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第2編 監視される世界  作者: SEED
第3章 新たなる敵
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『あの』話


とある日、上谷結衣は帝都中央大学の広い中庭で早瀬遥香と悠真と昼食をとっていた。


「ところでさ、結衣ちゃんはあの話聞いた?」


突然向かい側に座っていた悠真が話しかけてきた。


「あの話って?」


「あ〜、もしかして結衣ちゃん聞いてないのか。」


「もぅ!もったいぶらないで教えてよう。」


「分かった分かった。・・・なんかね、今年の文化祭で講堂でライブするらしいよ。」


「ライブ?どっかの有名人?それとも学内のバンド?」


「うん、そうなんだけど。ちょっと変則的でね。・・・校内からボーカルを出して、ギターとかは外部のプロが演奏するんだってさ、ほら。結構有名な『REAL BLUE』ってバンドあるでしょ?あそこだよ。」


「え、でもそしたらREAL BLUEのボーカルさんはどうするの?出ないのかな?」


「いや、最初はプロが歌って、次に校内ボーカリストって流れなんだってさ。」


「へ〜、でも悠真さん。よくそんなこと知ってますね。まだ噂も聞いた事無かったのに。」


遥香が当然の疑問をぶつけた。実際、それは私も思っていた。だけど悠真はいろいろなところ、例えば政財界であったり、芸能界であったりと様々な所に精通しているので一足早い情報網を持っているんだと思う。——まぁ天翔には敵わないんだけどね。


「まぁ、俺も運営会の人から偶然聞いちゃったんだけどね。今はそれで噂が持ち切りらしいよ。」


「「へぇ〜〜」」


「あ、このあと運営会にその校内ボーカルリストが出向してくるらしいから。俺も立ち会わないと行けないんだ。それじゃ。」


そう言って悠真が立ち上がろうとすると遥香が悠真に声をかけた。


「悠真さん、今日天翔さんを見ませんでしたか?・・・朝から見てないんですけど。」


「天翔?今日の3限目の講義で第一コンピュータ室にいたけど、そのあとは分からないな。メールしてみたら?」


「え、でも・・・・・いいんでしょうか?」


「なにが?」


「私がメールしても・・・・・」


「うん、大丈夫だよ。あいつそこまで冷たいやつじゃないからね。それじゃ。」


悠真はそう言ってその場を立ち去った。そして遥香は結衣とともにメールの本文を考え始めた。














その頃、噂の本人は3限目の講義が終わったあと、中庭のベンチに座り自分のノートPCをひろげていた。アメリカにいたころに世話になったFBI捜査官からメールがきていた。それに返事を書いていたのだ。


『はい。久しぶりね、カケル。3年振りの日本はどう?こっちは相変わらずリアル関係での事件が絶えないけど、ネット関係の事件がここで増加してきてるの。このまま増えていくことになったらカケルの力を借りることになるかもしれないって長官とかが言ってた。それじゃ、また連絡するわね。 ——ミーシャ——』


「ミーシャも相変わらずだな。」


メールのチェックを終えた俺はPCを閉じて立ち上がった。そろそろ大会議室に行く時間だ。そう思って天翔は立ち上がった。するとPCではなく今度は携帯から着信音が聞こえた。立ち止まって携帯を開くと予想通りメールだった。相手は遥香だ。最近会うことがめっきりとなくなったのでメールしてきたのだろう。



『おひさしぶりです。今は結衣さんと昼食を取っていました。少し前に悠真さんもいらっしゃいましたが、今はどこかへ行ってしまいました。天翔さんとは講義も被らないので久しぶりにお会いしたいです。』


さすが遥香はメールでも読みやすい文を書くんだなと関心してしまった。最近は結衣とも会っていない。仕事の方がかなり忙しくなってきているし、大学の研究でも教授と話し込むことが多くなっている。


『本当に久しぶりだね。最近は講義に出て、研究室に入り浸ってそのまま仕事に行くことが多くなってるんだ。講義と講義の間で時間が開いたときは中庭でコードを書いてるから時間が開いたら来てほしいな。』


返事を書いてから立ち上がった。どうもメールや文通は苦手だ。返事を書くのに3分ほどかかってしまった。



















大会議室に入るとすでに運営委員会と見慣れない顔、親友の顔、REAL BLUEのメンバーがそろっていた。今日の会議は文化祭についての会議と知らされていた。


「うむ、これで全員そろったな。では文化祭運営委員会会議を始めましょう。」


委員長がそう切り出し会議がスタートした。会議は問題なく進行した。俺はこんなくだらない会議さっさと終わらせてコードの作成にさっさと戻りたい気持ちだったが、時々興味ある話題が出てくるので寝るわけにいかない。


「では、次の議題です。文化祭でステージ講演してくださいREAL BLUEの皆さんです。」


「よろしくお願いします。」


REAL BLUEのメンバー構成は至ってシンプルだ。ボーカル:土屋美優。ギター:鈴木健太。ドラム:神崎透。キーボード:小松桃子。の4人グループのバンドだ。最近はチャートランキングでも上位に入賞している有名バンドだ。挨拶したのは女性でありながら代表のボーカル、土屋美優だ。


「そして今回REAL BLUEに講演を行ってもらいますが、もう一つサプライズイベントを上げます。・・・・碓氷天翔さんです。彼にはREAL BLUEのバンドメンバーと一緒に歌ってもらいます。」


「・・・・はっ?」


俺は驚愕した。いったいどうしてそんな話になっているんだ。だいたいプロのバンドだって俺みたいな素人と組まされたら嫌に決まっている。そう思ってバンドメンバーの方を見るとなぜか全員笑顔で俺の方を見て会釈している。・・・・・天翔もつられて頭を下げてしまった。


「碓氷さんが抜擢されたのはREAL BLUEさんたちの希望です。話はそちらの方からお願いいたします。文化祭までまだ日がありますが、皆さんどうかよろしくお願いいたします。」


そう言い残して運営委員のほとんどは退出してしまった。会議室に残っているのは天翔と悠真、そしてREAL BLUEのメンバーだけだ。



気まずい沈黙の中口を開いたのは悠真だった。


「REAL BLUEの方々はこの件にどうして参加してくださったんですか?」


「それは私が強く希望したからです。」


口を開いたのはリーダーであり、ボーカル担当の土屋美優だった。


「私たちREAL BLUEのメンバーは全員がこの大学出身なんです。」


そして美優はちらっと天翔を見た。天翔は足を組んで窓の外を見ている。悠真はそれを見てから天翔に話しかけた。


「天翔は前からこの話、聞いてたのか?」


「あぁ、話を持ちかけられたのは数週間前だ。でもまさか大学の文化祭でとは予想外だったよ。美優本人から連絡がきてたからな。」


「そうか。それで、了承したのか?」


「あぁ。」


「カケルにはアメリカに居た頃に世話になったのよ。」


「へぇ〜、それは初耳だなぁ。」


「俺も初めて聞いたよ。」


「健太と透は美優とは仲いいけど、あんまりそう言う話しないもんねー。自己紹介した方がいいよね?・・・・・私はキーボード担当の小松桃子です、よろしく。」


「俺は鈴木健太、ギター担当してます。天翔や悠真は大学の後輩だし、こんな機会もあったので仲良くできるといいな。」


「え〜と、神崎透です。担当はドラム。俺も二人とは仲良くやっていければと思ってます。」


「最後に、私はボーカル担当の土屋美優です。カケル君とは前から親しいけど悠真くんとは初めてだね。よろしくっ」


「こちらこそ、久山悠真です。天翔とは親友なんだ。俺も健太や透とは仲良く出来ればいいと思ってる。」


「俺は知ってる人もいるかと思うけど、碓氷天翔です。美優とはアメリカで親しくなりました。REAL BLUEとは長い付き合いになりそうなので、よろしく。」



おうよろしく〜、こちらこそっ。などと様々な声で歓迎された。悠真も笑みを漏らしてプリントを整理していた。悠真もREAL BLUEの曲くらいは聞いた事があるんだろう。そういう俺もアメリカの小さな会場で聞いた時からREAL BLUEのファンだ。




(コンコンッ)



話も一段落した所で入り口からノックの音が聞こえた。


「ん?誰だ?」


悠真が立ち上がりドアを開けるとそこには雫が立っていた。部屋の中をのぞくと俺を発見し、パアッと笑顔を見せる。


「か、可愛い!こ、こんにちは。俺REAL BLUEでギターやってる鈴木健太っていいます!」


しかし、その歩みはたった3歩ほどで止まってしまった。健太が立ち上がって雫に近づいて行ったからだ。雫は驚きながらも笑顔で対応していた。


「REAL BLUEって今話題のバンドグループさんですよね?そんな方々がどうして大学に?」


「あ〜、この人には言ってもいいのかな?・・・・・俺達は文化祭でここでイベントライブすることになってるからだよ。」


俺と悠真が頷いたのを確認してから意気揚々と説明を始める。あっちは終わらなさそうだな。そう思って自分のノートパソコンを鞄から出すと視線を感じた。周りをちらっと見てみる。


「・・・・・・・ッ!」


小松桃子だ。俺と視線が交錯するとすぐに視線をそらされてしまった。REAL BLUEのメンバーは男性2人、女性2人。男性はまだ分からないが、女性で美優は気心が知れた友人だから良い。しかしこっちの小松さんは完全な初対面だ。警戒されても仕方ないか。そう考える事にしてキーボードへと指を走らせる。雫は依然と健太と話している。透は健太の隣で会話に混ざっている。悠真はと言うと俺の方をちらちらと見ながら会話に混ざっているようだ。






「(ふぅ、この資料も整理しておかないとな。雫にばかり書類整理を任せるのは悪い。)」


そう思いながら書類の整理を開始した。











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