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第2編 監視される世界  作者: SEED
第3章 新たなる敵
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波乱の予感 下


イタリアンストランで昼食を食べてから、商店街から複合店舗をうろうろしてから結衣の希望で近くのカフェに寄った。


「今からいくカフェはね、私たちの大学で人気のある穴場スポットなんだよ。」


「へぇ、あの大学って言えば結構な人数もいるし、良さそうだな。」


「そうでしょっ?さ、はやくはやく!」


「はいはい。」



結衣に手を引かれて店内に入るとそこは確かにおしゃれな、大学生ウケしそうな店だった。場所も比較的落ち着いた場所に立地しており、入りやすいように配慮がなされている。今ではこんな見えない所まで手を加えている店は少ないだろう。店内に入るとウェイターが窓際の席へと案内してくれた。科学技術がいくら進歩してもこういう所は変わっていない。

案内された席に向かい合うように座り、結衣は紅茶とショートケーキを天翔は珈琲を注文した。


午後3時を過ぎたからか、人が増え始めた。おそらく午後の講義を終えた大学生たちがなだれ込んできたのだろう。窓際にいる天翔たちはそれを横目で見ながら食事とくだらない世間話と今後の予定について話し合った。


「天翔、夏休みになったらさ。旅行に行かない?」


「旅行?」


「うん、そうっ。私たちって今まで一度も旅行に行った事ないでしょ?」


「まぁ・・・・確かにな。」


高校の時に付き合い始めて結衣と旅行に行ったのは一度もない。だが天翔の中には今でも複雑な気持ちが混在しているのだ。このまま以前と同じように結衣とつきあうべきなのか、それとも別れた事にして結衣を危険に晒す事がないようにするべきなのか。


「(問題は山済み・・・か)」


「あれ?もしかして・・・・・・結衣ちゃん?」


天翔の背後から話しかけてきたのは結衣の親友であり、事件の当事者である早瀬遥香であった。




// 早川 遥香 Side START //


妹の碧がお礼にケーキを食べたいと言い出したので遥香は仕方なくお気に入りのカフェに寄る事にした。カフェは意外と混んでいて吸われるか微妙なところだった。碧に無理矢理並ばされると、すんなり窓際の席に案内された。そこで碧が遥香の後ろをちらちらと見ているので遥香も後ろを向いてみた。するとそこには親友である上谷結衣と命の恩人である碓氷天翔が座っていたのである。


「あれ・・・・・もしかして、結衣ちゃん?」


遥香がそうつぶやくと結衣はピクッとすぐに視線をこちらに向けてきた。そして手前に座っていた天翔も振り向いてきたので返事に困り、軽く会釈をしてから結衣の方へと視線を戻した。


「遥香ちゃん・・・・どうしたのこんなところに?」


「妹が大学まで来たからね、ここのカフェ案内してたの。」


「へ〜、妹さんいたんだ。・・・・・わ〜、かわいいっ!」


天翔も妹の碧の方へとちらっと視線を向けると、天翔は少し目を大きくして驚いてから結衣の方へと向き直った。


「あっ!・・・・・もしかして、さっき大学で会った親切な方ですかっ!」


後ろにいた碧がいきなり前に出てきて天翔の手をつかみ取った。天翔は驚きながらもポーカーフェイスで対応を行う。


「やっぱり、さっきの制服の子だったのか。でも驚いたな、遥香さんの妹さんだったなんて。」


「「・・・・・・」」


・・・・・ここでの沈黙はおそらくなぜ遥香のことを名前で呼んでいるのかということについてだろうがここにいるメンバーはあえてスルーすることにした。


それから遥香は結衣と、碧は天翔と仲睦まじく会話を行っていた。しかし遥香と結衣の視線に少し毒があるのはご愛嬌というものだろう。


「天翔さんはおつきあいしてるんですか?」


「「(ピクっ!))」」


奥にいた二人が反応したのを感じながら天翔は用意していた台詞を吐き出した。


「いや、そういう特定の相手って言うのはいないんだ。それに俺みたいな人に合う人はいないと思うよ。」


「へぇ〜、そうなんですか。とってもモテそうに見えるんですけど。」


「ハハッ、そんなの気のせいだから。」


「(へぇ〜、天翔くんって恋人いないんだ)」


「・・・・・・・・」


様々な思いが交錯しながらカフェでのひと騒動は幕を閉じた。



// 早瀬 遥香 Side END //



奥の席に早瀬遥香と先ほどの高校生が座ったのは天翔は最初から気づいていた。しかし天翔は自分から話しかけるつもりは毛頭なかった。そのためずっと視界の端で遥香を捉えていると、遥香が結衣に気づいた。


「あれっ・・・・・もしかして、結衣ちゃん?」


天翔の後ろの方から声をかけられた。天翔は自分にかけられた声ではなかったために反応せず、結衣の反応を見ていた。正面にいた結衣はピクっと眉を動かしてから通常通り親友への対応を始めた。


「遥香ちゃん・・・・・どうしてこんなところに?」


「妹が大学まで来たからね、ここのカフェ案内してたの。」


そういって遥香は隣に座っていた制服の少女を紹介し始めた。


「初めまして、早瀬遥香の妹の早瀬碧ですっ!」


勢い良く頭を下げた少女はまさに現代の高校生と言った少し軽い空気を纏っている。一方天翔はその自己紹介を聞きながら顔を早瀬姉妹の方へは向けずに珈琲を飲んでいた。


「へ〜、妹さんいたんだ。・・・・・わ〜、かわいいっ!」


結衣はそう言って後ろのテーブルへと移動した。それによって天翔もそちらへ移動しなければ不自然な格好になってしまった。仕方なく結衣と一緒に隣の席へと移動する。すると碧が天翔の顔を確認した瞬間、パアッ!と顔を明るくしたと思うといきなり正面に回り込み天翔の手を握った。


「あっ!・・・・・もしかして、さっき大学で会った親切な方ですかっ!」


「やっぱり、さっきの制服の子だったのか。でも驚いたな、遥香さんの妹さんだったなんて。」


天翔もあえて親しげな対応をした。それによって結衣と遥香がどんな反応を見せるのか見てみたかったのだ。予想通り結衣と遥香は冷酷な氷柱のような視線を天翔に向けていた。それを苦笑いしながら横目で見てから目の前の制服の少女に視線を戻した。・・・といっても視線をずらしていたのは一瞬のことだったから少女には分からなかっただろう。



遥香は碧と、天翔は結衣と雑談を少し交わしているとさらに爆弾が投下された。


「天翔さんはおつきあいしてるんですか?」


「「・・・・・」」


碧、天翔以外の全員がフリーズした。全員と言っても結衣と遥香の二名だがテーブル全体の空気を凍らせるには十分な雰囲気だった。しかし、天翔はそれを気にもせず———実は胃が焼けるような痛みにさらせれていた———碧の質問に答えた。


「いや、そういう特定の相手って言うのはいないんだ。それに俺みたいな人に合う人はいないと思うよ。」


この時、結衣の心境は言わずとも知れたものだった。


「へぇ〜、そうなんですか。とってもモテそうに見えるんですけど。」


「ハハッ、そんなの気のせいだから。」


「(へぇ〜、天翔くんって恋人いないんだ)」


その三者三様の気持ちを知らぬ話題の本人は窓から次の『計画』について思考を巡らせた。
























「さっきの店、おしかったな。大学で穴場って言われてるだけあったよ。」


「うん、そうだね。」


天翔と結衣は先ほどの店で早瀬姉妹と別れて予定通りウィンドウショッピングに勤しむでいた。もっぱら結衣が雑貨用品を見たかったらしい。天翔は自分のPCの部品を見たかったのだが、女の子とデートしているときにPC用品を見るほど無作法ではない。結衣はどこか浮かれた雰囲気で店先のウィンドウを見ているが、時々こちらをちらっと確認するように見ている。さすがに気になってきた。


「結衣、さっきからちらちら見てきてるけど、どうかした?」


結衣はビクッと肩をふるわせると気まずそうな顔をして振り返った。


「・・・天翔、暇じゃない?」


「全然。」


「そ、そっか。ならいいんだけどね・・・」


結衣と天翔はそれから普段どおりショッピングを楽しんだ。結衣の家に帰る頃には日がた傾いていて、真っ赤な夕日を天翔たちを照らしていた。



結衣と天翔が住んでいる住宅地は何度か再開発が行われていたが、生まれた時からそこに存在していた展望公園は自治体の意思によって残されていた。


「相変わらずココの景色は綺麗だな。」


天翔は数段ある階段を登って鉄骨の展望台の上に上がった。結衣もそれに続いて登ってきた。展望台の上から見る景色は、この町を一望できる。そして横に伸びている砂地の坂を上れば2年前にできた天文台がある。


「そうだね、再開発して景色は変わっちゃったけど、この場所は変わらないね。今日さ、碧ちゃんにあったでしょ?」


「ん?あぁ、あったな。」


「碧ちゃんのこと見た時ね・・・・・」


「沙紀のこと思い出した?」


結衣がすべてを言い終わる前に天翔は言葉を遮り、自分自身が感じていたことをつぶやいた。


「天翔も・・・・・思ったんだ?」


「あぁ。・・・結衣は沙紀と話した事も会った事も少なかったけど、俺と悠真は小さい頃からずっと一緒だった。そして俺は沙紀を好きになった。テロリストは世界に蔑まれているが、その本質は国家と一緒だと思うんだ。だけど、その『目的』にたどり着くまでの工程が間違っているだけなんだ。」


天翔の言葉は周りの空気を振動させながら虚空へと消えて行った。結衣もそれを感じながら虚空を景色のさらに向こう、虚空を見つめているような目をしていた。


天翔はパソコンという機器に執着しているように見えるが、決してそうではない。天翔は幼少の頃から両親が海外で家を開ける事が多く、しかし兄弟はいなかった。身寄りになる人は存在せず、いつも周囲を観察し、警戒してきた。そんな時技術革新を迎えたばかりのコンピュータに出会った。天翔は父にそれを貰うと一心不乱にディスプレイへと向かって言った。家にいるときはディスプレイの先にある知識を少しでも得ようと何時間も見つめ続けた。しかしリアルでの生活を疎かにはせず、今まで以上に学校の友人達と交友を深めた。いつのまにか周りには親しい友人が溢れ、減るかと思われたコンピュータと接する時間も逆に増えて行った。


「結衣・・・・・ちゅっ」


「わ、わ、わわわっ!ど、どうしたの天翔?」


「なんか、キスしたくなっちゃった。」


「・・・・・もうっ」


俺がそう微笑みかけると結衣は顔を下に向けた。だが、セミロングの髪の間から見える首筋は真っ赤になっていた。






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