結果と希望 後編
どうして、こうなってしまったんだろうか。5分前までは全員が攻撃に転じようと鳴を中心にフォーメーションを組んで天翔を囲みに行っていた。こちらを補足した天翔は後退した。男子2人組がコンビで天翔を追撃した。女子二人組と鳴はフラッグの方へと向かった。しかし、フラッグの目の前まで到達するとそこには天翔しか立っていなかったのだ。
「そ、そんな!?」
「男子たちは・・・・・」
「もちろん、やられたでしょうね。」
鳴が冷静に返答を返すと二人は顔をしかめ、二人組で突撃していく。だが、だめだ。勝てない。
「私たちは男子とは違うわよ!!」
この二人は成績もトップレベルだ。まだ高校を卒業したばかりだが、スポーツで全国大会まで行った能力は伊達ではない。
「いいね、特攻か。そういうの好きだよ。」
天翔は二丁のハンドガンを交差し、構える。次の瞬間、文字通り天翔は視界から消えたのだ。女子Aは足をかけられ転倒する。次の瞬間には女子Bは天翔の銃で拳銃を撃ち落とされていた。そして足下の女子Aに銃を向ける。女子の拳銃を払い落として天翔は鳴の方を見る。
「残りは鳴だけだね。」
圧倒的なスピード、力、権力などを寄せ付けない技術。これが碓氷天翔と言う人間を創造している。この状況を打破するにはフラッグを取るのが先決だろう。そう考えた鳴は足を後ろに向けた。しかしそこには予想外の人物がいた。雫だ。ハンドガンを構え、鳴に狙いを定めている。構えは固いが、P.J.F.Aに入った時から訓練は欠かさず行っているようだ。
「さて、フラッグを取りに戻る作戦がこうなっちゃったけど、どうする?」
後ろには天翔がいる、しかしその背後で動く影があった。女子Bだ。ハンドガンを撃抜かれただけの彼女はまだ動けるようだ。彼女は女子Aの銃を広い、鳴の合図を待っている。
「そうね。だけど・・・・・いまよ!!」
「はいっ!」
女子Bが天翔に飛びかかる。だが天翔は動かない。次の瞬間、二つの発砲音。胸部に衝撃がきた。私は地面に倒れ込む。女子Bの方を向くと彼女も腹部を押さえて倒れ込んでいる。
「いい線行ってたよ、二人とも。だけど挟んでいるのはそっちだけじゃない。そして雫も素人じゃないんだから。そこをちゃんと考えて動かないと。」
そういうことか、と鳴はつぶやく。天翔が正面の鳴を撃ち、雫は天翔の後ろで動く影を見ていたのだ。そして天翔の発砲に合わせて彼女を撃った。挟まれている時点で、私は負けていたのだ。
『お疲れさま。・・・まさか雫がここまでやれるとは思ってなかったよ。』
突如として上から降ってきた声は放送スピーカーを通して聞こえてきた。展望室を見るとそこには霧島さん、さらに防衛省副長官、北山信隆がたたずんでいた。
「(あれが防衛省副長官か。噂には聞いていたが、まさかここに現れるとはね。)」
ちらっと雫の方を見ると雫は驚いた目で上を見ていた。俺は訓練場の横にある電子パネルで救護班を呼び、鳴たち5人を救護室に運んでもらい、雫と共に、会議室へと向かった
。
会議室には霧島さんと吉野大佐、北山副長官が座っていた。部屋の中に入ると珈琲を出された。それを一口飲むと、副長官から視線が集中した。
「君が碓氷少佐か。」
「はい、碓氷天翔特例少佐であります。本日は北山副長官にお会いできて光栄です。」
「そんなに畏まらなくていい。それに、さきほどの訓練。さすがだったな。噂通りと言う訳だ。」
「ありがとうございます。」
「それで、北山副長官。今日はどのような御用で?」
「うむ、霧島司令官にはそれを言う必要性もある。・・・今日は公安からのタレコミが真実なのかを私自身が確かめにきた。」
「タレコミ・・・ですか?」
「ああ、そうだ。碓氷天翔少佐は米国から帰国したばかりだったな?」
「はい、そうです。」
「米国でなにをしていた?」
「・・・FBIで実務訓練、大学で高適応型自律人工知能の研究です。」
「そうか。・・・・公安は3年前の事件から君を監視していた。」
「・・・・・」
「驚かないんだな。」
「3年前の事件は世界を震撼させました。それはもちろん日本という当事国もです。そしてその当事者集団であるβ NETにたどりつく術をあなた達は知らない。だが、繋がって・・・いや、β NETの実権、アクセス権を握っている人物が目の前にいた。それを監視しない方がおかしいと思っています。」
「・・・・・・」
「ですけど、監視することで何か得られましたか?・・・何も無かったはずだ。俺はネットに繋ぐときも日本、米国の警察に見つかるようなヘマはしないし。リアルワールドで掴める情報も限りなく少ない。・・・違いますか?」
「いや、悔しいがその通りだ。」
「俺は3年前日本を・・・世界を救うために友も世界も裏切りました。だけど、僕はそれを後悔もしていない。なぜなら、それを自分が決断したからです。」
「・・・・・」
「それで、本題がそれましたが。タレコミとは?」
「『碓氷天翔が3年前から開発に着手している兵器についての情報を入手した。』監視官はこの連絡を最後に連絡を断っている。」
「兵器・・・・?」
「そうだ。世界そのものをひっくり返すほどの力を持った兵器。碓氷少佐、なにか心当たりがあるのか?」
「それって俺本人に聞いても無駄じゃないかな?」
「・・・しかしこれ以外に手段が存在しないのだ。」
「なら、日本でも監視をつければ良いと思うよ。俺はなにもしていないんだし。」
「それが無駄だから言っている。君を昔の裁判で吐かれた名言に当てると『君はキーボードで武装すると危険』と言う事だ。」
「うまいこと言うね。」
「だけど俺はキーボードから手を離す事はできない。それを行うってことは世界の成り行きを見放し、打つ手を失うってことだからね。」
「・・・・・分かった。今はこれでいい。」
「霧島司令官、吉野大佐。今日は済まなかった。」
「いえ、滅相もありません。」
吉野がドアを開け、俺と霧島が副長官の後に続く。車が待っている正面玄関まで着くと、副長官は再び俺の顔を見た。
「そういえば、君が雫の上司だと聞いた。」
「はい、そうです。」
「私は君の事をできるだけ信用しようと思っているんだ。娘の事を頼むよ。」
「はい。その信用、裏切らないよう努力致します。」
それを最後に車は発進した。残されたのは霧島、吉野、天翔、雫だ。俺は三人を残し、鞄を持ったまま正面玄関から駅に向かって歩き始めた。
「天翔くんっ!どこに行くんだ!?」
「大丈夫ですよ、霧島さん。P.J.F.Aとの契約はまだ続いてる。契約が続いてる限り俺は何があっても守ってみせます。それと、次のパーティは辞退ってことにしておいてください。監視官が紛れ込んじまったら雰囲気が台無しでしょう。」
「それは・・・・かまわないが。」
「俺はこれから大学に行ってきますよ。学園祭の準備があるんで、それじゃ。」
そう言って俺は大学に向かって歩き始めた。