は逃げるように後ろに下がった。美優はそれに驚いたのか、それとも俺が逃げると思っていなかったのか。どちらかは分からないが驚き、二人とも呆けてしまった。
「美優も天翔くんも呆けてないで、打ち合わせの続きやりましょ。」
桃子の声で我に返り、美優は俺の横のマイクの前に戻り、俺はギターを持ち直し練習を再開した。
2時間ほど練習と打ち合わせを行うと、時刻はすでに午後4時を指していた。
「なぁ、これからみんな暇か?」
ギターの健太が上げた声に4人は一斉に目を向けた。
「うん、私たちはこれからすこし服とか見て行こうと思ってるだけだよ。」
「透は?」
「俺は帰って映画を見るくらいかな、そこまで急ぎじゃない。」
「ならこれからみんなで飲みに行かないか?」
「「「おぉ〜、それいいねぇ」」」
どうやらバンドメンバーではこれからの方針が決定したようだ。俺はこれから自宅へ戻り予定が残っている。バンドメンバーには何も言わずに、音響ルームを後にした。
駅前は込み合っている、
制服姿の学生、
スーツ姿のサラリーマン、
ゆったりとした服を来ている主婦。
すべてが紅色に染まって行く。自分自身の心も。
——————文化祭が、始まる。——————
翌日、俺は朝6時に家を出た。電車に乗り、そのまま大学へと向かった。大学内のメインコンピュータルームへアクセスできるラボラトリーの電子錠に携帯を押し付け、ハッキングし中へ入る。中は薄暗い空間が広がっている。端にある一つの端末に座りUSBメモリを差し込む。PCの電源を入れつつF12キーを押し込む。PCはそれを正しく認識し、HDDからOSを読み込まず、USBから天翔の独自開発OSをBOOTした。
キーボードに手を添え、起動したデスクトップにコンソールを呼び出しコマンドを打ち込んで行く。ラボラトリーからメインサーヴァのパスワードを破り、SeepeTrak.exeを混入する。このウィルスはサーヴァに記録される監視カメラのデータをすべてネット上のアングラサイトに転送し、サーヴァに侵入した者が入ればその者をネット上で12時間追跡する。そして指定された時間がくると自ら自分を喰い尽くし、ログを書き換え、自壊するように設定してある。
ウィルスを送り込み、ステルス性を付与し、次にセキュリティセンターへ侵入しラボラトリーのロック解錠履歴を消去した。PCをシャットダウンしUSBを掴み取り外す。
外に出ると日差しが窓から飛び込んできた。携帯を見ると時刻はすでに8時を回ろうとしている。そろそろ学生が準備の為に登校してくる時間だ。天翔は鞄を背負い直し、講堂へ向かった。
講堂の裏に回り、裏口から入って行くと中にはスタッフが何人かと学生会の会長、副会長が開会式の準備をしていた。ドアを開けて中に入ると会長が近づいてきた。
「碓氷さん、先日はありがとうございました。」
目の前にきた会長、西蓮寺佳花さんは深々と頭を下げた。
「いや、そんなお礼言われるほどの事してませんから。」
「そんな!月城さんは2年生なのに情報系研究室で引っ張りだこになっている人なのに、学園祭2日前に端末プログラムの作成と設定をやってもらったんですから。これくらいのことは当然ですよ。」
「俺にとっても貴重な経験でしたし、時間にも余裕はありましたから問題ありませんよ。」
「僕からもお礼をいいます。月城さん、ありがとうございました。」
後ろにいた学生会副会長の梶谷真人にも頭を下げられてしまった。俺は副会長に手を差し出した。
「でも、間に合って良かったです。俺のプログラムも、準備も。これから3日間大変だと思いますけど、情報系や指示とかなら俺もできるので必要になったら使ってください。」
「ありがとう、このお礼はまたどこかで。」
俺と同じ年齢の副会長は恐縮した様子でスタッフの元へ戻って行った。それを見ていると西蓮寺会長が俺のまだ居る事に気づいた。
「西蓮寺さん?」
「いえ、開会式のあとなにか予定が終わりですか?」
「予定・・・ですか?この後はあります。」
「そうですか。なら2日目はどうでしょうか?お暇なら一緒にカフェでお茶しません?」
「俺は構いません。特に予定がありませんので。」
俺が返事をすると、会長は微笑し頭を下げ戻って行った。天翔はそれを見てからきた道を引き返した。講堂裏を出て、表から入り直した。中は人で溢れていて、人垣をかき分けて前の方まで行き悠真の隣に座った。
「生徒会に頼まれたプログラムは完成したのか?」
「まぁね。」
開会式が始まり、会長の挨拶・校長の挨拶etc.....が終わると学生がそれぞれ外に出て行く。高校となると学生でそれぞれ仕事や店が決まっている物だが、俺達の大学は2人以上の班を作り、許可を貰うとそれだけで露店として活動できる。数にも予算にも限度があるので先着で約50組ほどに予定されているのだ。
「悠真、これからどうするんだ?」
「あぁ、俺は学部の後輩と遊びに行く予定だ。」
「・・・・・デートか。」
「うるさい。」
悠真は俺の肩を軽く小突いて外へ出て行く。それを後ろから見ていると肩に手をおかれた。
後ろを振り向くとそこには梶谷副会長が立っていた。
「天翔さん。」
「真人さん、どうしたんですか?」
「実は・・・・・文化祭で時間があるときに結衣さんと一緒に回りたいと考えているんですが、何か良い案はないでしょうか?」
この真人と言う人物はどうやら上谷結衣に恋をしているようだ。俺はそれに干渉することはない。
「そうですね。ならどこかに結衣を俺の名前で呼び出して、真人さんがその場所に向かえば良いんじゃないでしょうか。」
「そ、それは騙したことになりませんかね?」
「大丈夫ですよ。俺に任せてください。」
「そうか。・・・・・度々すまない。」
「いえ、気にしないでください。俺も何かとお世話になるかもしれませんし。」
「分かった。ならまた携帯に連絡してくれ。」
「はい、分かりました。これで失礼します。」
真人さんに背を向け講堂を出て行く。講堂から出る。大学敷地内の建物まで行くとそこには私服姿の学生はほとんど見当たらなかった。大きなワンボックスカーの後ろに立ち、ドアをノックする。するとロック解除音の後にドアが開いた。中に入ると涼しすぎる冷房と風が吹き出してきた。中に入ると男が一人、様々な電子機器の前に座っていた。
「失礼します。どうなってますか?」
「あぁ、天翔くん。今見つけたよ。」
「おつかれさま。さすがだな。」
ワンボックスカーの中にいたのは俺が過去いたアンダーグラウンドの住人である小坂亮太だ。ハンドルネ—ムはGlime War(盗み見戦争)というふざけた名前だ。得意の分野は索敵と追跡。街灯カメラなどを自由自在にハックし相手の場所を割り出す天才だ。
「いやいや、これくらいは余裕ですよ。それに大学なんてセキュリティ甘々だからね。」
「言えてるな」
「それにしても、本当にこいつデサイズのリーダー・・・・・なんですかね。」
今目の前にあるメインディスプレイに写っている男はデサイズのリーダーと言われている男だ。なぜ帝都中央大学の文化祭にこいつは現れたのか。それが謎だが今は監視を続行するほかない。そのために専門のGlime Warを呼び出したのだ。
「動きがあったら俺に直で連絡するんだ。よろしく頼む。」
「おっけーっすよ。」
返事を聞いてから天翔はワンボックスカーを出た。回りに誰もいない事を確認してから再び講堂に向かって歩き始めた。
「この後は美優と最終打ち合わせだな。」
// 雫 Side START //
大学内を散策していると、天翔さんが歩いて行くのが見えた。追いかけて話しかけようと思ったが、どうやら敷地の端の方に行くようだったので後ろから一定の距離を保ち追いかけてみた。
「こっちの方って・・・・・大学の端だから何もないんじゃ。」
潜入時の大学内の地図を思い出してみたが何も無い。すると天翔さんはワンボックスカーの後ろに立ち、ノックをしてから入って行った。
「?」
どうしようか悩んでいると、すぐに天翔さんが出て来た。また後ろからついていくと今度は講堂の事務室に入って行き。出てくることはなかった。
//雫 Side END //