波乱の予感 上
恋愛描写って難しい
「おはようございます、霧島さん。」
「ん?・・・おぉ!天翔くん。もう大丈夫なのか?」
「ええ、キズも塞がりましたから。今日から通常出勤ですよ。」
「そうか。無理しないでくれよ?」
「その辺は雫がカバーしてくれるから大丈夫ですよ。・・・・・あれでよくできたパートナーですから。」
「ところであれから結衣さんは大丈夫かい?」
「・・・・・もう、大変ですよ。記憶が戻ってから病室にいるときも退院してから出かけるときも四六時中ついてくるんですから。」
「まぁ、今までの時間を取り戻そうと必死なんだろう。・・・君自身大変なのは分かるが少しは気にかけて上げなさい。」
「もちろん分かってますよ。これで失礼します。
霧島さんに挨拶したあと天翔は司令部を出て自分のオフィスへと戻る。オフィスに戻ると雫がデスクに座って書類の整理をしていた。横を通りすぎて自分のデスクに座る。天翔に気づいた雫はファイルを持ってデスクの前に近づいてくる。
「碓氷さん、今日は黒田情報官からの面接予約が入っています。時間はどうしますか?」
「昼過ぎぐらいに合わせておいてくれ。場所は合わせると連絡を。」
「分かりました。・・・・・おつかれですか?」
「ん?・・・あぁ、そうでもないんだ。ちょっとね。」
そう、今考えてるのは別件だ。今までの事件も完結させることができた。だがおそらくその裏にはまだ大きい闇が隠れている。これを暴かない限りこの一連の事件は続いて行く。
「β NETに繋いでみるかな。」
β NETのメンバーとして今まで何度か接続はしていた。だがログをみるだけでメンバーと会話したのは数える程度だ。ここいらでナンバーズから各々情報を得るのもありかもしれない。
「雫、昼飯でも食べに行こうか。」
「あっ、はい!」
昼食を食べたあとは午前の続きをして、事務作業で終了した。そのあと天翔は雫に別れを告げ、自宅へと戻った。自宅は本部から電車に乗って約30分ほどの場所にある。窓から帰り道、電車の中から見る都会の景色は、どこか、騒然としていて好きだった。
騒然とした東京の街並みを眺めて家に帰る。すると家の中には結衣が白色光に包まれる光の中で横になって寝ていた。
「しかも、俺の布団でかよ。・・・俺はどこで寝ればいいんだよ。」
寝室を覗いて現状を理解した俺は寝室の電気を消してそのままリビングへと入っていく。結衣が記憶をなくす前、つまり学生時代もこういうことはまれにあった。天翔の家で結衣が天翔を待っていると布団で寝てしまうのだ。そういうときは天翔がソファの上で寝ていた。
リビングの電気を消してソファに寝っころがると眠気はすぐにやってきた。
翌日は休日だったせいか油断し、目覚ましをかけなかった。特にこれといった用事もなかったので問題はないが、例外と言って結衣が止まっていることを忘れていたのだ。
「ん?・・・・・」
深い闇の中から意識が浮かび上がる感触の中、重たい瞼を持ち上げ目を開けると目の前に結衣の顔が浮かび上がってきた。さすがにこれは天翔も驚き、ソファから転げ落ちそうになった。
「ゆ、結衣!?・・・・・ど、どうしてここに。」
結衣はすでに起きていたらしく、俺の顔を見つめている。
「・・・・・・・・・・・・」
「ゆ、結衣?」
無言の視線の中結衣の名を呼ぶと結衣は頬を膨らませた。
「なんで待ってたのに一緒に寝てくれなかったの?」
「・・・・・え?」
「今日は天翔と一緒に過ごそうと思って大学終わってから家に来てみたら仕事でいないし夜一緒に寝ようと思ってベッドで寝てたら天翔はソファで一人で寝てるのが信じられない!!って言ってるの!」
「あ、ああ。だって、一緒に寝たら起こしちゃうかなと思ってさ。」
「・・・・天翔はそんなこと気にしなくていいのに。」
「うん、ごめん。」
天翔は小さいくなっている結衣の体を抱きしめる。結衣はそれが心地いいのか俺の胸に頬を摺り寄せてくる。・・・どうやら機嫌を直してくれたらしい。今日の予定は何も入れていない。
「結衣、今日はどこかに出かけるか?」
その言葉に結衣はぴくっと肩を動かしてから上目使いで天翔の目を見た。
「で、でも今日仕事は?」
「今日はオフなんだ。先日の件でも働いてたからね。上層部にさすがにそろそろ休暇をとれってせかされたんだよ。」
まぁせかされたといっても上層部の人間は天翔の腕を信頼しているからぜひ休んでほしいが仕事もしてほしい。というなんとも言えない気持ちで休暇をするように提案したのだろう。だが、結衣の反応はイマイチと呼べるものだった。
「で、でも今日は・・・・・」
「何か用事があるのか?いいよ、言ってごらん。」
結衣の頭に手を置き、優しくなでながら優しい声で話しかけた。それに結衣は体を少しくねらせて天翔の顔を見た。
「今日はどうしても取らなきゃいけない講義が午前中にあるの、だからね・・・・ご、午後からでもいいかな?」
「・・・・・・なんだ、そんなことか。いいよ。結衣の予定が俺は優先だがら合わせるよ。お昼は一緒にたべよう。午後13時に大学の正門前でいいかな?」
「う、うん!ありがとう天翔っ!」
顔から笑顔を振りまいて天翔の胸に飛び込んでくる結衣は高校の頃に戻ったようにかわいかった。
結衣が大学に行ってから天翔は部屋の掃除をし、自室のベッドで寝っころがり、窓から雲一つない空を見つめていた。天翔の日常は忙しい、日々の情報調査に企業への侵入検査、対抗プログラムの作成など家でもやることはたくさんあるのだ。だが今日は仕事をする気分になれず、天翔には珍しく何もせずに時間を過ごしていた。
「こんな風に休みをすごすのもいいなぁ。」
つぶやいてから目を閉じて迫りくる睡魔に身をゆだねた。
フッと目覚め、まぶしい太陽光に目をしかめながらも枕元にある携帯で時刻を確認する。現在の時刻は11時50分。そろそろ大学へ向かえばちょうどいい時間帯だ。
玄関を開けてマンションの廊下に出るとそこは部屋の中とは違う世界のように感じられた。まぶしい太陽、肌の上を滑空していく優しい風、隣の家が昼食を作っているのだろう匂い。そこには世界の匂いがあふれていた。
鑑賞したい気持ちを断ち切って大学に向かう。道のりは覚えているので問題なく打擲した。時刻は12時30分。ちょうどいい時間だ。守衛の人に会釈をして大学の正門の端っこに寄りかかって結衣を待つ。この時間は講義の休憩ともかぶっているようで私服姿の生徒たちが門を出たり入ったりしている。そしてその人々は皆天翔を見つめていく。
「(こんなところで待ち合わせするとやっぱり変なのかな・・・?)」
そう考えながら結衣を待っている。・・・・・実際は天翔の顔に見とれていた人が大半なのだ。天翔の顔はお世辞を抜きに言ってもかなりかっこいい。モデルになれそうな勢いだ。だが本人にそれは理解できていなし、気にしたこともないのだ。
ニュースサイトを開いていた携帯から顔を上げると前のほうに一人の女性・・・少女が立っていた。その少女はおそらく高校生くらいなのだろう。清楚な黒髪ロングでセーラー服を身にまとっている。現代の東京ではまさに絶滅危惧種な風貌だ。それになぜ高校生がここにいるのかはわからないがどうやら困っているらしい。
ちょうど人の波が途切れたところで周りに生徒はいない。仕方ないと腹をくくった天翔はその少女に近づいた。
「どうかしたんですか?」
天翔の語りかけた言葉に少女はびくっと全体を弛緩させてから振り向いた。
「え、えっと・・・・事務室に用があるんですけど、場所がわからなくて。」
もじもじとしていたが、会話をしてくれたことに安堵した。頬が赤っぽいのはこの真夏日のような日差しのせいだろう。水分を取ることを進めようとしたがさすがにそれはお節介だと思いやめた。
「それなら案内しますよ。その場所なら知ってるんです。」
「ほ、本当ですか!?」
「はい、こっちですよ。」
そう言って天翔は目的の場所まで案内して制服姿の少女と別れた。
―――早瀬 碧 Side START―――
「ふぅ~、緊張した。男の、しかもあんなにかっこいい人に話しかけられたからびっくりしたよ。でも大学ってやっぱりかっこいい人がいるんだなぁ。」
「碧っ、ごめんね~。ありがとうっ。・・・今日事務の人に提出する書類忘れちゃって。」
「いいよ、おねえちゃん。今日は高校の職員の理由で私も休みだったし。」
「?それならなんで制服なの?」
「・・・・やっぱり大学って学校だから制服のほうがいいかな~って思って。」
「フフフッ、やっぱり碧ってば真面目さんだね。」
「遙香お姉ちゃんがいい加減なだけだってっ!」
「ところで碧、さっき誰かと一緒に歩いてなかった?」
「あ、うん。道に迷ってたらすっごいかっこいい人が案内してくれたの。・・・・あっ!?名前聞くのわすれちゃった。」
「そんなにがっかりしないのっ。妹の一目惚れの相手くらい見つけ出してあげるわよ。」
「そ、そういうことじゃなくて!!」
「満更でもなさそうだけど~~♪?」
「お、おねえちゃん!!」
―――早瀬 碧 Side END―――
少女を案内した天翔は再び正門前に戻り、そこでの時間潰しを再開した。だがとてもいいタイミング———にしてはタイミングが良すぎる———で結衣が校舎から出てきた。
「おつかれ、結衣。」
「うん、またせちゃってごめんねっ。」
「気にしなくて良いよ。・・・・・ところで、これからどうするんだ?」
「予定としてはお昼を食べて、買い物をして。あとは天翔とイチャイチャってのが私的にベストかな・・・?」
「よし、それならさっさと行こうぜ。」
そういって天翔は結衣の手を取って東京の町に入って行った。